本編(炎陽・剣の章)後日談5-1 彼女は彼の成長を見届ける1
4-3の夜の話から開始。ソルの母親の話や、ソルが過去を反省する話(ifのソルはもうだいぶ反省していたけれど……)、プロポーズをやり直す話になります。
「ソル、ごめんなさい。私、ルーナのところに行かないといけない……」
黄金色の丸い瞳をした可愛らしい顔立ちに、腰まで届く亜麻色の長い髪をした王女ティエラ。
彼女は申し訳なさそうに眉を下げつつ、目の前にいる赤い髪に緑の瞳を持った青年に声をかける。彼は、王女の護衛騎士を勤めるソルだ。
ティエラには、ルーナという国が決めた婚約者がいる。
けれども、数年前から、ティエラとソルは恋人同士になっていた。もちろん周囲には内緒にしている。
「行くな……」
低い声。
ソルは、ティエラの腕を掴む。
彼の動作に、ティエラはびくりと震えた。
(俺は、あんたを怖がらせたいわけじゃない……)
だけれど、彼女の仕草に苛立った彼は、彼女に追い打ちをかけるように告げた。
「どうせ、あんたはルーナのところに行くんだ――」
ティエラの金色の瞳が涙で潤んでいく。
(あんたを苦しませたいわけでもない……)
「ごめんなさい……」
哀しそうな表情をして、ティエラが彼のそばを離れようとした。
その時――。
ソルは胸を押さえて、その場に跪いた。
彼の呼吸は荒く、その場から動けないでいる。玉のような汗が、彼の額ににじむ。
「ソル――!」
ティエラが慌てて、彼のそばに腰を落とした。
(そばから離れられるだけで、こんなにも不安定だ。俺は……なんて――)
――弱い。
※※※
夜、うめき声が聞こえたことで、ティエラは目を覚ました。
声を上げていたのは、彼女の隣で眠るソルだった。彼は目を瞑ったまま、苦しそうに眉根を寄せている。
ティエラは、彼の背中をさすり始める。
しばらくそうしていると、彼はゆっくりと瞼を持ち上げた。新緑を思わせる碧の瞳が瞬きをした後、ティエラの金の瞳を見つめる。まだ、目の焦点が合わない。
「大丈夫? ソル……? うなされてたから、心配し――」
ソルに話しかけている途中だったティエラは、突然彼に抱き寄せられた。
そして突然――。
「ごめん――」
彼の突然の謝罪に、彼女は戸惑いを抱いた。
「一体どうしたの? ソル……」
ティエラの問いに、ソルがぽつりとつぶやいた。
「昔の、夢を見ていた。あんたを傷つけてたんじゃないかって、ずっと後悔していたんだ」
最近のソルは、こういう不安そうな言葉が増えてきているようだった。
(私の気のせいかしら……? でも、ソルがこんなに不安なのは――)
「ねえ、ソル? 昨日も言ったけど、私はずっと一緒にいるわ」
「ああ、分かってはいるんだ――」
彼の、ティエラを抱きしめる力が強くなる。
「あのね、ソル。私、貴方にちゃんとした返事をしていなかったように思うの」
彼女の言葉に、ソルが目を見張った。
「俺も、あんたに何か考えておくって言っておきながら、何も言ってなかったな」
先日、ソルが遠征に出る前に約束した話のことだろう。
「ソル、私――」
すると、彼がティエラの話を遮るようにして告げてきた。
「俺からあんたに伝えたいこと、考えてはいたんだ……ちゃんと、また改めて求婚するつもりだから、返事はその時で良いよ――」
(求婚……)
改めて、『求婚』という単語を聞くと、ティエラの胸はドキドキしてくる。
以前、「俺と一緒になってくれ」とソルから言われていたが、ルーナや竜のこと、国のごたつきなどがあり、そのままになってしまっていた。
少し深呼吸をしてから、ティエラは返事をした。
「――わかったわ」
ティエラの返答を聞いたソルが、彼女にそっと口づけた。
「親父とお袋にも、あんたのこと、改めて説明するから」
(イリョスおじ様達に説明――)
ティエラには、ソルの母親とは何度か面識がある。
だが、改めて話すとなると非常に緊張すると言わざるを得ない――。
ティエラが、少しだけ身を縮こまらせていると――。
「大丈夫だ、もう誰にも反対させはしない。セリニとあんたをくっつけようとしている貴族の連中達も黙らせるよ」
自分に言い聞かせるように、ソルはそう言った。
少しだけティエラが顔を上げると、ソルの碧の瞳と目が合う。
ゆっくりと、どちらともなく口づけを交わした。
「また、あんたがほしくなった――。ダメか?」
ティエラは少しだけ恥ずかしくなったが、こくりと頷く。
改めて、彼の温もりを彼女は感じることになった。
「あんたがそばにいてくれて、本当に良かった――」
「ソル……」
そうして二人は、朝まで幸せな時間を過ごしたのだった――。
話数が多そうだったら、連載中に一旦戻すかもしれません。
ルーナの話と前後してしまい、大変申し訳ございませんでした。
また近日中に投稿予定です。どうぞお待ちいただけましたら幸いです。




