表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/289

第10話 鏡の中の貴方は

6/3 文章の修正を行いました。

6/10再度見直し。




 ルーナが部屋まで送ってくれた後、ティエラはヘンゼルの手を借りて部屋着へと着替えた。

 部屋着は柔らかい綿の素材で出来ている。デコルテの開いたシンプルな白いドレスで、胸のすぐ下の位置から、すとんとしたスカート部分になっている。


 ティエラの着替えが終わると、ヘンゼルはさっさと部屋から出ていった。



 今日は新月だ――。



 月明かりがなく、室内は暗闇と静寂に包まれている。

 一人きりで過ごすティエラは、夜闇を少し不安に感じていた。


 そんな時、寝台の近くにある鏡に目が止まる。その鏡は、ティエラの全身を映すことができるほど大きい。鏡は、精緻な木彫りが施された縁に囲まれている。

 彼女は鏡に映る自分自身を眺める。

 そんな自分をみて、ティエラは自身が『鏡の守護者』だったこと思い出した。


(大地の聖女に、鏡の守護者……)


 三人の守護者たちは、それぞれ――神鏡・宝玉・神剣――といった神器を所持しているらしい。

 しかし、ティエラが鏡の神器を手にしたことはない。

 どうも、先の国王暗殺事件の際に紛失してしまったらしい。現在、調査隊が昼夜を問わず探しているそうだ。


(ルーナは、私に色々なことを教えてくれるわ――)


 ティエラは、国の政治・経済・歴史といった基礎的な知識等に関しても忘れてしまっている。

 そのため、時間がある際に、ルーナから再教育をしてもらっていた。


(ルーナはとても博学ね……)


 彼は、様々な知識に精通しており、教えるのも丁寧で分かりやすい。若かりし頃の姫の教育係に、彼が選ばれるのも当然だと言えた。


「やはり、私の姫様は飲み込みが早いですね」


 以前、再学習中のティエラのことを、ルーナが褒めてくれたことがある。

 そのことを思い出す。すると、ティエラからは自然と笑みが零れた。


 再教育の際に、鏡の守護者であるティエラには癒しの力が備わっていることを、ルーナが教えてくれた。


 先代の鏡の守護者である国王にも、癒しの力があったそうだ。


 しかしながら、暗殺事件の際には、次代の継承者であるティエラへと、国王から力の移行をおこなっていた最中だった。そのため、これまでのように強大な癒しの力を使うことが出来ずに、国王は亡くなってしまったようだ。


『私が力を得てしまったせいで、父は命を落としてしまったのですか?』


 そう気落ちしていたティエラ。彼女にルーナはそっと寄り添ってくれた。彼は忙しい中、しばらく時間を割いて、彼女を抱きしめてくれていた。

 ルーナの優しさを思い出すと、ティエラの胸はほんのりと暖かくなるようだった。


 最近のティエラは、ルーナのことばかり考えてしまう。彼女の近くにほとんど人がいないのも、もちろんその理由の一つだろう。


(私は、ルーナのことを……)


 彼女は思案にふける。


 時間が経ち、眼が暗闇になれ始めて来た。



 その時――。




「……ティ……」


「――っ!」



 突然目の前の鏡が波打ち始め、奥から声が聞こえた。


 ひとしきりさざめいた後、鏡に拡がった波が徐々に落ち着いていく。


 そうして目の前に、人物がはっきりとした姿で映った。

 鏡には、本来ならティエラがいないといけないはずだ。

 


 なのに、そこに映し出されていたのは――。



「ティエラ! 無事か?!」



――燃えるような紅い髪に、新緑を思わせる碧の瞳をした青年だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 大変興味深く拝読させていただきました。 主人公の置かれた状況にハラハラとしながら、叙情的な描写に、すっかり引き込まれてしました。ロマンティックでありながら、ちらちらと匂うミステリーの香りも、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