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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

婚約破棄系2

彼女を突き落としたのは

作者: ひつじかい
掲載日:2020/11/26

2020.11.27 誤字を修正

 ハイベルン王国王城。


 常に人が行きかう城内で、ふと、人の往来が途絶えた。

 何があったのか、常に供を連れている筈の彼女が一人で階段の上にいる。

 これは、神が与えてくれたチャンスだ。

 一瞬でそう判断し、躊躇なく実行に移した。


 突き落とした女が転がり落ちて行くのを、冷たく見下ろす。

 体を打ち付ける痛みに漏れた悲鳴が聞こえたが、心は痛まない。

 生死は確かめず、誰かが来る前にその場を立ち去った。




 王城で開かれたパーティーで、アビゲイル・フェイアスト公爵令嬢は友人達と談笑をしていました。

 そこへ、怒りを露にした婚約者が、側近達と一人の女性を引き連れてやって来ました。


「アビゲイル! 貴様、よくも抜け抜けと顔を出せたな!」

「……何の事でしょう?」

「惚けるな! ベティを階段から突き落とした事だ!」


 そう大声で怒鳴ったので、周囲の喧騒(けんそう)が鎮まります。


(わたくし)が?」

「正面から突き飛ばしておきながら、白々しい!」


 アビゲイルの婚約者は、第一王子カメロン・エーリンです。

 王子の剣幕にアビゲイルの友人達は距離を取り、輪の中には、カメロンと彼の側近であり友人である五人の男性。そして、カメロンの恋人ベティ。……アビゲイルを合わせて、八人の人間がいます。


「デイモンが数段下にいたから良かったものの、下手をすれば命を落としていたのだぞ!」


 側近の一人、デイモン・リンド侯爵令息は騎士団団長の嫡男です。

 彼が、突き飛ばされたベティを受け止めたので、彼女は怪我も負わずに済んだのでした。


「以前から、様々な嫌がらせをしていたそうだな!? 貴様が(わたし)の婚約者だからと健気に耐えていたベティに、何たる仕打ち! 命まで奪おうとは! 貴様との婚約は、破棄させて貰う!」

