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コンピューター特捜官 一色沙織  作者: 亜本都広
第一章 コンピューター特捜官
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取調べの前にカツ丼は食べたくない

 そう言えば、車の中で真治に言い忘れたことを思い出した。

 坂上のPCを調べていてもう一つ、引っかかることがあったんだった。

 それは、なんだか変なプログラムがこのコンピュータに入ってたこと。

 それに気付いたのは、売り上げを調べたとき、変な送金用のプログラムの名前が書かれていたから。そこには、グローバルアクセスバンクって書かれてた。

 あたしは、注意してそのプログラムを探して、テスト用のPCから実行してみたけど起動出来なかった。時間がなくて、プログラムの動きを詳細に調べられなかったから、一旦その調査はやめて、分かった範囲で報告書を取りまとめることにしたんだ。

 ただ、それは単にあたしが気になったというだけで、何か問題がある訳じゃなかった。

 だから、あまり気にしないことにした。だって、被疑者はもう拘束されているし。


 渋谷署に着いたら、ちょうどお昼時だった。

 署に入ると二階に上がって、生活安全課に向かう。そこは、たいていの警察署と同じで、奥に課長席、その隣に課長代理の席があって、後は係長の席と一般の刑事の席が並んでいた。

 ちなみに席の位置でだいたいの階級が分かる。

 そして、生活安全課の入口の左側には取り調べ用の部屋が二つ並んでいた。

 渋谷署の生活安全課第一係長は、あたしを見つけると、大げさにお礼を言ってくれた。

「本部の特捜官に何度も来て頂いて、本当にありがとうございます」

「いいえ。これも仕事ですから」

「昼食の後にでも取調べをお願いします」

 その後、なんだか自動的に出てきたカツ丼を丁重にお断りして、ショルダーバッグに突っ込んでおいたおにぎりを食べることにした。

 カツ丼なんてカロリーの高いやつ食べられないから。

 でも、太田は、当たり前のように出てきたカツ丼を食べていた。

「何で所轄に来るといつもカツ丼が出るのかなあ?」

 あたしの疑問に、太田はおいしそうにカツ丼を食べながら、馬鹿面で答えた。

「そりゃ、そういうもんじゃないすか?」

 あたしはすることもないので、太田と一緒にちょっと早めに生活安全課の取調室に入った。

 取調室って言っても、別に刑事ドラマみたいにマジックミラーとかがある訳じゃなくて、単なる三畳くらいの小部屋だ。テーブルと椅子がいくつか置かれてて、壁際には記録者用の小さな机と椅子も用意されている。太田は、この記録者用の椅子に座って、あたしと被疑者の話の内容を調書にまとめるのが仕事。

 取調室のドアを開けて外を見てると、しばらくして、腰紐でつながれた被疑者がここに来るのが見えた。そして取調室に着いた被疑者を見て、あたしは聞いた。

「坂上真一さんね?」

 被疑者は小さくうなずいただけで、何の発声もしなかった。

 取調室は取り調べの際にも、よほどのことがなければ開けておく。密室にしないように。密室での取り調べは、後で弁護士から自白の強要といわれるリスクが増すからだ。

 坂上真一を見た印象は、色白のどこでもいそうなサラリーマン。目線も鋭いようには見えず、本当に犯罪を犯したという風には見えなかった。

「あなたの氏名もわかっているし、物的証拠もそろっているから、黙秘を続けるなら、それでもかまわないけど、ホントにそれでいい?」

 坂上真一はまったく何の反応もしなかった。あたしは言葉を継ぐ。

「押収したあなたのコンピュータにはアクセス履歴が残っていたし、転売サイトから入手したログもそれとぴったり一致してた。転売で提示された銀行口座はまさにあなたの名義で、直前にあなた自身が引き落としてることがログと映像で確認されてる。だから、あなたが黙秘を続けても、あたしたちには関係ないよ。だけど、いくつか聞くわ。何で、一番利益があった半年前に突然やめたの?」

 坂上はあたしの言葉に無反応を続ける。そこでとっておきの情報を出してみた。

「あなたを警察に通報した人は、どうしてそんなことをしたのかしらね。最初は商品が届かなかったということでの通報だったけど、配達記録を調べたら、ちゃんと配達されていたらしいし、不思議だと思わない? 怨恨とか、何かその人に怪しまれる要素ってあった?」

 その言葉に坂上真一がびくっと震えたことを私は見逃さなかった。

 最初に通報を受けた渋谷署は、怨恨の線を含めて捜査を進めていたのは事実だ。

 あたしの質問に、初めて坂上真一が口を開いた。

「そんなことはそいつに聞いてくれ」

 渋谷署の結論は、通報者は全くの無関係ということだった。通報者からの情報提供はあったが、大したものはなかった。

 通報した理由に関しても、「品物が届かないと思って通報しただけ」の一点張りだった。

 まあ、実際に犯罪だったのだから、あまり問題にはなっていないのも事実だ。

「最後に聞くけど、グローバルアクセスバンクって何?」

 坂上は、あたしが「グローバルアクセスバンク」って言ったとき、再びビクッと震えたように見えた。そして、小さく呟くように言う。

「気づいたのか? もしあんたが守れるなら――」

 そこまで言いかけて、坂上は再び口を閉ざした。

 あたしは、警戒して再び聞いた。

「守れるって何?」

 だけど、坂上はもう何も言葉を発さなかった。

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