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3. 第二章 覚醒の兆し

 ルティアの両親からエスティナート島の調査に向かうと連絡が来てから、一週間が経過した。あれからずっとルティアは俺のベッドで寝る。異常な甘えっぷりだ。最初は恥ずかしがってなかなか寝付けなかったけど、今ではむしろ一人で寝られなくなりそうと笑顔で言っている。もうそろそろ一人で寝かさないと色々困るのでは、と思い始めたところだ。そういえば、ルティアと一緒に寝てから悪夢にうなされなくなったな。何でだろう。今はまだルティアは学校へいつも通り行くが、学校に行きたくないと言い出したらどうしようと不安になってきた。そんなことを考えながら散歩している。


「クロってやっぱ頭いいんだろうなー」


あいつ以外の動物を何度も見かけたが、クロほど言葉を理解しているような反応は見せない。というかクロが的確な反応をしすぎて、今ではそれが馴染んでしまったが常識的に考えておかしい。まぁ、面白いしそれはいいか。クロは散歩に時々ついてくるが、今日は何故か不機嫌だったので置いてきた。


「あ、レイドだ!」


大通り近くの道で、母親とその子どもの知り合いに会った。


「こんにちは、フィリアのシュークリーム美味しかったです。ありがとうございます」


フィリアのお菓子屋という名前のお店を経営している家族で、シュークリームはこの母親が作っているもの。フィリアのシュークリームが美味しいと勧めてくれたのは、一緒にいる息子のレノア君だった。


「いえいえ」


口元に手を当てて、優しく微笑んでいる。しぐさとか、話し方が常に柔らかく優しい、そんな人。


「レイド、シュークリーム美味しかったか?」


この子は、なんにでも全力で楽しんでいる感じがする。父親似だろうか。やんちゃな子で母親の雰囲気とは全く異なる。子供だから、なんにでも旺盛なだけって可能性もあるけど。


「うん、美味しかった。ルティアも喜んでた。教えてくれてありがとう」


頭を撫でてあげると笑顔になった。あぁ、やっぱりこの母親の子供なんだな。笑顔が似てる。


「おおー、良かった! 俺にもくれ」


「もう全部食べちゃったから、今度遊ぶときにな」


そんな話をして別れた。






今日はまだ行ったことのない道に行ってみよう。流石に半年間何も思い出しませんでしたで、ただで美味しいご飯をごちそうになりっぱなしはルティアに顔向けできない。


親子と別れてから少し経った。


「あれ、ここどこだろう。歩いてたら迷子になった」


何も考えずフラフラと歩いていたら自分がどこにいるのか分からなくなった。それにしても人気のない所だな。困った。道を尋ねようにも人がいないんじゃどうしようもない。馬車が一台通れるくらいの広さの道で、両側建物で塞がれ視界が悪い。ルティアの家からどれくらい遠くまで離れたのだろうか。


「新しい馬はいつ来るんだ」


この先の曲がり角の奥から声がする。よかった。これで漸く帰れる。


「あのすみません、道を聞きたいんですけ・・・・ど」


迂闊だった。よく見れば足元には壊れた木の破片や血が。血の匂いは声をかけてから気が付いたがもう遅いようだ。とんでもないところに来てしまった。


「なんだ? 追っ手か。まぁ、暇つぶしにはいいな。へへ」


全身黒い服の男が四人。そのうちの一人がナイフを持って近づいてくる。奥には女性が地べたに座っている。その女性は顔を布で覆われて、口元に布の上から紐で縛られている。服はいろんなところが裂け肌が露出し、血が出ている。ここら辺では見ない服装をしているな。貴族か? 俺の足元やナイフを持って接近してくる男の近くにも、数人の男が倒れている。この人たちは恐らく、女性を助けるために戦った人だろう。血だらけで誰一人ピクリとも動かない。死んでしまったのか・・・・? 


「おいおい、転がってる人間気にしてないで殺りあおうぜ」


倒れている一人の頭を踏みつけながらそう言った。まずいなこれ。どんな行動を起こすにせよ、判断を間違えると殺されかねない。俺は魔法が使えないから、戦闘はなるべく避けたい。あの謎の瞬間移動も、今のところ自分の意志では出来ない。初めて瞬間移動を経験してから何度か試したが、一度もできなかった。自分の命を守るためには逃げることが一番だろう。だから逃げるべき・・・・。なのになんで! 俺の足はここから逃げようとしてくれない。恐怖で動けないのか?