「お言葉ですけれど、何故非難されるのか理解出来ませんわ」


 アビゲイルは、カメロンを冷たく見据えてそう言いました。


「何だと?!」

「殿下も、無礼を働いた者には紅茶を投げかけていたではありませんか。私が、私に無礼を働いたベティに紅茶をかけて、何が悪いと仰るのです?」

「ベティが、何時、貴様に無礼を働いた!?」


 ベティを無礼者呼ばわりされ、カメロンは、益々頭に血を昇らせました。


他人(ひと)の婚約者に手を出すのが、無礼ではないと仰るのですか。倫理観が違い過ぎて、同じ国の人間とは思えませんわ」

「ベティの無礼を非難する口で、王太子である私に無礼を働くか!」

「貴方様は、未だ王太子ではありません。王太子殿下に対して、無礼千万ですわ」


 ハイベルン王国では、二十歳にならないと王太子にはなれない為、十八歳のカメロンは王太子ではないのです。

 現在の王太子は、彼の叔父です。


「グッ……。それは……」


 カメロンは反論に詰まりましたが、叔父に対する非礼を反省した訳ではなく、アビゲイルに言い込められた怒りで頭が回らなかっただけでした。



「私は殿下を愛しておりましたから、ずっと黙っていましたけれど。……私より他の女を選んだからには、もう黙っている愛想(あいそ)も尽きました」


 アビゲイルの語りに、余程、カメロンに対する不満の言葉が溜まっているのだろうなと、周りの者達は悪口雑言を期待しました。


「陛下」


 アビゲイルは、人混みの隙間から見える国王に声をかけました。


「八年前、第二王妃殿下を突き落としたのは、カメロン殿下で御座います」


 思ってもみなかった爆弾発言に、空気が凍り付きます。


「出鱈目を言うなっ! 父上! アビゲイルの言う事など、信じてはなりませぬ! ベティの事で責められた腹癒せに、私を陥れようとしているのです!」

「私は、この目で(しか)と目撃しました。嘘偽りは御座いません」


 どちらが本当の事を言っているのかと、皆、興味津々で成り行きを見守ります。


「いい加減にしろ、アビゲイル! 本当は、貴様が後ろから突き落としたのではないのか?!」

「カメロン殿下。背後から突き落としたと知っているのは、犯人だけですわ」


 その言葉に、大多数がカメロン犯人説に傾きました。

 第二王妃が階段から転落して亡くなったのは、事故か殺人かも判らない状況でした。

 転落した際に、二階と一階の何方を向いていたのかも判らなかったのです。


「そ、それは、……突き落とす場合は、大抵後ろからだろう!」

「つい先ほど、私がベティを正面から突き飛ばしたと言う話をしたばかりで?」

「階段を降りようとしている者を突き落とすなら、後ろからではないか!」

「降りようとしていたと知っているのも、犯人だけですわ」


 喋る度に、カメロンは墓穴を掘って行きます。


「わ、私は当時十歳だぞ! そんな年で人を殺す訳が……!」

「同じ年の私を真犯人だと仰った口で、何を仰いますやら」

「っ! 私には動機が無い!」

「私にも有りませんわ」


 遂に、カメロンは反論の言葉を失ってしまいました。



「もう、止めてください! あんまりです! カメロン様が何をしたって言うんですか!?」


 カメロンを庇うように、涙ながらに声を上げたベティに、アビゲイルは扇を投げ付けました。


「無礼者!」


 デイモンが扇を受け止めたので、ベティは怪我をせずに済みました。


「アビゲイル!」

「愛人の躾もなさらないなんて、信じられませんわ」


 アビゲイルは、強がりでもなんでもなく、すっかり愛が冷めていました。


「アビゲイル様! わたしの事は何と言っても構いません! でも、カメロン様の事を悪く言わないで!」


 カメロンの友人達は、今更ベティを止めるべきか・一緒になってカメロンの味方をするべきか、悩んで実行出来ずにいます。


「……今更、私に訴えた所で何になるのです? 後は、陛下の判断にお任せするしか無いのですよ」


 デイモンがアビゲイルの意図に気付いた時には既に遅く、ベティは声を上げてしまいました。


「陛下! どうか、カメロン様を信じてください!」



 ベティは、近衛兵によって取り押さえられました。


「ど、どうして?!」


 何故、カメロンの無罪を訴えただけの自分が、犯罪者のように扱われているのか、ベティには解りませんでした。


「わ、わたしが、何を……」

「先程、無礼だと教えて上げたでしょう? 我が国では、公の場で目上の者に許可無く話しかけてはならないのよ」

「そ、そんな……! でも! あなただって!」

「平民は陛下の許可無く逮捕出来るので、貴女が先に捕らえられただけ。そろそろ、陛下が私の捕縛許可を(くだ)されるでしょう」

「アビゲイル! 貴様、ベティを嵌めたな!?」


 漸く気付いたカメロンが、食って掛かりました。


「カメロン様が、ベティに何も教えずに連れて来られたのでしょう? それに、カメロン様が、陛下の許可をお取りになっていらっしゃれば、無知による不敬は大目に見てくださった筈ですわ」


 自分の責任を突き付けられても、カメロンは、ベティに悪い事をしたとは一切思いませんでした。

 彼の頭の中には、自分を窮地に追い込んだアビゲイルへの憎しみしかありません。


「貴様さえ居なければ……」

「殿下! なりません!」


 デイモンは、今度こそ間に合いました。

 抜刀しようとしたカメロンを止める事が出来たのです。

 此処で正当な理由も無く剣を抜けば、国王を殺害する目的と思われてしまいます。


「離せ、デイモン!」

「カメロンを捕えよ」


 カメロンを見限った国王が、逮捕命令を出しました。

 大逆罪とはいかないまでも、王族と貴族が集まっているこの場で剣を抜きかけたカメロンは、捕らえて罰しなければなりません。


「父上! この女の戯言(たわごと)を信じたと言うのですか?!」


 捕らえられた理由が解っていないカメロンの非難の言葉に、アビゲイルの話を信じてやろうかと思いました。


「牢で頭を冷やすが良い」




 あれは、神が与えてくれたチャンスなどではなかった。

 悪魔が仕組んだ落とし穴だった。


 侍女や護衛の姿が、何故無かったのか?


 全ては仕組まれていたのだ。

 誰に?

 勿論、叔父上だ。

 王太子の座を譲りたくなかったのだろう。


 父上にそう訴えたが、それが事実だとしても、私の意思で突き落としたのだから、死一等を減ずる事は出来ないと言う。


「そもそも、お前の殺意を知っている事が前提ではないか。あの頃は、お互い滅多に会う事も無かったと言うのに、何時どのように知ったと言うのか」

「知りませんよ! 何とかして知ったんでしょう!」

「大体、お前があの場にいたのも偶然なのだろう? 罠なら、誰かを使い呼び出すか・誘導するかしなければならんだろうが」


 絶対叔父上の仕業の筈なのに、どうして、解らないのか!


「あの時、お前達が二人きりになったのは、王妃が人払いをしたからだ」


 あの女が?!


「だから、お前の事は当初から疑っていた。だが、決め手が無かった。事故や自殺である可能性が排除出来なかった」


 元から疑われていたとは……!


「一体、何が不満だった?」

「……私の母は、一人だけです。それなのに、あの女は母親気取りで」

「くだらんな」

「父上!?」

「第一王子でありながら、そのような事で王妃を(しい)するとは」


 無価値な物を見る目。

 親でありながら、何と冷たい!

 そんなにも、あの女を……?

 それとも、世の中の父親と言う者は、皆、子への愛情など持たないものなのだろうか?


 そのまま父上は立ち去り、私は、絶望の中死を待つしかない。


 そして、沸き起こる激しい憎しみ。

 あの女への。アビゲイルへの。叔父への。そして、父への。




 私は最期まで、ベティを思う事は無かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい被害者根性ですね。一部の曇りもないのが清々しい。
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