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フラマンタスの刃4

「結局何も起きなかったな。噂の真紅の屍術師も、俺にビビってるかもしれないな」

 傭兵コモドが言った。

 王都の門扉が見える。門は開かれ、中に入ろうと身分証明をしている列にフラマンタス達も加わった。数か月ぶりの王都だ。故郷では無いが、ここで教会戦士として成長を重ねて来たことを思えば、フラマンタスにとってここは第二の故郷ともいえる。だが、フラマンタスは安心などしていなかった。コモドの言う通りなのだ。これまでは行く先々でゾンビ騒ぎがあったが、今回は何も起きなかった。と、言っても来た道を戻っただけだ。ゾンビとなって人一人すらいなくなった町や村もあった。真紅の屍術師を斃さねば、この世の中は自我を持たない凶暴な死人だけとなり、やがて朽ちて行くだろう。そのような世界の終焉など望まない。幾つも命を弄ぶ真紅の屍術師が許せなかった。

「あ、あなたは」

 列が進みフラマンタス達の出番になると、番をしていた兵士が驚いたように目を丸くした。

「そう、傭兵コモド様だ」

 コモドが得意げに言ったが兵士はマリアの方を見ている。

「通していただけますか?」

 マリアが微笑んで言うと、兵士は頷いた。

「なんでぇ、俺のことじゃなかったのかい」

 コモドが不満げに言う。

 そうして王都の門を潜ると彼は言った。

「じゃあ、約束通り教会戦士フラマンタス殿を王都まで護衛できた。俺の役目はこれで終了だな?」

「ええ、ありがとうございます、コモドさん。どうぞ、お元気で」

 マリアが言うとコモドは手を振り振り、尻を振り振り、去って行った。子供が一人コモドの真似をして御尻を振っていたが、母親に怒られていた。

「では、私達はギルバート神官長に会いに行きましょう」

 王都の広い街並みを見ると、フラマンタスは途端に不安になる。もしもこの地に真紅の屍術師が現われ、悪戯をされたら。笑顔の人々の往来を見て、フラマンタスは自分はここに長く留まるべきでは無いようがした。

「大丈夫ですよ、ここは教会戦士団も王国騎士団もいます。さぁ、参りましょう」

 フラマンタスは促されて歩き出す。マリアが気付くほど鉄仮面にも怯えが見えたらしい。らしくないな。

 王城へは大通りを真っすぐ行き、坂を上がる必要があった。だが、教会戦士団の本部は平地にあった。西のスラム街とは正反対の東の道を行く。通りは静かだった。教会戦士の同僚達がそれぞれ巡回していた。前はこのようなことは無かった。ギルバート神官長に何か懸念があるのだろうか。それも問うべく歩んで行くと、大きな大聖堂が見えて来た。

 入口にはフル装備の教会戦士が六人立っていた。

「通していただきますよ」

 マリアがそう言うと教会戦士達は道を開いた。マリアは顔が利くのだろうか。それとも特別な権限を得ているのだろうか。すんなりと入り口を通ることが出来た。だが、誰もフラマンタスに声を掛ける者はいない。慣れてはいるが、少し不穏な気配を感じた。むしろ教会戦士達はフラマンタスをフルフェイス鉄仮面の下で胡散臭げに見ているような気がした。

 窓から光りが差し込む明るい廊下をマリアに先導されてフラマンタスは歩んでいた。途中で武装をしていない白衣姿の者達とすれ違った。彼らこそ、ワクチンの開発者、地下で仕事をしている者達であった。

 大きな廊下を真っすぐ行くと、扉が開け放たれていた。

 教会戦士達が集い、祈りを捧げる広間だ。長椅子が寸分の狂いも無く置かれている。その先の祭壇に目的の人物はいた。

「戻りました、ギルバート神官長殿」

 マリアが言うと、ギルバート神官長はフラマンタスには劣る巨体を歩ませてきた。

「よくぞ戻った。シスターマリア、それにフラマンタス」

 ギルバート神官長は歴代の神官長の中でももっとも若くしてその地位に就いた人物だった。年は三十代後半ぐらいだろうか。生き生きとし、白銀の鎖鎧に身を纏っていた。

「神官長、私に戦士団の団長など重荷が過ぎます」

 さっそくフラマンタスは言った。

「まぁ、落ち着けフラマンタス。書斎へ行こう」

 ギルバート神官長は自分の伸びた黒ひげを摩り、フラマンタスに笑いかけた。

 不承不承フラマンタスは再び聖堂の中を歩んだ。

 教会戦士達がフラマンタスを見てひそひそと鉄仮面越しに話していた。

 良くは思われてない。やはり戦士団の団長就任の件だろう。

 書斎に着くと、フラマンタスとマリアは椅子を勧められた。

「ギルバート神官長、戦士団の団長の件ですが、もう一度言いますが、私には荷が重すぎます。私は一人の戦士として生きて行きたいのです」

 ギルバート神官長はその言葉を聴くと頷いた。

「分かった、フラマンタス、その件は無かったことにしよう」

 あっさりギルバート神官長は手の平を返した。そのことにフラマンタスは驚きながらも頷いた。

「では、私はまた旅に出ます」

 フラマンタスが言うとギルバート神官長は頷いた。

「それが良い。だが、シスターマリアには同行してもらおう」

「何故です? 私は独りで充分です」

「お前が戦っている間、誰がワクチンを守るのだ?」

「彼女を荷物持ちにしろと?」

「まぁ、そういうことだ。よろしいかな、シスターマリア?」

 ギルバート神官長が問うとシスターマリアは頷いた。

「お任せ下さい」

 結局、無駄足を食っただけだったようにも思える。ギルバート神官長はこのフラマンタス自身の口から戦士団の団長の辞退の言葉を聴きたかっただけなのだろうか。

 不意に廊下が騒がしくなった。

「ギルバート神官長!」

 教会戦士が一人飛び込んで来た。

「どうした?」

「はっ、西地区のスラム街で大量のゾンビが発生、民衆を襲っています」

「今すぐに部隊を派遣し鎮圧に努めよ!」

「はっ!」

 教会戦士は去って行った。

「ギルバート神官長、私も向かいます」

「私は許されぬことをした」

「は?」

「何でも無い、さぁ行け!」

 神官長に言われ、フラマンタスは頷き、駆けたのであった。

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