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コンピューター特捜官 一色沙織  作者: 亜本都広
第一二章 一人になった特別捜査官
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二人の特別捜査官

「な、何で七尾さんが? 被害者じゃなかったの? この組織を調べていたんでしょ?」

 あたしの驚いた様子を見て、七尾は冷えた瞳で言い放った。

「数年前から私はこの組織の役員になったんだ。怪我をして君に迫ったのは、君から情報を得るためだ。決まってるさ」

 あたしはその言葉に絶句するほかなかった。七尾は言葉を継いだ。

「だけど、まさか君が内偵してるなんて気づかなかったよ。前に電話したときだって、調査したらスマートフォンの場所はC4の側だったからね」

「どうしてそんなことを?」

 あたしが尋ねると、七尾はもう隠しても仕方がないと思ったのだろう。短く説明してきた。

「私が実質的に統括する組織だからだよ。だから、時間稼ぎをしたかったんだ」

 あたしはバカだ。

 あたしはコイツに警視庁が捜査していることを知らせてしまった。ガサ入れも今日だって言った気もする。

 だから、役員たちがガサ入れの直前に逃げ去ってしまったんだ。

 あたしが失敗させたんだ。

 ――あたしが誘われたのも、情報を得るための計算ずくだったんだ。

「あたしを襲わせたのはあなたね? あなたが太田を撃ったんだっ! 大石を自殺に見せかけて殺したのもあなたでしょ?」

「そう言うこともできる。だが、もしそうなら、同じように君が殺したとも言えるんだよ。もっと君が表面だけを調べてくれれば、誰も死ぬことはなかったんだからね」

 七尾はあたしを見て肩を竦めながら言う。

 七尾は焦っているようには見えない。

 あたしは別のノートパソコンを拾い上げるときに、七尾を見て仰天した。

 ――拳銃を持ってる! なんで? どうして、コイツが銃を持ってるの?

「な、なんで?」

「私の経歴は知っているだろう? 護身用に持っていたのさ」

 そう言って、七尾は薄く笑う。それは爬虫類の笑みだった。

「いまさら何をしても、逮捕は免れないわよ。あきらめなさいっ」

 七尾はひるむことなく、言い放ってくる。

「私がどんな罪を犯したって言うんだ?」

「銃刀法違反っ! それに横領!」

 あたしが叫ぶと、七尾は虚を突かれたように肩をすくめた。

「そりゃそうか」

 そういった後、倒れたままのノートルダムを指さして続けた。

「だけど、こいつが実行したツールはサーバのデータを全て消去して、7回ランダムデータで上書きをする。米国国防総省に準拠した手続だ。もう横領の証拠の提示は無理じゃないか?」

 そして、その隙にあたしが飛びかかろうとした。

 その瞬間、甲高い拳銃の発射音が響く。

 あたしは一瞬自分が撃たれたと思った。

 だけど、違った。

 ノートパソコンに大穴が開いてる。

 それを持つ手がジンジンしていた。貫通しなかったけど、ノートパソコンに当たったようだ。

 あたしは、その時まで、恐怖心が麻痺していたと思う。

 だけど、ノートパソコンに開いた大穴が、あたしに現実を見せ付けている。

 ぞっとした。七尾は、あたしの方に進んでくる。

 あたしは少しずつ下がりながら、もうあまり下がれる距離がないことに気が付いてた。

 ――どうしよう!

「ドアを開けて逃げ出した方がいい。女の子を撃つなんて、気持ちのいいもんじゃなかったからな。やはり男の警官を撃つのとは訳が違う」

 七尾が言い放った。だけど言葉とは裏腹に、今にも発砲しそうな様子が垣間見える。

「あんたもあの男と一緒にあたしたちを撃ったのね?」

 あたしの言葉に、七尾はなぜか一瞬当惑したようだった。

「あの男? ああ、あの外国人のことか。まあ、銃を使ったのは事実だ。正直興奮したよ。訓練とは緊張感が違うね」

 七尾が軽くあざ笑うような調子で続けた。

「コアメンバーは既に逃げたし、君たちはこの組織が捜査されたという事実だけで満足すべきだ。そもそも日本の捜査機関が単独で私の組織を捜査するなんて無茶だったと思うよ」

 ドアを開けて逃げだすなんてできない。あたしは警察官だ。

 ここで逃げ出すなら、あたしは警察官にならなかった。

 そんなことをしたら、あたしを守ってくれた太田に対する侮辱だ。

 それに、何よりあたし自身が自分を許せない。

「警視庁をなめるなっ」

 あたしが怒りに燃えて叫んだときのことだった。

 乱暴にサーバ室のドアが開いて、誰かが入ってきたんだ!

 入ってきた人の顔を見たあたしは、その名前を大声で叫んでた。

「真治っ!」

 真治はすぐに状況に気が付いて、あたしと七尾の間に割り込んできた。七尾はびっくりして何歩か後ろに退いた。真治は身体を横にして、七尾からあたしを守るように抱きしめてきた。

 その後、あたしは真治に軽く抱きしめられたとき、すっごく安心した。

 真治は小さくあたしに言ってくる。

「サーバ室がないから探してたんだ。受付に、一一階がGABホールディングだって書かれてなかったから来るのが遅れた。すまん」

 早口でそう言った後、あたしの瞳を見つめて続ける。

「震えてるのか? もう大丈夫だ。お前は良くやったよ。一人にしてすまなかった」

 あたしは真治の胸に頬を当てる。真治は短くあたしの頭を撫でた。

 そのしぐさにあたしの胸がズキズキと痛む。

 だけど、それに真治は気付かないと思う。それがあたしは悲しい。

 そして真治は、あたしから離れた。

 真治を見上げてあたしは気付いた。

 真治が怒りに震えているのが分かる。

「許さないっ!」

 真治はそう言って、あたしを後ろに追いやって、七尾の前に立った。真治は七尾の方に二、三歩進む。

 あたしは不安そうに真治を見るしかない。

 真治が撃たれるなんていやだ。

 あたしをかばって太田は撃たれた。

 ――真治が死んだら、あたし、生きていけない。


「沙織」

 真治は振り返らずにあたしに言う。

「お前は大場巡査たちを呼んで来い」

 あたしは真治の言葉に首を横に振った。

 ――真治を置いていく? そんなこと出来るはずがないっ。

「いや! あたし、絶対逃げないっ」

 七尾は、真治が現れてちょっとだけ悩んだようだった。

 だけど意を決したように言い放った。

「じゃあ二人とも仲良く死ぬといい」

 真治はその言葉の瞬間、七尾に飛びかかった。

 パンという押さえられた銃声がサーバ室内に間隔をあけて二度響いた。

 それは背後から響いた。

 ――どうして背後? 応援部隊が来た?

 だけど、あたしの期待は見事に裏切られた。

 振り返るとそこには、シグ・ザウエルを持った青い眼の男が立っていた。

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