第27話 新月の夜1
6/21文章の見直しをしました。
ルーナが部屋から出ていった後――。
空からは太陽が消え、夜が訪れていた。
ベッドの下に隠していたドレスを取り出し、ティエラは着替える。
(使用人のドレスは、貴族が着用するドレスと違って一人でも着替えやすいから、助かったわ――)
靴も、かかとが低いものへと変更した。
(日記帳にペンダントを隠していて良かったわ――)
ソルにもらったというペンダント。
(ルーナは、ソルが私に渡したものだって、知っていたはず……このペンダントを見たら、またルーナの様子がおかしくなるかもしれないと思って、日記帳にしまっていたけれど――)
ティエラはペンダントをぎゅっと握った。
(まさか襟元を開かれるなんて……念のためにはずしていて本当に良かった――)
ティエラ以外には気づかれず、開くことも出来ない日記帳。
都合のよい代物が存在しているのも幸運だった。
ティエラはペンダントを身に着ける。
不思議と、何かに護られているような気がした。
※※※
(身支度を整えたのは良いけれど、ここからが正念場ね)
扉の前の部屋の騎士の数が、ルーナによって増やされている。
(正面から出るのは無理――)
部屋の中に隠し扉がないかと探してみたが、そんな扉は見当たらなかった。
ティエラの頬にひんやりとした夜風があたる。
風に導かれてバルコニーへと向かい、外を眺める。
(この小城の外を、警備する騎士の数もいつもより多いわね――)
ティエラの部屋は三階にある。
バルコニーの下を覗くと、植木が並んでいるのが見えた。
運良く、階の真下には騎士は配置されていない。
(こうなったら、覚悟を決めるしかない)
ティエラは決意を固めた。
彼女はバルコニーから乗り出す。ゆっくりと降りると、なんとか二階のバルコニーの端に足をつけることができた。
(良かった、うまく二階へ降りることが出来たわ。このまま地面へ――)
先程と同じ要領で、一階にバルコニーに移動しようとしたのだが――。
(まずい……!)
手を滑らせ、身体が宙に投げ出された――。
二ヶ月程度の記憶しか残っていないが、頭の中にこれまでの思い出がよぎる。
(地面にぶつかる……!)
ぎゅっと目を閉じ、覚悟を決めたティエラだったが――。
――身体を打ち付ける瞬間は訪れなかった。
ふわりと身体が軽くなる。
そのままゆっくりと、地面に足がついた。
「一見大人しいし、受け身なんですけど、妙なところで行動力があるんですよね。姫様は……」
暗闇の中から、穏やかな声が聞こえ、ティエラは身構えた。
姿を現したのは、黒髪長髪を肩先で結び、モノクルをかけた長身の男性――ウムブラだった。
「今のは? 貴方が助けてくださったのですか?」
「魔術を少しばかり使わせていただきました」
ウムブラはにこやかに、ティエラに話し掛けてくる。
彼への警戒心は解かないまま、彼女は質問を続けた。
「どうしてこちらにいらっしゃったのですか? ルーナのそばには、ついていなくて宜しいのですか?」
ウムブラは表情を崩さない。
「今日は新月でしたので、姫様が塔へと向かうのではないかと思いまして――ね。貴方をそそのかした責任が、私にはございます」
二人が話している間に、近くで騎士達の談笑が聞こえた。
(こちらに近付いて来ている――?)
「今、私が貴女の部屋の下で魔術を使いましたので、ルーナ様が気づかれるかもしれません。私が案内致します。行きましょう」
騎士達の足音が大きくなってくる。
(迷っている時間はない)
まだ信用できたわけではなかったが、先を歩くウムブラの後を、ティエラは着いていくことにした。




