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転生したら女の子だったのでせめてSランク冒険者になる  作者: ゴブリン・A・ロイド
第3章 王国叛乱
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番外編 武神祭(1年前)前編

鬱パートが続いたので番外編。


※オリヴィア視点です。

武神祭は年に一度。


学園で学んだ魔法の技術を、父母や一般観衆へお披露目する催しです。


夏場に運動場が解放されて、一、二年生は習った魔法の実演をします。


三年生以上は二人組を作り、決闘形式の魔法演習を行います。


決闘演習は勝ち抜き戦。


学年別に分かれて、男女は混合です。


魔法に男女の力の差はありませんから。


この日に限り、学園は一般開放され、観戦客は大勢詰めかけます。


魔法の撃ち合いを見る機会は中々ありませんから、初等部の決闘も盛り上がりはしますが、基本的には高等部の決闘が最も盛り上がるところです。


基本的には。




「ウォーターボール!」


Bクラスの生徒が弱々しい水の魔法を放ちます。


もし当たったとしても、押し倒される程度の威力です。


しかし、決闘演習の勝利条件は『相手に魔法を当てること』。


生徒は全員、安全のために魔力障壁を身に纏っていて、それに魔法が当たれば勝ちです。


故に、この弱々しい魔法も、防ぐか避けるかしないといけないのですが…


「土壁ええええい!!!」


詠唱破棄して作り出された土の壁は、あまりにも巨大。


一瞬にして、天高々と聳え立ちました。


「おおおおおおおおおおお!!!」


観客は興奮して歓声を上げますが、


「…またモニカは無駄な力を使って…」


「あいつ、見かけによらず派手好きだからな…」


わたくしとギルバート様は揃って苦笑していました。


私達はもう見慣れた光景ですが、Bクラスの生徒達は巨大な壁を前に放心状態。


しばらく経ってから我に返るも、


「うぉ、ウォーターボール!」


パシャん!


