【正史】0-12 太陽は大地への想いに気づく2
こんばんは。
『癒し姫』の続編との話数調整の関係もあり、ソルの話が3まで続きます。
今日は、朝早くに、ルーナがティエラの元を訪れている。
「最近ほとんど会えなかったので、朝議の前に少しだけでもと……」
彼がそう言って、ティエラの元に立ち寄ってくれたことは、とても嬉しい。
ただ、問題は、彼女が寝間着姿のままだったことだ。
(こんなことなら、もっと朝早くに起きておくんだったわ……)
ルーナは、ほとんど気にしていないようだが、ティエラは気になる。
恥ずかしくて、なかなか彼の顔を見ることが出来なかった。
「姫様、どうかなさいましたか?」
ルーナが、じっとティエラの様子を見ている。慌ててティエラは手を振って、否定した。
昨日の件が気になったので、彼女は彼に話しかける。
「ルーナ、昨日部屋に来てくれていたのなら、私を起こしてくれて良かったのに」
「昨日ですか? 私は、昨日は……」
彼はそこまで言って、歯切れが悪くなってしまう。
ティエラは、変なことを言っただろうかと気になる。
せっかく会える機会を大事にしたいと、ティエラは思ったのだが……。
しばらく間がある。
「……ああ、そうですね。今度からは起こしますね」
彼からの返答に、彼女は安堵した。彼に微笑みかけると、笑い返してくれる。
「そう言えば」と、ルーナが話題を代えてきた。
「まだあの男が来ておりませんね」
『あの男』とはソルのことだろう。
ティエラの元に、わりと朝早くに来てくれることが多い彼にしては、確かに遅い気もする。
「最近、今までよりも遅いのよね。以前は、グレーテルが朝の身支度をする前には来てくれていたんだけど……。休日の不在の時間が多くなったわね」
月の満ち欠けも影響するのだが、宝玉の守護もあり、城の中には霊魂が近づきにくい。月が満ちている時には守護する力が強く、欠けている時には力が弱まる。
満月に近い今、全部の時間をソルと一緒に過ごさなくても大丈夫ではある。
そうではあるが、最近のソルの態度が気になる。
隣国との開戦の可能性もあるということだから、その関係だろうか……?
ティエラが考えていると、ルーナが答えを提供してきた。
「ああ。最近は、あの男に縁談話がいくつか上がっておりまして、そちらに優先して対応しているようですね」
「ソルに、縁談話?」
ティエラは初耳で、びっくりしてしまった。
「そうです。あの男から、聞いておりませんか?」
ルーナの問いに、ティエラは首を横に振った。
「剣の一族が途絶えては、姫様が女王様になった際にも困りますから。姫様の護衛も大事ですが、そちらはそちらで力を入れていただかないといけません」
そう言われて、なぜかティエラの胸が騒いだ。
ルーナの言うことも、もっともなのは、分かってもいるのだが……。
ティエラが俯いていると、ルーナがティエラの脇を通って、椅子の上から何かを手に取った。そうして、彼女の方に戻ってくる。
彼は、寝間着姿のティエラに、そっとショールを掛けた。
「お身体が冷えませんように。それと、あまり他の男に、貴女の寝起き姿は見せたくはない」
そう言われて、ティエラの胸が跳ねる。
「朝から貴女様に会えて良かった。英気を養うことが出来ました。今日は、早く執務が終われば、また会いにまいります」
そう言って、ルーナは部屋から出て行った。
ルーナから優しい言葉を掛けられるだけで、どきどきしてしまうなんて、我ながら現金だなと、ティエラは思った。
※※※
ルーナと入れ替わるようにして、ソルが、ティエラの部屋に入って来た。
彼は、彼女をちらりと見ると、悪態をついた。
「グレーテルがまだか……。また、後から来る」
そう言って部屋から出ようとするソルを、ティエラは呼び止めた。
「待って!」
彼女は、ソルの腕を掴んだ。
「なんだよ……」
彼は一度、ティエラの方を振り向いたが、すぐにまた彼女からは視線を外した。
昨日、ソルと一緒にいた女性に関してや、縁談話が出ていることなど……。
彼について、ティエラが気になっていることを、思い切って本人に尋ねてみた。
「ああ、昨日は見合いだよ。今日、返事をすることになっている」
「今日……? 昨日会ったばかりなのに?」
ティエラは驚いて、ソルに問い直した。
彼は怪訝な顔をしていた。
「あんたとルーナも、顔合わせなんてなかっただろうが」
そう言われると、ティエラがソルと城を抜け出した日に、ルーナと出会ったのだった。
「で、でも、ソルは、あの人のことが気になったの……?」
「いや、全然だな」
ソルの発言に、ティエラは、自分とルーナの事を思い出して、なぜか嫌な気持ちになった。
それ以外にも、漠然とした何かがあったが、彼女にはまだ分からない。
「ぜ、全然って……。相手の女性にも失礼な気がする……」
「なんで、あんたが怒ってるんだよ? 俺もルーナみたいに、一緒に過ごしてたら、相手のことを気に入ることもあるかもしれないだろ? それに、俺には義務がある」
そう言った後に、ソルが、いつもの癖でため息をついた。
「そうかも……しれないけど……」
ティエラは俯いた。ソルの腕は掴んだままだ。
気配で、ソルがこちらを見ているのが分かった。でも、顔を上げることが出来ない。
彼が、再度ため息をついている。
そうして、彼は一人ごとのように呟いた。
「俺もやっぱり、適当に、相手を決めた方が良いかもしれないな」
ティエラは驚いて、顔を上げる。
「後から、また来る」
彼女の手から、彼の腕が離れた。
扉が閉まる。
「何よ……」
ソルの言うことも、もっともだ。
けれども、なぜかティエラには、釈然としない気持ちが残ったのだった。
明日はまた、上がる話になります。
どうぞ、お付き合いくだされば幸いです。




