6/君の能力は
「冒険者ギルド認定書を見て、知ってるだろうけど改めて。俺の名前はカイト。盗賊スキルを持ってる人間で、開花してるのは「隠密」「瞬発」「偽装」「転送」で、バレてると思うけど、俺は元いたパーティーに追放された。で、ここに来た。」
盗賊スキルを持っている人でも使える能力に個体差がある。そして俺は今言った4つの能力を持っている。
偽装のスキルは対象の人物に物を誤認させるスキルで、転送は半径2m以内に限り、物を別の場所に移動させることができる能力だ。
「私も改めて言おう。私はシュピーキャ。獣猫族で盗賊のもんだ。開花してんのは「隠密」「偽装」「煙幕」「透視」だ。」
通常、何かのスキルを持っている人にはそのスキルに対応した多くの能力の内、4つの能力を持っている。
俺が持っていなくてシュピィが持っている能力は「煙幕」と「透視」。「煙幕」はその名の通り、あたりに視界を遮る白い煙を放つ。そして「透視」は、壁一枚越し程度ならその先を見ることができる能力だ。
俺が整理をしていると、料理を作っていた店主の女性が話しかけくる。
「私も一応紹介しておくよー。私はマルシャ。見ての通りバーのマスターだよー。私が持ってるのは創造スキル。で、能力は「料理」「生成」「加工」「商談」だよー。あ、一応言うと人間ね。」
人間用スキルには様々なものがある。代表例を挙げるとすれば「剣士」「賢者」「白魔法」「弓」、そして「創造」だ。
創造スキルは他のスキルと違い、基本的には戦いに向かないスキルであり、サポートや生活に特化したスキルである。
このスキルは一見すると弱いスキルであると思いがちなのだが、
能力を使えばボロボロになった装備を一瞬で直すことや食べたものにバフをかける料理を作ることができるため、
このスキルを持った人がいないパーティーは冒険者ギルドにはほぼ存在しないと言われている。
「ちなみになんだけどー。この部屋に来てるならさっきあったはずの、あっちで洋服屋をやってるのは私の姉さんで、名前はコメルシャ。姉さんも私と同じ創造スキルの使い手で、「料理」の能力が「裁縫」の能力になってる以外は、私と同じ能力だよー。あ、姉さんも闇社会ってやつの仲間だから、カイトくんも、安心していいからねー。」
姉妹揃っての創造スキル使いか。冒険者ギルドに行けば簡単に高いパーティーに行けると思うがなぜそうではなく闇社会にいるのだろうと、俺の中でまたひとつ疑問が生じた。
しかしやはりそんなことを聞くのは野暮だという考えがあり聞けないでいると、料理が完成したようで料理を出される。
「はーい。シュピちゃんのお気に入りのお酒、カルテットワールドと、ハンバーグよ。」
「え?ハンバーグ!?」
俺は驚きのあまり声を出す。
「なんだ?ニーちゃんハンバーグ好きじゃないのか?」
「いや、バーでハンバーグがでるって......あんまり店に入らない俺でもなかなかないことはわかるぞ....。」
俺の言葉を聞き、マルシャが頬に手を当てる。
「私はねー。私が食べたい物をメニューにするんだよー。」
「な、なるほど.....。」
今になって書かれているメニューを見ると、そこにはオムライスや回鍋肉など、行って仕舞えば一貫性のない商品が並んでいた。
「はは、すごいですね....。」
「まーまー。私のハンバーグは絶品なんだからなんでもいいじゃないかー。ほら、食べて食べて。」
「いただきます。」
ハンバーグにナイフを入れると、そこから肉汁が溢れ出し、焼けた肉の綺麗な色と合わさり、俺の食欲をそそらせる。
そしてその切った肉を、口にゆっくりと入れる。
「ん!美味い!」
その肉はここがバーだということを忘れさせるほどに美味かった。
ハンバーグの肉の旨みが最大限まで引き出されたような味に、俺はもはやただ食べ進めるしかない。
「んー!やっぱこれだよなー!」
横で食べているシュピィもやはりいつも食べているだけありこの味が好きなようで、食べている間、ずっと笑顔を作っている。
「そうでしょそうでしょー。やっぱり食べてる人の笑顔を見るのは最高だねー。」
マルシャもそれを見て笑顔を作る。
「あれ?ちょっと待って。」
俺はなぜかこのタイミングで疑問に気付く。
「ん?どしたんだニーちゃん?」
そう言ってシュピィは今度は何も分かっていないような顔を作る。
いや、というよりもそう見えている。
シュピィはフードを被っているため、顔が見えにくくなっている。それなのにさっきから俺はシュピィの表情を完璧に感じ取っていた。
それはなぜだ?
「そのフードって.....。」
俺がシュピィに質問すると、シュピィは自慢げに話を始める。
「このフードは服屋のコメルシャの「裁縫」で作った本体に、マルシャの「加工」と私の「偽装」のスキルを組み合わせて作ったお手製の最強の盗賊アイテムだ。このフードを被ってればスキルの力で絶対に顔がわからないようになっている。しかも仲間への情報伝達用に表情は分かる優れものだ。凄いだろ?」
なるほどそういうことか。だからシュピィがフードを被った瞬間から金髪になったように見えたし、表情が分かるのか。
「すごいな、それ。それって、お金かなんか払ったら、俺の分も作れるのか?まあ、今は飯代くらいしか持ってないけど...。」
そんな優れものとなると、さすがに俺も欲しくなってしまう。
「もちろんだよー。と、いうか、今回は仲間になった記念ということでー。無料で作っちゃうよー。ね、シュピちゃんもそれでいいよね?」
「ああ!良いぜ!」
「本当か!?ありがとう!」
なんてこった。こんな美味い話があっていいのかってくらいのありがたい話だ。
「姉さんに伝えておくよー。何色がいい?シュピちゃんが白色だからおそろいにするー?それとも好きな色かなー?」
「うーん。そうだな....。」
色か。それが変えられるとは思ってなくて考えてなかった。
そうだな、これからはあまり目立たない方がいいだろう。仮にも闇社会に入ってしまったのだから。
それなら俺が望む色は一つしかない。
「黒で頼む。」
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