「ど、どうしよう!?全然壊せないよコレ!」


「と、とにかく、回り込んで術者を倒さないと…」


今更そんなことを相談する二人。


しかし、モニカは無慈悲にも指を鳴らし、土の壁を魔力に戻してしまいました。


そしてすかさず、壁の裏で詠唱を終えていたダニエラ様が風の中級魔法を放って、


「エアランス!」


「「ぎゃあああああ!!」」


Bクラスの生徒二人は為す術もなく敗北したのでした。




「お前は何をやっているのだ!」


「ええ!?私また何かやっちゃいました?ちゃんと勝ちましたよ?」


勝って戻って来たモニカに、ギルバート様がお説教をします。


「何だあの無駄に大きい土壁は。どう考えても不要だろう!」


「いやいや、お祭りですからね。派手な方がお客さんも楽しいだろうなーと」


「あと四戦も控えているのですよ?決勝の肝心な場面で、魔力切れを起こしても知りませんから」


「いうて、アレくらいなら一千枚は作れるので…」


「何度聞いても呆れ返る魔力量だ…」




全クラス対抗の武神祭。


能力的に、例年特待生組みが最も活躍しますが、特に制約などは課されません。


ですが、唯一人、モニカにだけは特別に、厳しい制限が設けられています。



一つ、直接的な攻撃の禁止(魔力障壁があっても危険なため)。


二つ、土壁は二枚まで(土壁三枚で相手を完全に囲ったり、自分を完全に囲ったりすると、破壊出来ず試合にならない恐れがあるため)。


三つ、円形の土壁を作ってはならない(同上)。


四つ、試合場を両断するほどの土壁は出してはならない(同上)。



これだけ厳しい制限を課されてなお、昨年の優勝者はモニカでした。


ちなみに、その時の相方はわたくしです。


土壁をかいくぐったギルバート様とラウレンツ様に、誘導式のファイアーアローを当てて勝ちました。


…本当は、今年もモニカと組むつもりだったのですが、


『お前達が組むとあまりにも強過ぎる。来年は別の者と組むように』


とエルダー先生から釘を刺されてしまい、今年わたくしはギルバート様と。


モニカはダニエラ様と組んでいます。


ちなみに、ラウレンツ様と組んでいるのはロジーナ様です。




試合は進み準決勝。


二戦とも順当に、特待生同士の対決となりました。


わたくしとギルバート様はラウレンツ様達と当たりました。


わたくしがロジーナ様を倒し、ギルバート様がラウレンツ様を倒し、激闘を制して決勝へ。


準決勝第二試合は、マルコ様・エッカルト様対モニカとダニエラ様でした。


「ウォーターボール!」


開始早々、マルコ様の水魔法がモニカを狙います。


詠唱破棄した、小さく速い魔法での奇襲作戦。


「土壁!」


しかし、これをモニカも詠唱破棄の土壁で対応。


「あの攻撃でも、壁を抜くことは出来ないか…」


ギルバート様が隣で呟きます。


しかし計算のうちだったのか、すぐさまマルコ様達は二手に分かれて、左右から土壁を回り込んで行きます。


昨年、ギルバート様達が実践した方法です。


モニカの作れる壁は二枚のみ。


正面の壁が残っているうちに左右から攻撃すれば、モニカ一人では対応しきれなくなるのです。


去年はモニカがギルバート様を止め、わたくしがラウレンツ様に相性勝ちして勝利しましたが、今年の相方は風使いのダニエラ様です。


水使いのマルコ様にも、炎使いのエッカルト様にも相性では勝てません。


純粋な魔法の実力でも、ダニエラ様は一枚劣ります。


このまま昨年と同じ展開になれば、モニカ達の苦戦は必至。


しかし、マルコ様達が壁を回り込んだ先に、ダニエラ様の姿はありませんでした。




二人は一瞬躊躇しました。


壁の向こうにはモニカ一人。


ダニエラ様は一体どこへ行ったのか。


そう思ったに違いまりません。


しかし二人はすぐに考えを改めたようで、モニカに向けて魔法を放ちました。


モニカ一人なら、魔法二発に対応出来ないはず。


「アクアシュート!」


「ファイアーアロー!」


モニカは未だ動きません。


観客席からは息を飲む音が聞こえて来ます。


「やったか!?」


しかし、モニカはニヤリと笑って、


「土壁!!」


自身の足下から土壁…というよりも土の棒を作り、上空へと勢い良く飛んで行きました。


「「な、何ぃ!?」」


風魔法の苦手なモニカ。


それが上空へ逃げるとは思わなかったのでしょう。


魔法を放ち、空を見上げだ二人には、大きな隙が生じていました。


そして、太陽の光に隠れていたダニエラ様が、風の魔法で地面にいる二人を吹き飛ばしました。




「いやあ、素晴らしい試合でしたな!」


「まさかストーンウォールの魔法をあのように使うとは!」


「なるほど、なるほど。あれは確かに『土壁の妖精』の名に相応しい!」


最前列の天幕内から、貴族達の賞賛の声が聞こえて来ます。


ちなみに、モニカは『土壁の妖精』という名が気に入らないそうです。


『水瓶の勇者と大差ないじゃん…』


と愚痴をこぼしていました。


「妖精殿の活躍に目が行きがちですが、他の三人も当然のように中級魔法を放っていましたぞ」


「まるで高等部の試合を見ているようでしたな」


「流石は『英雄の世代』というだけある」


準決勝の二試合を経て、観客席は大いに湧いていました。


「…ただ、この後に控えている五年生達は不憫ですなあ…」


と言う声も聞こえて来ましたが、そちらはどうしようもないので聞かなかったことにしました。


「…それで、どう致しましょう。先程の作戦が通用しないとなると、わたくし達も新たな作戦を考えなくてはなりません」


決勝戦はこの後すぐに始まります。


考える時間は僅かです。


しかし、これだけの観衆の前で無様な試合も出来ません。


「…案ずるな、策はある。狙いは変わらず『ダニエラ落とし』だ」




そして、私達は決勝の舞台に立ちます。


「やあ、オリヴィア様にギルバート様。決勝戦も良い試合にしましょう!」


「ふん!余裕ぶっていられるのも今のうちだ」


「必ずやモニカの顔に泥を塗ってみせますわ!」


「…オリヴィア様、その台詞、凄く悪役令嬢っぽいですね」


「な!?何ですって!!」


「乗るな、オリヴィア!挑発だ!」


熱くなったわたくしを、ギルバート様が制してくれます。


ふう。


危ない、危ない。


危うくモニカの術中にハマるところでした。


「ギルバート様は二年続けて私に負けて終わりとは、少々可哀想ですねえ…。手。抜いて差し上げましょうか?」


「何だと!」


「ギルバート様!挑発ですわ!」


モニカはこれ見よがしにケラケラと笑って見せます。


美人なだけに、歪んだ顔は物凄く感情を煽ってきます。


「はわわわ…も、モニカ様、そのくらいに…」


「…ダニエラ、怪我をしたくなければ下がっていろ!」


「…命の保証は出来かねますわ!」


「ひぃっ!」


震えるダニエラ様。


それにモニカは、


「ご安心下さい、ダニエラ様。貴女は私が守ります。ダニエラ様には指一本触れさせません」


そう言って、ダニエラ様の前に傅き、そして手を取り、その甲に何とキスをしました。


「まあ…!」


それでダニエラ様はポッと顔を赤らめ。


観覧席からは、


「キャー!モニカ様、頑張ってー!」


と、黄色い歓声が飛び交いました。


モニカは普段から男装なので、女生徒からの人気も高いのです。


今日も当然のように男装で、その上、長い金髪を後ろで一本に縛り、立ち居振る舞いも先述の通りですから、最早美少年にしか見えません。


「くっ!あの女誑しめ…!」


「モニカ…また別の女に色目を使って…!」


…でも、少しだけダニエラ様が羨ましかったのは内緒です。


(…勝ったらわたくしにも同じことをしてもらいますからね!)


武神祭の盛り上がりは、その時最高潮を迎えていました。

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