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【正史】2-4 太陽と大地の想いは重なる

 人によっては、この男の人気持ち悪いと思うかも……。ご了承いただける方のみお願いいたします。




 ある時、ソルが熱を出したとティエラは耳にした。


『もう来るな』


 そう言われていたが、彼女はいても立ってもいられずに、彼の元へと出向くことに決めた。

 周囲にも会わない様に注意されていたこともあり、夜間、部屋の前の見張りの交代の時間を見計らって部屋を出た。彼らは交代後に、わざわざティエラの部屋の中の様子を確認するようなことまではしない。

 寝間着にショールを羽織って出て来たからか、夜風が直接肌に当たり、少し寒いぐらいだった。

 夜ももちろん騎士達は廊下に立っているが、そこまで多くはない。

 ばれないように慎重に進んで、なんとかソルの部屋にたどりついた。

 特段、彼の部屋の前には騎士はついていない。鍵もしまっていないので、すぐに中に入れた。


 幸いと言って良いのかは分からない。熱を出して意識が朦朧としていたからか、ソルはティエラに気づくことはなかった。

 久しぶりに見る彼は、以前よりも痩せてしまっており、ティエラの胸は痛む。


 彼女は水を絞り、彼の額に濡れた白布を置いた。

 以前、ルーナの看病をしたことを思い出した。


『きっとこれからも……ソルの看病をすることはないとは思うんだけど……』


 そんなことを言っていた自分が懐かしく感じた。


 最後に彼に会った時――。


 ずっと症状が改善しないソルの心は、どんどん荒んでいっていたのが分かった。

 それを見て、ティエラはますます哀しくなった。

 それと同時に、幼馴染に何もしてやれない自分が歯がゆく感じていた。


 そんな時機に、ティエラはソルに想いを告げてしまった。


(別にソルに好かれていなくても良い。だけど、また元気なソルに戻ってほしい)


 そんなことを考えながら、寝台の脇でティエラはうとうとしていた。

 ソルのことが心配で、最近は眠れていなかった。

 彼の姿を目にして安心してしまったのだろうか。


 微睡んでいる内に時間が経つ。


 目の前に横たわるソルが頭を動かしたので、白布がずれた。

 彼が動いたので、ティエラの意識がまたはっきりと現実に戻ってくる。

 布のずれを直そうと、ティエラがソルの額に手を伸ばし掛けた時――。


「触るな」


 目を覚ましたらしいソルが、ティエラに向かって低い声で告げた。


「……ソル……」


 彼はティエラの姿を前に、怒りを顕わにしながら声を出す。


「何度言ったら、お前は分かるんだ」


 彼女の金の瞳が揺れる。


「ソル、私は……」


 彼女が何か言おうとすると、ソルがすぐに遮る。


「お前に哀れみの目を向けられたくない。同情で好きだと言われても、俺は嬉しいとは思わない」


 同情しているのだろうか?


 ソルに、自分が?


 彼は勘違いをしている。


 同情で、彼に好きだと言ったのだと――。


 それだけでも伝えることが出来たら……。


 射貫く様に鋭いソルの碧の瞳を見ると、少しだけ怯んでしまう。


 だけど、ここで退くわけにはいかない。


 テェイラは、なんとか口を開いた。


「同情なんかじゃない。私は、ソル、貴方のことが好きなの。貴方に元気になってほしくて……」


 消え入りそうな声で、ティエラはなんとか彼へと想いを伝えた。




※※※




 今は夜のはずだ。

 ソルが目覚めた時、あまりにティエラの姿が鮮明で、いつもの夢ではないと分かった。


 夢。


 もうずっと夢を見ている。


 人を殺す夢だけではない。


 彼女に関する夢だ。



 夢だけじゃない、想像も。


 何度頭の中で、彼女を抱いただろう。


 何度、彼女の白い肌に自分の肌を重ねる想像をしただろうか。


 何度、彼女の悦ぶ顔を思い浮かべただろう。




 これまで自分の半生をかけて護ってきた姫。




 いつから好きだったのかは、分からない。

 もうずっと、一人の女として見ていた。




 自分の衝動を抑えるので必死だった。




 心のどこかで、彼女も自分を好きなのかもしれないと、そう思っていたけれど。


 自分が戦場から帰ってきたとき、彼女と婚約者の距離が以前よりも近くなっていることに気づいてしまった――。


 本当は誰も殺したくなんてなかった。


 人をどれだけ殺めても、彼女の元へ帰れればと、そう自分を奮い立たせていたのに。


 いざ戻ってみると、行き場のない想いが残り、どこに自分が帰れば良いのかが分からなくなった。


 いっそあの時、中途半端に癒しの力で俺の事など救わずにいてくれれば、敵に殺してもらえていたら、そんなことまで考えていた。



 このまま、彼女もあの男に抱かれてしまうのだろうか。


 いや、もしかしたら、もうすでに――。


 もうおかしくなってしまっていたのに、さらに考えるだけで、もっとおかしくなってしまいそうだった。



 どうせ汚されるなら、もういっそ――。



 とりとめのない思考の狭間。



 気がついたら、いつも一緒に過ごした彼女を組み敷いていた。





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