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第139話 月は夜に太陽をみる



 ティエラは早くに母を亡くした。そのため、家族と言えば国王である父だけだった。一応叔父や叔母もいるが、いつも一緒に過ごしていたわけではなかった。

 ティエラの護衛騎士のソルと、その姉のオルドーも家族に近い存在だが、彼らにはちゃんと他にもたくさんの家族が存在している。


 そんなティエラに、婚約者が出来た。

 しかもとても綺麗な顔立ちをしていて、文武ともに優秀な男性だ。

 ティエラより十歳年上の十七歳で、最近成人したという。彼女からすれば、彼はとても大人に見えた。


(ルーナ・セレーネ……わたしが大人になったら、結婚する人……)


 話を聞けば、彼は両親を亡くし、本当の兄弟はいないという。


(私と同じ……きっと仲良くなれるわ……)


 ティエラは、新しい家族とも言える人物のことを考えて、心を踊らせたのだった。

 



※※※




 初めて彼の背をしっかり目にした。

 寝台に座るルーナに、ティエラは寄り添っていた。彼の肩から背中にかけてある傷に、彼女はそっと口づける。ルーナが竜からティエラをかばったためについた傷だ。


「守ってくれて、ありがとう」


 彼の背には、うっすらとだがいくつもの古傷が見えた。彼の肌は白いからか、薄い傷でも目立つ。ティエラは柔らかく傷痕に触れる。。彼が父親から受けた傷だろう。どれだけ時が経っても痛々しさが伝わってくる。

 彼女は彼に触れながら、彼にこれまで一人で心の傷や悩みを抱えさせ続けた事を悔いた。

 一人にさせただけではない。

 彼の心を不安定にさせる原因にもなっていたと思う。

 ルーナには時折、人が変わったように冷たい一面がある。これまでに様々な人々に傷つけられてきた彼の心がまだ癒えていないからだろう。


 ルーナがティエラの方を振り向いた。

 そんな彼を、彼女は抱き締めた。


「これからは貴方と向かい合って生きていくわ……」


「姫様……」


 ティエラは、ルーナに抱き締め返される。


 優しいルーナの声を聞きながら、彼女の頭の中に幼馴染みの青年の事がよぎる。


(ソルの心の傷もまだ癒えていない……)



 ルーナを選んだとは言え、ソルの事が気にならないのかと言われれば、それは嘘だ。


 ルーナがティエラに口付ける。

 

 迷いを振り払うかのように、ティエラはルーナに身を委ねた。

 



※※※




「……儀式が終わるまでは、口外しないでおいてくれるなら助かる」


 ティエラは目を覚ました。

 最近体調を崩しがちで、どうやらルーナに抱き締められたまま眠りについていたようだ。

 遠くでルーナの声が聴こえる。

 彼は誰かと会話をしているようだったが、その誰かはすぐに部屋から出て行く気配があった。

 続けざまに、別の人物が来訪し、ルーナに何かを伝えて去っていった。


「ルーナ……どうしたの?」


 ティエラはまだぼんやりした状態のまま、婚約者に問いかけた。


「大丈夫です。姫様は眠っておいて下さい」


 ティエラは微睡みの中、ルーナが去るのを見送った後、また眠りの中へと誘われた。




※※※




 ウムブラから報告を受けたルーナは、城門前の広場へと魔術で移動した。

 そうして、目的の人物を目にして近寄る。


「ウムブラが確かに、友人の甥に会いに行くと言っていたな……」


 相手も物陰からゆっくりと近づいてきた。

 周囲は夜闇に包まれ、表情は見えない。


「それで、何をしに来た? 今度こそ、姫様を取り戻しに来たのか?」


 対峙する相手は何も答えない。

 先程まで雲で隠れていた月が顔を覗かせ、男の顔を照らした。

 ルーナがずっと願って止まなかった、自身の婚約者の心をずっと手にしていた男。

 紅い髪に碧の瞳をした、彼女の護衛騎士――。



「ルーナ、お前にぶつけに来た。俺の全てを」



 夜空には朧気な月が輝いている。


 それだと言うのに、ルーナには、眼前に立つ青年に炎陽の揺らめきが見えた。




 

 本来のメインヒーローであるソルをルーナと対峙させるに当たって、このifで一番気をつかって書いています。普段より書くのに時間がかかって申し訳ございません。

 また明日か明後日には投稿致します。

 

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