第129話 陽が決めないといけないこと
「お前か……」
ソルを見たイリョスは、ため息を吐き、低い声でそう言った。
彼は五人を一通り眺めた後、セリニに目を留める。
「久しいな、セリニ殿」
「そうですね、イリョス様」
一言だけセリニに声を掛けた後、イリョスは五人の間を通り、奥の部屋へと歩む。
ネロとアリスは、二人ともはっとし、慌ててイリョスに礼をとっていた。
イリョスが部屋の中に戻るのを、セリニ以外の四人は黙って見ていた。
セリニが、イリョスに声をかける。
「すまぬが、イリョス様に話を聞きたくて、我々はここに参った」
「話、というのは?」
背を向けたまま、イリョスは尋ねた。
「神器について」
セリニの答えに、イリョスが返した。
「セリニ殿も玉の一族ではあるが、神器の使い手ではない。神器の使い手にしか教えることはできぬ」
「それでは、私は結構だ。イリョス様よ、ソルにだけでも教えてやってはくれないか?」
しばし間があった。
イリョスからの返答はこうだった。
「断る」
セリニ以外の四人に、さらに緊張が走った。
「剣は折れた。それはもう、神器の使い手ではない」
イリョスは、五人の方を向き直って、鋭い眼光でソルを見た。
ソルが、少しだけ怯んだところに、イリョスが言葉を発した。
「お前に口はついていないのか?」
黙ったままのソルに向かって、さらに言葉を浴びせる。
「これは、お前の問題ではないのか? どうして人任せにしている?」
ソルは、息を呑んだ。拳を握る手に力が入る。
「親父、俺は――」
他の四人も黙って二人のやり取りを見ていた。
一旦、ソルは目を瞑る。
今日の昼間、ネロとアリスとの出来事を思い出した。
『ほら、やっぱり、神剣が折れていたとしても、お前は剣の守護者なんだよ』
ネロに言われた言葉を反芻する。
そこに、先ほどの父親の言葉が重なる。
『剣は折れた。それはもう、神器の使い手ではない』
一方はソルを剣の守護者だと言い、もう一方はそうではないと言う。
(これは、俺の問題)
『違う。決めてたの』
ティエラがルーナに告げていた言葉を思い出す。
(ティエラは自分で決めて、自分の意思で城に戻った)
『これ以上、優しいあなたが心を痛めないで済むから」
(優しかったわけじゃない。自分が決めきれず、ティエラの判断に甘えていただけだ)
そう、自分が剣の守護者かどうか――。
(俺が、自分で決めないといけない)
ソルは、眼を開く。
そして、自分と同じ碧色をした父の瞳を捉えた。
「親父がなんと言おうと、俺は、剣の神器の使い手、剣の守護者だ」
イリョスは、ソルの眼差しを受け止めた。
しばらくして、イリョスは、一瞬だけ口の端を持ち上げ、言葉を紡いだ。
「そうか」
「親父……」
「お前が、自分で自分を剣の守護者だと言うのなら――」
ソルの言葉に、イリョスが重なる。
「私にお前の力を示してみせろ」




