3/少女に手を引かれる
冒険者ギルドで情報を見たことがある。
獣猫族、それは魔族の中の一つの種族だ。
通常は金髪をしているが、たまに変異種もいると言われている。最大の特徴は獣の耳を持っていること。
その情報が確かなら、目の前にいる女、いや、どちらかといえば少女と形容した方がいいと思われる少女は、確かに魔族。
だが魔族は基本的には町には来ないはずだ。ほとんどは町から外れた森や魔族の村に住んでいて、基本的にそこから出ないし、そんな話は冒険者ギルドでも聞いたことがない。
ーーーーじゃあなんでこの少女はこんな所にいるのだろう
考えを巡らせていると、少女が言う。
「驚いたようだな。ま、これで私が人間じゃないことは分かったろ。用が済んだなら、私はこれで。」
「あ、ちょっと待って。」
なぜ魔族がここにいるのか気になっただけという好奇心で引き止めてしまった。
少女は振り返り、首を傾げ言う。
「なんだ?なんかまだ用か?」
「いや、なんていうか、その、あの........今日食べるもんがないって言ってたのが気になって.....。」
さすがにそんなことを聞くのは気が引けるのでとりあえずごまかす。
少女は頭をかいた後、恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「それは.....そうだ。いつも盗みでしか稼いでないからな。今日は、邪魔が入って......というか、ニーちゃんに邪魔されたせいなんだけど....。」
その顔がだんだん怒りに近い表情になってく。
それに対し俺は両手を挙げ、
「待ってくれ待ってくれ、悪かったとは思うし、そこは奢ってやるよ。でもなんもしてない人からお金を取るのもダメなのはダメだがな。」
そう言ってみると、今度は笑う。
「ホントか!?お前実はいいやつだな。ま、盗みはやめないけどな。」
さっきもらった金貨一枚なら2人分の食事くらいにはなるし、引き止めてしまった言い訳としては妥当な額だろう。まあ、宿は別で考えるしかないが。
だが一つ問題がある。
ノリで奢ると言ってしまったものの、いつも冒険者ギルドで食べていた俺は町の店を知らない。
俺が考えていたのが顔に出ていたのか、少女にどうしたのか聞かれる。考えていたことを伝えると、少女は笑い、言う。
「仕方ねーな。いつも私が食べてる店に案内してやるよ。ま、闇だけどな。」
.......今聞き捨てならないことを言ったような気がする。
「え?闇?」
「そりゃそうだろ。盗みで食ってるやつが普通の店に入れるか。こっちこい。」
少女はフードを被り、獣の耳を隠す。フードを被った少女はまた顔が分からなくなり、その状態で俺の手を引き走り出す。
「あ、一応言うと、ニーちゃんも盗みをしたやつを逃した時点で同罪だからな。」
「え?あ。」
言われてやっと気づく。
「それに、闇のところまで行ったら終わりだぞ。もう普通に戻ることはできないな。」
少女は笑う。
俺は焦ることしかできず、何も言えないでいると、少女はさらに続ける。
「ま、ニーちゃんもそれでいいだろ?だってニーちゃん、行くあてとか無さそうだし。」
「え?なんでそれを知って。」
「知らないのか?獣猫族はもともと感覚が鋭いんだぞ。それに盗賊スキルでさらに良くなってる。あるからな。私にはお見通しだ。」
なんてこった。
確かに俺は行く当てもない。そしてこの少女が盗みを過去にしたことを知っていながら逃がそうとしたことも。
そして昔から俺が生きるために闇の仕事をしている人は魔族スキル持ちとしてできるだけ逃がしていたことも。
そして断る理由が全くないことも
どうやら全部、バレてたみたいだ。
「はは、君、すごいな。」
「当然だろ。これでも盗賊としてずっと生きてるんだ。あーご飯楽しみだなー。」
少女はニッと笑い、タネを明かすように言う。
「ま、もともとそのつもりだったから、私が獣猫族だってこと教えたんだがな。」
「いやそっからバレてたのかよ。」
「うかつに魔族だってこと言うと思うか?ニーちゃん、案外鈍いところあるんだなぁ。」
もしかしたら俺はとんでもない人に今手を引かれてるのかもしれない。そう思いながらこの少女行きつけの店に向かって走っていく。
不意に、少女は何かに気がついたようにこっちに振り返り、微笑みながら言った。
「そういやこれからニーちゃんは闇社会の仲間になるからな。名乗っておかなきゃだな。」
確かにそうだ。俺はこの少女の名前を知らなかった。
「私の名前はシュピーキャ。気軽にシュピィとでも呼んでくれ。」
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