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コンピューター特捜官 一色沙織  作者: 亜本都広
第一二章 一人になった特別捜査官
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サーバールーム

 それを契機にして、警視庁の捜査が始まった。

 沢山の警察官が押し寄せてくる。

 あたしはそれを見てとっても安心したけど油断は禁物だ。

 ふと見ると、田神班長が食堂まで上がってきていた。あたしは、声をかけてみる。

「田神班長!」

 あたしの声を聞いて、田神班長は振り返った。

「一色特捜官か。大変だったな。大場巡査から話は聞いたよ。けがもなかったようでよかった。例の男も心配しなくていい」

 だけど、役員は、ほぼ全員がさ入れの前に逃げ去ったらしい。残っていたのは、二人だけだった。

 しかも、この二人は……。

「二人は、外交官の不逮捕特権を主張している。一人はイギリス大使館の参事官で、もう一人は一等書記官だ。事情聴取だから逮捕じゃないって言ってるのに、話を聞かないんだよな」

 そう言って、田神班長は肩をすくめた。

 勘違いされやすいが、事情聴取は任意の行為だ。不逮捕特権とは関係がない。

 もし事情聴取を拒否するなら、理由と共に説明すればいいだけだ。

 最も理由の説明が出来ないから困っているのかも知れないけど、その場合は法廷で黙秘する時のように『自分に不利になる可能性があるので供述を拒否します』という奴をやればいい。

 それ自体が客観的に不利な証拠を積み上げる行為かも知れないけど。

「あたし、建物の中を見回って見ます」

 あたしの言葉に、田神班長は少しだけ不安の色を込めた言葉を発した。

「注意してくれよ? 見つけたら、自分で何とかせずに、他の警察官に知らせてくれ」

 あたしは警察官が徘徊する一〇階から、階段を使って一一階に上がった。

 そしたら、その階は静まり返っている。なぜだろう。

 ――何で警官がいないんだろう? すぐに全フロアに警察関係者が入るはずなんだけど。

 そんなことを考えていると、ノートルダムがもう一人の男と、フロアを出て行こうとするのが見えた。

 横顔で顔はよく見えない。

 あたしは二人があわてていることを見て取った。

 それであたしは確信した。

 ――絶対、証拠隠滅工作だっ!

 あたしは、シーンとなったフロアを背に、ノートルダムを追いかけて廊下を走った。

 どこに向かっているんだろう?

 そして、二人が奥の鍵がかかった部屋に向かっていることに気付いた。

「待ちなさいっ!」

 あたしが叫ぶと、ギョッとした顔で、二人が振り返る。

 だけど、ノートルダムはあたしだと分かって、言い返してきた。

「バイトの分際でっ! 今忙しいんだ! 俺たちはサーバ室に行くから、お前は戻れ!」

 サーバ室?

 そういえば、ほとんどのシステムのイギリスだけど、国内にイギリスとの中継サーバがあるって言ってた。

 ――それだっ。

 警察のガサ入れに気付いて、何かしようとしてるのに決まってる。

 あたしは警察手帳を出して上に掲げた。そして、大声で怒鳴った。

「あたしは警察官よっ! 四の五の言わずに止まりなさいっ!」

 ノートルダムは硬直しかけている。

 けど、もう一方の男が構わずサーバ室に向かっていた。

 ノートルダムを促して、二人はサーバ室に急いでいく。

 あたしはそれを必死で追いかけた。

 ノートルダムがサーバ室のドアを閉め切る直前に、あたしは何とか足を引っかけて、ドアが締め切るのを防ぐことができた。

 ――何でこの階に誰も警官が来ないのよっ!

「あなたたち、公務執行妨害で逮捕するわよっ!」

 ノートルダムは必死にドアを閉めようとして、差し入れられたあたしの靴を蹴り飛ばしていた。

 だけど、やがて無理だと悟った様だ。

 ふっとドアに込められた力がゆるんだ。

 今だ!

