63話 公爵令嬢。をプロデュース
あれは二週間ほど前のこと…。
「今度当家が主催する晩餐会について、相談したいことがあるのですが…」
「はあ」
「前にも言った通り、春の晩餐会はわたくしの誕生会でもあるのです」
「ほお」
「それで、今年はギルバート様が国王陛下の名代として来て下さるそうなのですが…」
「へえ」
「その日、わたくし、ギルバート様と…ギルバート様に…ギルバート様の…」
「ファーン」
「ちょっと!?モニカ、真面目に聞いて下さい!」
「聞いてる聞いてる。…要するに、その日にギルバート様ともっと良い感じになりたいとか、そういうアレですね?」
「そ、そうです!何か良い考えがありまして!?」
「無いです!!」
「エーッ!!」
かくして『公爵令嬢をプロデュース』大作戦が始まった。
「とりあえず髪型でも変えてみては?」
東の森から帰った私達は、その足で王都のシュタイン邸に向かった。
「うーん」
「ど、どうでしょうか?」
「イマイチ」
「ガーン!」
髪型変えたら?と提案したものの、前世が男である私に『女の子の可愛いヘアアレンジ方法』など分かるわけもない。
それでも無い知恵を絞って、何とか『ツインテール』という単語を捻り出し、そして未だこちらの世界にはツインテールが無いということを発見するに至った。
ポニーテールや低い位置での二つ縛りは存在したが、ツインテールは無かったのである。
…確かに高い位置で二つに縛るなんて、ファッション以外に必要性を感じない。
とりあえずインパクトはあるのでは?と思い、早速オリヴィア様をツインテールにしてみたが、どうにもイマイチしっくり来なかった。
「わ、わたくしがいけないのでしょうか…?」
半ベソかいたオリヴィア様は、贔屓目抜きに美少女であった。
未だ十一歳であるから、ツインテが似合わないほど大人びているということもない。
何がダメなのか。
考えた時、目に付いたのはオリヴィア様のドレスであった。
オリヴィア様のドレスはストンとしたワンピースタイプ。
ツインテにすると頭の表面積が大きくなるわけだが、ドレスが身体に沿って纏まっているために、上半身と下半身がアンバランスになってしまったように思われた。
(…というか、中世のドレスってこんなストンとした感じだったっけ?)
中世風ドレスと言った時、脳裏に浮かぶのはスカートの裾がやたらと膨らみ、コルセットで胴を絞り、肩口が謎の膨らみをを持っている、あのドレスであった。
しかし、こちらのドレスにはそれら全てが当てはまらない。
(…もしや、中世風ドレスが出来る前の時代なのでは?)
一口に中世と言っても、実際には何百年のスパンがある。
この世界には未だ無くてもおかしくはない。
記憶を辿ると、マリーアントワネット辺りが中世風ドレスのイメージであるが…。
(ん?)
そこで私は、重大な認識の齟齬に気付く。
(マリーアントワネットって中世の人じゃなくね?)
こうして、私は中世風ドレス(近世ver.)を作ることになったのである。
前世が男子高校生である私には、当然、服作りのスキルなどは無い。
というわけで、私達は服飾ギルドへと向かった。
「こんな感じの服を作ってほしいのですが」
「申し訳ありませんが、難しいかと」
デザイン案を描いた羊皮紙を持って行ったのだが、二秒で突っ返されてしまった。
「…それは、意匠が細か過ぎるということでしょうか?」
「それも大変ではありますが、これほど裾を膨らませるのは現実的ではありません。内側に大量に詰め物をしなければなりませんが、詰め物をしてもすぐに型崩れして、裾を引きずって歩くことになるでしょう」
「モニカ、ギルバート様の前で、自分の服に躓いて転ぶのはちょっと…」
「…そういえば、スカートの中にワイヤーか何か仕込むんだっけな?」
「ワイヤー?」
というわけで、次に向かったのは鍛治ギルドである。
例によって、羊皮紙に描いた図案を見せ、職人さんに製作を依頼した。
当然のことだが、スカート内部の骨組みなど見たことはないので、図案は完全に想像で描いた。
フラフープみたいな輪っかを三つくらい繋いで腰で留めればいいんじゃないかなあ?
「こいつを作れって?出来なくは無いが、一体何に使うんで?」
「ドレスの型崩れ防止用です」
「お貴族様の考えることはよく分かんねえなあ?」
骨組みが出来る間にコルセットを作りに行った。
コルセットも未だこちらの世界には存在していなかった。
見たり聞いたりしたことはあっても、どんな材質でどうやって作るのかは今回も不明だったため、適当な図案を持って皮職人を訪ねた。
「何かこんな感じに穴から紐が出ていて、それで締めたり緩めたり出来ると思うんですけど…作れますか?」
「出来ますよ。ブーツみたいにすればいいのでしょう?」
完成したスカートの骨を服飾ギルドに持ち込んだのが十日前。
超特急でドレスを完成させたのが三日前のことである。
そして、出来上がったドレスを実際に合わせて見たところ、
「うーん、イマイチ」
「エーッ!!」
しかし、今回のイマイチは何か惜しいという意味でのイマイチで、その理由はすぐに分かった。
「メリハリ、かなあ…」
上下の釣り合いは取れたが、せっかく胴を絞ったのに大してメリハリが付いていなかったのである。
子供の寸胴ボディにはメリもハリも無かった。
だが、子供の胸に詰め物をするというのも何だが不健全なように私には思われた。
「…襟巻きか何か巻きましょうか。胸元まで隠せるやつ」
チョーカーに、折り目の付いた布を三段重ねて胸まで垂らす『貴族が付けてそうなあのアレ(正式名称不明)』を急遽作って、胸元のボリューム問題をカバーした。
しかし、問題は他にもあった。
「このドレス…凄く…重いですわ…」
「…まあ、中に鉄入ってますからね…」
骨組みは鉄素材から自然素材に変更になった。
「うーん、頭が派手過ぎてドレスを作ったら、今度は頭の方が寂しくなりましたね」
「ど、どうしましょう。もうドレスを作り直す時間はありませんわ!」
「…カチューシャかなあ」
これまた超特急で、メイドさんが付けてそうなフリフリの付いた頭飾りを作成。
「最終的にゴスロリセット一式みたいになってしまった…」
「ゴスロリとは?」
(…まあ、可愛いから良いか…)
そしてやって来た晩餐会当日。
「で、どうしてモニカは男装を?」
「いや違うんですよ…。趣味で着ているとかではなくて、シンプルな黒い服を着ることで、隣に立つオリヴィア様のドレスを引き立てる効果を狙って云々…」
「本当は?」
「ドレス着るのやだなあって…」
オリヴィア様は心底呆れた顔で溜め息を一つ吐いた。
いかん、早いところ話題を変えなくては!
「そ、そろそろ行きましょう!さあ、オリヴィア様、お手をどうぞ」
「…もう。どうして女性用の礼儀作法より様になっているのですか?」
「それは簡単なことです。実は私は前世が男で、転生した結果女の子になってしまったのですよ」
「…フフッ。モニカったら、また馬鹿なことを言って」
「お嬢様の笑顔のためなら、何度でも馬鹿なことを言いましょう」
「…もう。しようのない人」
馬鹿話をして緊張をほぐした後、私達は会場である大広間に入場。
そして、大挙する貴族のご婦人方に揉みくちゃにされてしまうのであった。
貴族が付けてそうなあのアレ=ジャボ




