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大団円

 薄水色の空の下、桜の若葉が揺れている。そんなか、穂乃香は人の少ない公園のベンチにぼんやりと腰掛けていた。


 あれから牧村は別の所からも傷害や恐喝で訴えられ、挙げ句の果てには定期点検で顧客の車両を故意に傷つけて修理代を水増し請求していたことも発覚したため、当面は外に出られない状況になった。


 美優の父親は入院後徐々に回復し、リハビリにも積極的に参加している。母親は家に戻り、ときおり見舞いにもついてくるようになったそうだ。


 そして、美優本人は――


「穂乃香さん、お待たせしました」


 楽しげな声に顔を向けると、美優がはにかみながら手を振っていた。

 黒いショートボブに控えめな化粧、清楚な印象を受ける紺色のワンピース。以前の姿が嘘のように派手さはない。それでも、以前よりずっと魅力的に見える。


「すみません、せっかくのデートなのに寝坊しちゃって」


「気にしないで。時短になったとはいえ働きながら夜間大学、しかも教職コースなんて大変なんだし」


「たしかにちょっと忙しいですが、これも夢に近づくための一歩ですから」


「そっか。なら頑張らないとね」


「ええ! せっかく穂乃香さんのおかげでここまで来られたんですし!」


「いや、美優が頑張ってきた結果でしょ」


「ふっふっふ、『不幸になるならないは、全部自分の責任』って言い放った人にそう言われると、なんだか誇らしいですね」


「う……、またそんな昔の話を持ち出して……」


「あはは。ごめんなさい」


「昔の話ついでに、失禁のことを今さらバラしたりしないでよね?」


「大丈夫ですよ。穂乃香さんが浮気しないかぎり」


「それなら、バラされる心配はないか」


 悪戯っぽい笑顔を浮かべる美優の頭を撫で、穂乃香はゆっくりと立ち上がった。


「でも、心配だから久しぶりに『口止め』でもするとしますか。何か食べたいものはある?」


「じゃあ、クレープが食べたいです!」


「分かった分かった。じゃあ、行こうか」


「はい!」


 温かく穏やかな風に吹かれながら、二人は手をついないでクレープ屋へと向かった。

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