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本編(炎陽・剣の章)後日談5-6 彼女は彼の成長を見届ける6

 お待たせしました、最新話です。



 魔術師長たるセリニ・セレーネにより、魔術研究所の奥深くにある魔術師長の執務室へと、ティエラとソルは通された。


 昼だと言うのに薄暗い部屋だったが、セリニが何か呪文を唱えると、ぽうっと火が灯り明るくなる。

 炎の揺らめきは、ティエラの亜麻色の髪、ソルの紅い髪、セリニの白金色の髪を、それぞれ橙色に照らした。


「私とプラティエス様、そしてルーナが進めてきた研究――それによって実際に、エガタが人工的に産まれているのは二人も知っての通りです」


 セリニが淡々として話す。炎を揺らめきを映す彼の紅い瞳からは、その感情をうかがい知ることは出来ない。


「我々三一族の始祖たる三人の人物達は、天上より降り立った神。そして、その血を継ぐ我々も神の血をひいています」


(伝承ではそう言われているし、私たちが他の人たちよりも優れた力を持っているのも確か……でも、実際にそうだと言われても、なんだか実感がわかないわね……)


「始祖以降の者達は、人間との交配を繰り返しているので、現在では一族の者達でもほとんど人に近い――そうは言っても、神の力は人間に比べて強い。そのため、人間の女性だとなかなか神の子を宿しづらい。さらに、産んだ人間の母親は、十月十日育てる間に、神の子に力を吸われて短命となる」


 ティエラに衝撃が走った。

 隣で話を聞くソルが、彼女の肩をそっと抱き寄せた。


「確かに、私やルーナのお母様も早くに亡くなっているわ。でも、ソルのお母様もセリニさんのお母様も、どちらも生きてらっしゃるわよね?」


「私の母も、ソルの母親であるローザ殿も生きています。だから、私もソルも、神器の加護は女王陛下やルーナよりも弱いのかもしれません。私の従兄弟であるノワに力がなかったのは、ノワを宿す前にいた胎の子が伯母上から流れ、その子が力を持っていたのだと推察している――そして、ここからが本題ですが――」


 セリニが瞼を伏せる。

 ティエラはごくりと唾を呑んだ。


「神の血を継ぐ者同士の子は、誰よりも強い力を宿す。だが、そもそも産まれる以前に出来づらい。一族間同士の子は、稀にしか出来ない。有史始まって以来、神器一族間の交配を試したものはいないので、憶測にすぎませんが――」


「それじゃあ――」


「俺とティエラの間には、子どもができる確率が低いってことだな――」


 ティエラはソルの顔を見た。

 彼は、さして何も気にした様子なさそうだ。

 セリニが返す。


「まあ、そういうことだな。おそらく一族の女性たちは、純粋な人間の男性たちの子はすんなり孕んでいる。女王陛下が子がほしいと言うのなら、我ら神器一族の男子では役不足に近い」


 何かひっかかったのか、ソルがセリニに問いかける。


「だったら、そういえば、なんでルーナがティエラの婚約者だったんだよ?」


「今の話は、研究が進むにつれて分かってきたことだ。それにルーナなら、女王陛下が子が欲しいというなら、どうにかして子が産めるように持っていったさ――」


「あいつなら、違いないな」


 ソルがげんなりした様子で答えた。


「女王陛下もソルも、もう跡継ぎ問題からは解放されている。だが、国の風潮として、女性は子が産めないと色々と言われるところがある。それでフロース様も大層悲しんでおられた。子が出来ないからと別れる夫婦も多い。ソルの母親であるローザ様も、それを気にされているのではないか? 二人でよく話し合うと良いよ」


 珍しくセリニが困ったように笑っていた。


 話を聞き終えたティエラとソルは、セリニに礼を告げると、その場をそっと離れたのだった。




※※※




 ティエラはソルに肩を抱き寄せられたまま、自室に戻ってきていた。

 ふさぎ込んだままの彼女は、ベッドに腰かけてぼんやりとして過ごしている。


(なんだか、当然のように、結婚したらソルの子どもが出来るって思っていたわ――)


 想像よりも、セリニに聞いた話はティエラにとってショックが大きかった。


(好きな人の子どもはやっぱりほしいもの……)


 ソルとは決して結ばれないと思っていたのに――。

 恋人同士だと世間に言えるようになってからのティエラは、大層浮かれていた。

 勝手に頭の中で、ソルと子どもが出来たら、紅髪に金色の瞳の子ができるのだろうか、それとも亜麻色の髪に碧の瞳の子どもができるのかなと、彼女はいつも頭の中で想像していた。

 

 俯く彼女の隣にソルが腰かける。

 彼は彼女の頭をぽんぽんと叩いた。


「出来づらいだけだろ?」


「え――?」


 ティエラはぱっと顔をあげて、ソルを見た。


「子ども。セリニは出来ないとは言っていなかった」


「で、でも出来ないかもしれないじゃない――ソラーレの――剣の一族の男系が、私のせいで途絶えてしまうかもしれない……」


 彼女の声は上ずってしまう。


「竜はいなくなった。セリニも言っていたが、絶対に跡継ぎが必要な状態じゃない。王族もエガタがいる――俺は別に、出来たらあんたの子どもを見てみたい気はするが、絶対じゃない」


 ソルの碧色の瞳はいつも以上に真剣みを帯びていた。


「ソル……」


「あんたは、子ども、どうしても欲しいのかよ?」


 ティエラの黄金色の瞳が揺れる。

 彼女は必死に口を開いた。


「子どもが欲しいというよりも、ソルの子どもが、欲しいのよ……」


「は? なんて言った? 小さくて聴こえな――」



「私は、ソルの子どもが欲しかったのよ!!」



 予想以上に大きな声を出してしまい、ティエラは恥じらった。

 ソルはしばしの間、ぽかんとしていた。


「ティエラ――」


 彼女は気づいた時には、ソルの腕の中に閉じ込められていた。


「それは光栄だな――」


 抱きしめた彼女の額に、彼はそっと口づける。


「いつもみたいにしてて、たまたま出来れば幸運だったじゃダメなのか? 俺は子どもが出来なかったとしても、あんたが俺のそばにいてさえくれれば、それで良い」


「ソル」


 ティエラの黄金色の瞳に、涙がたまっていく。


「ソル――私、私は――」


 ソルがいつも以上に優しく抱きしめてくるので、ティエラは、彼の腕の中で泣きじゃくり続けたのだった――。







 おそらく次か次の話でソルが告白してくれると思います。

 良かったら、ぜひ続きもお読みいただけましたら幸いです。

 次回、8/10までにはおとどけいたします。

 あとは、R18になってしまうのですが、ムーンライトでティエラの大叔母さんの連載を始めました。

 姫と敵国の将軍(騎士)の政略結婚の話。

「無垢な花嫁は、青焔の騎士に囚われる」というタイトルになります。

 もし成人向けでも大丈夫な方はぜひお読みくださいませ。


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