第13話 記憶のない国
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ティエラが統治する予定のオルビス・クラシオン王国。
統治者である国王の座を継承する際には、必ず三つの神器を必要としている。
(だけど、今、城には玉の守護者であるルーナが所持する宝玉しかない……)
ティエラ、というよりも王国が本来所持していた神鏡は、先の剣の守護者が起こしたという事件の際に紛失していた。
(以前、調査をおこなっているとルーナから聞いていたけれど……まだ神鏡が発見されたという報告は受けていない……)
そして、神器の一つである神剣は、事件を起こしたというソルが所持したままである。
これまでにも神器のない状態での即位がなかったわけではない。けれども、そうした場合には、加護が受けられず、国内で災厄が起きたという伝承が残っているそうだ。
(だから、三つの神器が揃ってから即位した方が良いのよね……)
けれど、城から出ていったソルから神剣を取り戻すことは、かなり難しいと考えられていた。
「神器が揃わぬまま、姫様が即位した場合、玉の一族からも反発が出てもおかしくはありません。そもそも、鏡の神器がなき今、姫様が王族だと言う証明もしづらいと言えます」
ルーナが、ティエラにそう伝える。
「それに……剣の一族がどこかから、偽の王を祭り上げてもおかしくはない」
(王族だと証明出来ない上に、偽の王まで出てきたら……)
そう言われ、ティエラは不安を覚えた。
「ですが、今回の国王暗殺の一件は、まだ王国内の上層部の者たちしか存じておりません」
そう――。
国王が亡くなったというのに、妙に城内が落ち着いていると感じていたのは、一部の貴族達しか真実を知らなかったからだ。
国王の死は、大多数の者達にはまだ隠されている。
(ほとんどの貴族達には、お父様は病気で身体を休めていると知らされているそうね……)
元々、国王は病気がちだった。成人が近くなっていたティエラに、癒しの力が移行していたこともあり、彼の体力は著しく低下していた。そのため、なんとかごまかせている。
(そもそも、私が驚かされたのは――)
王国の城だと思っていた建物は、ティエラが住む城の一角でしかなかったのだ――。
これまで、ティエラは最低限の侍女や騎士にしか出会わなかった。だからこそ、彼女が記憶喪失になっていることも、周囲には気づかれずにいる。
だが、これからも大丈夫なのかと言われるとそうでもない。
(私の誕生日も近いらしいし――)
この国では、十七になると成人とみなされる。
病気がちな国王が、次の誕生日に十七歳を迎えるティエラへと、王位を継承するという流れ。その流れを、ルーナが作ったそうだ。
(継承の場に、国王であるお父様が現れないのはおかしいと皆分かるわ……)
「姫様のお誕生日までに、どうにかしたいのですが……」
ルーナは伏し目がちに、ティエラに告げる。
国王暗殺と彼女の記憶喪失を隠すために、彼がかなり魔力を消耗しているのを知っている。
体力の限界近いところで、ティエラへの時間を割いてくれていることも……。
「仮に神器が揃わずとも、貴女の伴侶となるこの私が、姫様を無事に女王陛下へと即位させてみせます」
ルーナの優しい蒼い瞳。
ティエラの女王即位の儀の際に、彼女とルーナとの婚礼の儀も同時に行われると、ティエラは聞かされている。
(ルーナは、優しくて、とても魅力的な男性……)
このまま記憶がない状態で夫婦になったとしても、きっと彼女を大事にしてくれて、幸せな日々を過ごせるだろう。
けれど、どうしても――。
紅い髪の青年と出会って以来、彼のことが引っ掛かってしまう自分がいる。
(ソル……私の幼馴染みで護衛騎士だったという……)
ティエラの記憶が戻らないまま、即位の儀と婚礼の儀は残り三月に迫っていた。




