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第50話 ノワについて・ソルの付き人再び




 宿屋の主に尋ねると、モル川の向こうにあるウルブの都までは、徒歩でおおよそ半日程度、馬で数時間ほどの距離だという。

 それなりに近い距離ではあったが、今はもう昼を過ぎており、出発すると到着が夜間になる。そのため、今日までは一旦宿に泊まることにした。


(塔では、ルーナが空間転移していたわよね……)


「ソルは移動する魔術は使えないのですか?」


「空間移動の魔術は、よほどの魔力を持った人間にしかできない。あの変態は別格だ」


 ソルは神器の守護者であり、一般人よりも魔力は高いほうらしい。けれども、どちらかという身体能力が高く、武芸の方に特化しているそうだ。

 今日も朝からヘリオスに身体を貸していたが、並みの魔術師や騎士程度では、おそらく一週間近くは動けなかっただろうとも言っていた。いかに、ソルが特別な力を持っていることがよく分かった。


(私は記憶が多少戻ったとは言え、せいぜいが四歳から五歳ぐらいまでの曖昧な記憶だものね……)


 そのため、国内の地理や魔術といった基本的なことは忘れてしまっている状態に近い。


(城に滞在中に、ルーナに改めて教育してもらっていたけれど……。ルーナが過剰に触ってくるから、そちらに気をとられがちだったのよね……)


 学習した内容は、残念ながらうろ覚えのことも多い。


「ねえ。ウルブにいる叔母様の元に、玉の一族の当主がよく訪ねているっていう話を、昨日聞いたじゃない? ……玉の当主ってどんな方なのですか?」


 ティエラは、幼少期の頃の記憶を取り戻したこともあり、ソルに対して、少しだけ砕けた口調で話すようになっていた。とはいえ、まだ時々敬語が混ざってしまう。

 元々、公の場ではお互い敬語を使っていたが、それ以外では気を遣わずに話していたらしい。


(幼馴染みだから、さもありなん……といったところね)


 先ほどの質問に対して、ソルがげんなりした表情で答えてくれた。


「ノワ・セレーネのことか?」


「そう、そのノワって言う人です」


「なんでまた急に?」


「だって、叔母様に言い寄ってるなんて、気になるじゃない……ですか」


(本当は、ルーナのお兄さんというのも気になっている――なんて、なぜだかソルに、そのことを言うのは躊躇っちゃう……)


 ソルがティエラに、ちらりと視線を向けた後、窓の方を観て続ける。


「ノワは、一言で表すなら――」


「表すなら?」





「――バカだ」





「ば、バカ……?」


 ソルは深いため息をついた。


「まあ、会ってみれば分かる。会う機会があるかは分からないがな」


「説明になってないような?」


 ティエラが尋ねる。


「これ以上は説明しない」


 ソルに断言されたため、ティエラはそれ以上、ノワについて問いかけることは出来なかった。




※※※





 一方その頃、ウルブの都の南にあるエスパシオの街にて。



「グレーテルは、亜麻色の髪の可愛い人を探してますって、言っちゃいましたけど~~」


「たしかにグレーテルさん、そう言ってましたよねーー」


 頭の両側で黒髪を結んだ十代位の少女と、ピンク頭に糸目の男性。

 間延びした二人は、亜麻色の髪をした人物の前に立って、口々に声を出している。


「でも~~。グレーテルが探してるのは~~、こんなにちっちゃい子じゃないんですよ~~アルクダさん」


「いやーー、僕としたことが面目無い」


 そう言った二人の前にいたのは、亜麻色の髪をした五歳くらいの少年だった。


「ごめんなさいね、ペーターくん」


「あ、あの、僕はペーターじゃ……」


「ごめんね~~。ペーターくん」


「だから、僕はそんな名前じゃ」


 亜麻色の髪の少年は、榛色に瞳に涙を潤ませる。話が通じず得体が知れない二人の前から、彼は脱兎のごとく逃げ出した。


「あ、行っちゃいましたね~~」


「ですねーー」


 王都グランディスを脱出後、二人は、ウルブの都の周囲で強い光を観たと言う通りすがりの旅人の情報を元に、王都から北東にあるエスパシオの街まで来ていた。

 紅い髪の騎士を探していると話したら目立つため、ティエラの特徴を尋ねて歩いていた。だが、なかなか探し当てることが出来ていなかった。


「大体、ソル様が、私の姫様を一人で連れていくから、こんなことになっちゃったんですよ~~」


「そもそも二人、一緒にいるんですかね」


「いるんじゃないですか~~? ソル様なら、地の果てまででも、姫様を探してくれそうですもん」


「ソル様を、ルーナ様みたいにしないでくださいよ、グレーテルさん」


 そうお喋りをして、二人はまた検討違いの人物に声をかけに行くのだった。




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