10・後/ランセニュ
「よぉ〜、報酬は持って来れたかぁ?」
言われていた通り、ランセニュはちょうど三日後の同じ時間に来た。
「ええ、まあ。報酬って言うのかは分からないですけど......。」
俺はおそらくだが交渉できる材料を持っている。
だが、これはあくまで材料があるだけで、下手な事をすれば交渉は決裂する。
「ほぉ〜。ま、言ってみな。もちろん、金じゃなくても俺にプラスなら俺は動くからな。」
ランセニュは俺の出方を伺うように目をこっちに向ける。
それに対し俺は口元を緩ませながら提案をする。
「では、簡潔に伝えます。」
「ランセニュさん、義賊の仲間になりませんか?」
「はぁ?」
少しの間の後、ランセニュが呆気に取られたような声をだす。
「おいおい、これは情報の売り買いの話じゃぁなかったのかよ。なんでそんな。」
「これは交渉でもあるんです。」
俺が言い切ると、ランセニュは手を顔の前で振る。
「なぜだ?なんで俺が義賊の仲間になるのが交渉になる?」
ここで俺は交渉の鍵を使う。
「ランセニュさん、俺はあなたに“ただの悪人”のままでいて欲しくないんです。」
ランセニュは振っていた手を止め、真面目な顔を作った。鍵を使うタイミングは完璧だったようだ。
最初にランセニュと話した時に、一度だけ、ランセニュが俺から目線を外した瞬間があった。
それは『このバーに来てるやつは全員悪人って言ってもいいもんだ。もちろん俺もな。』と言った時。
俺とシュピィに共通していたもの。そしてランセニュにも共通しているもの。
ーーーー闇社会にいながら、本当は悪事をしたくないと思っている事。
「義賊っていうのは、『完璧な正義』とは言えませんけど、『完全な悪』とも言えない。そんな存在です。ランセニュさん、情報屋として、一緒に義賊の仲間として生きませんか。」
ランセニュは少し、頬を緩ませる。
「正義でも悪でもない存在になる事。それが俺への報酬ってわけか。」
「もちろん、義賊の仕事で手に入れたものも山分けで払いますけどね。」
彼は少し目を閉じた後に、少し視線を逸らす。
「ほ〜ん。よく考えたものだな。」
そして、クルクルとなった茶髪を手で少しかいた後、目線をしっかりと俺に向け、手を前に差し出してくる。
「おもしれぇ。その交渉、乗ったぜ。」
俺はその手をとり、感謝の気持ちを込めてぎゅっと握る。
ここに、一つの協力関係が生まれた。
「ま、ここで仲間になるって言ったが、最初は仮ってことにしといてくれ。シュピーキャの実力は知ってるが、俺はアンタの......いや、カイトの実力を知らないからな。お試し期間ってやつだ。」
「分かりました。ランセニュさん。よろしくお願いします!」
俺がそう言うと、ランセニュは少し嫌そうな顔をする。
「そのぉ、なんだ。仮ではあるが仲間になるんだから、さん付けと敬語はやめろ。話しづれぇ。」
なるほど、そういう考えもあるのか。
「えーっと.....じゃあ、ランセニュ。」
「それでいい。」
そう言うとランセニュは笑い、肩を組んでくる。
「それじゃぁお試し期間ってやつを始めるぜ。」
俺が聞く体勢を取ると、ランセニュが話し始める。
「こんなくっろ〜い噂を聞いたことがある。」
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次回からついに義賊としての仕事が始まります!