つかまっている女性は何度も首を横に振っていた・・・・。「逃げて」と俺の命を案じているように感じた。


「簡単には殺さねーから安心しろ。お前は痛めつけて楽しむための、おもちゃだ! ハハハー!」


一気に懐へ接近してきた。右手に持ったナイフを後ろへ振りかぶって――。


「っぶね!」


ギリギリで顔を狙った左手のスイングを躱した。次が来る! とにかくこの男の攻撃を何とか捌いて逃げないと・・・・。あれ? なんか・・・・。


「ほう、思ったよりやるじゃねーか!」


次々と攻撃が来る。ナイフで斬りかかってきたり、ナイフを囮にしてちらつかせ、足や手、全身をうまくを使って攻撃してくる。でもなんでだろう、攻撃が読める。戦ったことなんてない。初戦闘だ。少なくともルティアと会ってからの間では。俺は過去に戦闘経験があるのか・・・・?


「なんなんだ! テメェ!?」


攻撃がすべて躱されて明らかな動揺を見せた。奥にいる黒服の一人が何やらぶつぶつ言っている。もしかして魔法、詠唱しているのか!? まずい、どうする・・・・。攻撃を躱しながらふと、落ちていた剣が目に映った。


「アードラ! 下がれ!」


後ろの男が叫んだ途端、殴りかかってきていたアードラとかいう男が俺から離れた。まずい、魔法がとんでくる! とにかく剣拾ってどうにか――。





 ・・・・まただ。瞬間移動の時と同じ。何が起こったのか、理解が追い付かない。気づくと、黒服の男達は全員倒れていた。死んでいるわけではないらしい。


「なんかよく分からないけど、これで逃げられそうだ。大丈夫ですか!?」


女性に近づこうとしたとき、右手に見知らぬ剣を持っていた。


「うおぉ!? なんだこれ!? 刀身と持ち手が離れてる! 」


持っている剣は、刀身の片方だけが刃になっていて、持ち手である柄と刀身が拳一つ分ほど離れている。その空間は青く光っている。振っても繋がっているものと同じように刀身がちゃんと動く。俺が見て拾おうとしていた剣とは別物・・・・。というかこれで斬ったのか? 何が起こったか分からないが整理するのは後回しだ。


「ちょっと、大丈夫ですか?」


肩を揺らして反応を確かめるが動かない。仕方が無いので目と口を覆っていた布や紐を取った。


「っ!」


言葉を失うほどとても綺麗な人だった。金髪で目鼻立ちが異常なまでに整った人形のような顔。って、驚いている暇はない!


「もう大丈夫ですよ・・・・? えっ!? さっきまで意識あったのになんで!」


何故か女性も意識を失っている。大通りに出られれば何とかなる。どっちか分からないが背負って行くしかない。剣は邪魔だし置いて行こう。剣を放り投げて、女性を背負いその場を後にした。


「くそ、こっちか? あーもうどこ見ても同じような風景だな」


細い道がそこかしこに分かれていて、しかもどの方向を見ても同じような形をした建物で視界を埋め尽くしている。


「なっ!?」


偶然一般人らしき男を見つけたが、倒れている。血とかは見たところない。意識を失っているだけか・・・・。くそ、仕方ない。二人担ぐか。

人を見つけたのが功を奏したのか、人がいた道の奥へまっすぐ進むと、大通りが見えた。


「でかい道、大通りだ。おーい! 誰か助けてくれ!」


大通りは目の前。左右の視界が高い建物で塞がれて、大通りの見えている所に人は確認できないが、大通りにはたくさんの人がいるはずだ。


「着いた。あの、誰かたす・・・・ってなんじゃこりゃぁぁ!?」


ビックリしすぎて、途中で見つけて担いでいた男を落とした。女性の方は何とか落とさずに済んだ。なんなんだ。大通りにいる人や馬、全員倒れている。何人か確認したが皆死んでいるわけではなく、気絶していた。


「なんで気絶してんだ皆。なんで気絶してないんだ俺!?」


気絶しているならこの女性を預けるのは無理だろ。


「どこに行けば意識ある人間いるんだよ!」


大量に倒れている人々を見て悩んでいると、一つ行く場所を思いついた。高貴な人がいる場所といえば王城だ。ここから王城までは大通りを真っ直ぐに行けば・・・・。

「王城どっちだ!? くそ・・・・一か八かこっちだ!」


面白い、次が気になる、そう思っていただけるよう頑張ります。感想など是非ともお願いいたします。

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