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第123話 戦場と化した場所で、太陽と月は

「セリニ様!!」


 モニカの叫び声が、教会の敷地内に響いた。

 近隣では祭りが行われていることもあってか、事態には誰も気づいていない。


 セリニは、方円の中に閉じ込められている。

 彼は、体全体に重力がかかっていて、身動きがとれないようだ。


「従兄弟殿、貴方は少々やっかいですので、こちらで寝ておいてください」


 そう言って、跪くセリニに声を掛けたのは、彼と同じ銀色の髪をし、この国の玉の守護神と同じ姿をした男――ルーナだった。


「待て、ルーナ! お前は、このままでは……」


「未来の叔母上様にも申し上げましたが、姫様と私の婚礼にはぜひいらしてください」


 ルーナの側には、彼の付き人の二人、ウムブラとヘンゼルも控えていた。


「では、彼女とあの子を迎えに行かねばなりませんので」


 ルーナはセリニにそう言残したかと思うと、セリニの前から姿を消した。




※※※




 辺りが騒然となる。

ティエラは三人の子供たちをかばうように、廃墟の中、後方へと下がり、壁に背を向けるような形をとる。

 いくらか役に立つかはわからないものの、ティエラは呪文を唱えて、攻撃に備えて、魔術による陣を展開する。以前、セリニから学びなおしていた術を何とか行使した。思ったように出来て、ティエラは少しだけ安堵する。


 ティエラの前方では、ソルとネロ、グレーテルとアルクダが、それぞれ対峙していた。

 グレーテル達の方に視線を移す。

 これまでの話からして、アルクダが自分たちを裏切ったのは事実だ。ただ、どこから裏切っていたのかが分からない。

 グレーテルの表情には鬼気迫るものがある。なんだかんだ言っていたが、やはりアルクダのことを信頼していたのだろう。彼女の気持ちを思うと、胸が痛んだ。

 対するアルクダは、元々グレーテルを慕っていることや、術を展開する時間がないため、防戦一方になっていた。


 ソルとネロの方に目を向ける。

 こちらは一対一ではなく、一対多勢だ。ネロと闘うソルに対して、脇から騎士たちが次々に襲い掛かってくる。それらの騎士たちを裁きながら、ソルはネロの攻撃を躱している。

 さらにソルは、相手の攻撃が止んだ時機を逃さず、下級魔法の詠唱もおこなっている。神器の加護を受けたソルにしかできないだろう。


 ちなみに、魔術陣を展開しているティエラ達は、建物の奥にいることや、そもそも忠誠を誓う王族に牙を向くことができない者達が多いことで、攻撃されずにすんでいた。


 恐らく、今の状態のままだと、ソルがネロと騎士達に勝利して終わることができる。


 だが、問題は、ルーナが来るかどうかだ。


 後からティエラ達を追いかけてくると話していたセリニが、なかなか来ないのも気になっている。


 しばらく、ソルの独壇場が続いた。どんどん騎士たちが倒れていき、廃墟内を埋め尽くしていく。

周囲の騎士たちは、ソルの圧倒的な強さに慄いて、新たに攻撃を仕掛けようとする者たちがいなくなり、見守る者が多くなっていく。


 遂に、ソルに挑もうとするものがいなくなった。


 ソルは好機を逃がさなかった。

 ネロは、ソルの相手を他の騎士に任せ、時折攻撃を仕掛けていただけだったはずだ。武器として槍の方が長尺があるため、天井の高さを差し引いても、ソルの剣の方が不利なはずだった。だが、ネロがどれだけソルに槍で突いたり、振り払ったりしても、全ての攻撃を彼は躱してしまう。ソルと一騎打ちになってから、ネロはどんどん疲弊して言った。

 そうしているうちに、ネロの攻撃の手が一瞬止んでしまう。

 それをソルが逃すはずはなく、槍の間合いの中に入り込んで、ネロの手の甲に神剣の柄を打ち付けた。

 ネロの手から、槍が落ちる。

 ソルは、ネロの首に剣の切っ先を当てた。

 ネロは、大きく息を吐いた。


「やっぱり、俺じゃあ、相手にならないよな」


 彼は大量の汗を流しながら、苦痛に歪んだ表情でそうぼやいた。


「昔よりは強くなってたから、骨が折れた」


 ソルも疲れた様子で、そうネロに伝えた。


(やっぱりソルが勝った……)


 ティエラは少しだけ安堵していた。

 彼女の後ろに控えて震えていた三人の子供達も、ソルの事を囃し立てていた。

 アルクダとグレーテルも、しばし休んで間合いをとっていた。



 ティエラは、このままやり過ごせるかと思っていた。



 だが、呆然と見守っていた騎士達によって作られていた人垣の間に、自然と道が出来る。

 一人の人物が、その間を悠然と歩んで来る。


(あれは……)


 ティエラは、その人物の顔を見て、衝撃が走った。


 現れた男は、ネロに向かって声を掛ける。


「まだ、早かったか」


 ネロは「申し訳ありません」とだけ返した。


 そうして、その男はソルの方を見やる。



「それで、お前はこれからどうするつもりだ?」



 ソルは息を整えながら、男に向かって呟いた。



「親父」



 ソルにそう言われた、紅い髪と碧の目を持ち、髭を蓄えた壮年の男。

 彼は、ソルの父にして、国の騎士団長イリョス・ソラーレだった。


(イリョス叔父様まで?)


 ティエラは、少しだけはらはらしてしまう。


「ネロを一応、騎士の中では、お前の次に強い男になるよう育てたつもりだったが。神剣の加護の前では勝てないか」


 何か揶揄するような言い方をイリョスは口にした。


「ソル。お前の相手が出来るのは、この私しか残っていないようだな」


 イリョスは低い声で、ソルにそう告げる。

 ソルは、苦々しげな表情を浮かべた。

 イリョスが、腰に下げた剣の柄に手を伸ばそうとしたその時――。




「待ってください、イリョス殿」




 戦場には似つかわしい、涼しげな声が辺りに響く。

 声の主を思わず、ティエラは目にした。




「剣の守護者の相手は、玉の守護者の私に」




 そう言って、その場に現れたのは、白金色の髪と蒼い瞳を持った青年。

 今日は銀の髪が月に照らされ、輝きを放っており、神々しさを増している。

 



 ソルの前に、ティエラの未来の伴侶となるルーナが立ち塞がった。


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