 あたしは、渾身の力を込めてドアをこじ開けた。

 なんとかドアが開いた。

 そこは、あたしが初めて見るこの会社のサーバ室だった。サーバがあちこちに散在する埃っぽい部屋だ。足元を見ると、いろいろなケーブル類が散乱してる。

 だけどその中はそこそこ広い。少なくとも一二畳以上あると思う。

 この部屋の幅は五メートルくらいだけど、両方の壁際にはサーバが一杯設置されているので、歩ける幅は二メートルくらいしかない。

 見ると、その奥には大きめなサーバが鎮座していた。それが中継サーバに間違いない。

 辺りを見回してみると、あたりには監視用コンソールとして使うノートパソコンがたくさんあった。

「お前が警官だったとはな。全然気が付かなかったよ」

 ノートルダムが言う。そして、突然あたしの方に殴りかかってきた。

 あたしはびっくりして、少しだけ後ろに下がってよけた。

 背後で男が、懐から何かを取り出そうとしているのが見えた。

「そんなことすると罪が重くなっちゃうからね!」

 あたしは、そう言いながら、後ろ手にドアを開けて、ドアと壁の間に、近くにあったケーブルを放り込んで、ドアを半開きにした。

 これで、もし警察官が来たら、不審に思ってくれる。

「もう、誰かを傷つけたくらいじゃ罪の重さを変わらんね」

「なんでよ?」

 あたしは時間稼ぎのためにノートルダムに聞き返した。

「そりゃ会社のお金を大量に横領してたからに決まってるさ」

 ノートルダムはそう言いながら、威嚇しながら中継サーバの方に向かった。

 まずいっ!

 周りを見渡して、武器になりそうなものを探した。だけど、どう見てもなかった。

 あたしは仕方なく手近の管理用のノートパソコンをつかんで、つながっているケーブル類を力任せに引っぺがした。そしたら、ノートパソコンの接続端子が変形したけど、何とかケーブルを外すことが出来た。

 これで怪我をさせられることは、真治で証明済みだっ!

 あたしはノートパソコンを右手に持って、ノートルダムに近づいた。

 ノートルダムは意外そうに中継サーバの手前でこっちを振り向いた。

「おいおい、そんなので何するの?」

「あたしはコンピュータ特捜官。コンピュータの使い方は慣れてるのよっ!」

 あたしの言葉に、ノートルダムはちょっとだけ意外そうな顔をした。

「コンピュータ特捜官? 警視庁に二人いるって言うあれか? そういえば名前は――」

 そう言ってから、記憶をたぐる素振りを見せた。

「じゃあお前は一色特捜官なのか? こりゃおもしろい。会ってみたかったんだ。有名な美人の特捜官にね。へぇ、なるほどねぇ」

 無遠慮にあたしをじろじろ見てるノートルダムを尻目に、あたしは周囲に別な獲物がないか探した。

 でも、どう見てもそこにはノートパソコンしかない。

「横領って言ってたわよね? 毎月の送信データに細工してるんでしょ? 日本にシステムがないから誰にも気づかれないのよね?」

「ご名答」

 ノートルダムはそう言った後、振り返って中継サーバに何か操作をしようとした。

 隙だらけだ。

 あたしはその瞬間、ノートパソコンを振り上げる。

 真治のときと違って、あたしは手加減しなかった。する理由がない。

 全身を屈めてから、体中のばねを使って力を込めてノートルダムの後頭部を殴りつけた。

 ノートルダムは『ぐえっ』という蛙が潰されたような変な声を出して、大の字に倒れた。

 背後に立っている男は呆れたようにそれを見ていた。

「不注意なヤツだ。だが、とりあえずサーバのデータは全てディスクごと削除したようだな。まあ、よくやったというところか」

 あたしはその男をじろじろ見て、絶句した。

 その男は――七尾さんだった。

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