2/その女は
女が消える時に向いた向きの方に走りながら、またスキルを発動する。
「“隠密”」
隠密のスキルは、錯覚を起こし周りから姿を消すスキルだ。
このスキルはかけようと思った周りの人全員にかけられるようになっており、スキル発動者同士では見えるようになっている。
つまり、隠密スキルを使っている人は、隠密スキルを使えば見えるのだ。
そして盗賊はその能力から五感がすごく優れている。
「いた。」
はるか先で走って逃げているさっきの女を見つけた。
女の方は瞬発を発動していないようだった。
これならすぐに追いつける。
足に最大の力を集め、走る。
あと数mで追いつくところで、女が反応した。
さすがは盗賊。あっちは音で気づいたらしい。
女は腰に装備していた短剣を構え、
「ダレだ!?」
という。
俺も女の前で止まり、手を挙げて言う。
「さっきの通りすがりだ。話がしたい。」
「なんだ!捕まえようってのか!?私を!」
と、女は構えを変えずに言ってくる。
「いや、捕まえたりはしないよ。ただ、聞きたいことがあって。」
女は少し短剣を下げ、だが緊張は解かないまま続きの言葉を待っている。ここでやっと見ることができたのだが、どうやらフードで顔をほとんど隠しているようだ。
「君の盗賊のスキルについて話が聞きたい。」
少しの間があったあと、フードの隙間に、汗がひとつ流れる。そして今までとは違い、落ち着いた声でこう言う。
「なんでそのスキルのこと知ってるんだ?」
当然の質問だ。普通の町の住人はスキルの詳細を詳しくは知らないし、冒険者ギルドの人でも、盗賊スキルという魔族しか使えないスキルを知っているものはほぼいない。
「私の隠密も破ったし、さっきの速度だって普通は......」
何か現実よりも悪い方向のイメージをしているのだろう。
とりあえず安心させないと話すら聞けなそうだ。
「お、落ち着いてくれ。俺はただの人間だ。ただちょっと、盗賊スキルに縁があって......というか、盗賊スキルを持っていて.......」
女は顔を少し上げ、言う
「嘘だ!だって盗賊スキルは魔族にしか開花しない魔族用スキルだ!」
「嘘じゃない!....俺は人間なのにこのスキルが開花したんだ。だから、その理由が知りたくて......。」
「そんなのどうやって信じればいいんだ!」
女は少し怒りながら言う。
俺は少し考えてから、前まで所属していたパーティーの冒険者ギルド認定書を見せる。
「これが証だ。ここに開花スキル、盗賊って書いてあるだろ。」
女はそれを近くで確認し、一応は納得したような表情を見せて言う
「本当.......なんだな。」
「分かってくれたか?」
「少し疑問はあるけどな。まぁ、その書が冒険者ギルド以外で作れないのも知ってるしな。」
そう言って女は構えてた短剣をしまった。
どうやら安心を得ることは一旦できたようだ。
「それで聞きたいんだが、君は盗賊のスキルを持っていたが、」
俺がそこまで言ったところで女はさえぎり、フードを取りながらこう言った。
「あいにくあんたの予想は外れている。私は、人間じゃない。」
そこにはショートヘアーの白髪と、獣猫族であることを表す猫耳が2本生えていた。
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