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転生したら女の子だったのでせめてSランク冒険者になる  作者: ゴブリン・A・ロイド
第3章 王国叛乱
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53話 突いてもいない藪から蛇を出すマジック

パーティーは問題無く進行していく。


日も暮れて、ぼちぼち良い時間になってきた。


(このままなら、やり過ごせそう…)


と思ったその時。


「そうだ、お父様。モニカは手品が得意なのですよ」


ギルバート様から爆弾発言が!


「む?手品とは?」


「手品は何も無いところから何かを出したり、消したりするのです」


「それは、魔法とは違うのか?」


「見た方が早いでしょう、きっとお父様も驚きますよ!さあ、モニカ、何かやって見せてくれ!」


「えっ!?」


いや、何かやれって言われても…。


種も仕掛けも無い状態では手品なんぞ出来ないぞ。


無茶振りにもほどがある!


しかし、王侯貴族を前に出来ませんと言うのも中々厳しい。


私は滝の汗を流しつつ、辺りを見回して使える物を探した。




(そうだ、火魔法でスプーンの柄を柔らかくしてスプーン曲げを…)


と思ったが、この場にはスプーンもフォークも無い。


この世界で食事は手掴み。


(となると、ハンカチマジックくらいしか…。でもギルバート様には見せたし…)


何より地味。


「何だ、何だ、何が始まるのだ?」


「神子様が何やら面白いものを見せてくれるそうだ」


「ほう、神子様が!」


ああ、無闇にハードルが上がっていく!


私は頭を抱える。


「どうした?調子でも悪いのか?」


お前の所為でな!


と言いたかったが、言えば私の首が飛ぶ!


「…では」


「では?」


「人を一人包めるくらいの、大きな布を用意して下さい。それと、エルダー様にも手伝ってほしいのですが…」




そして準備が整えられた。


私の左隣には予備のテーブルクロスを持ったエルダー先生が、


「面倒なことに巻き込みやがって」


という顔で立っている。


正直すまんかったと思っている。


「まずは、私が布を被ります」


椅子に座った状態で、頭から布に包まれる。


埃が舞わないよう、周囲では風魔法が使われる。


「それで、何をしようと言うのかね?」


陛下の問いに、私は布から左手を出して振る。


「3、2、1…」


「何だ? 被ったまま、何も変わらないではないか?」


スリーカウントの後、エルダー先生は右手に魔法で剣を創った。


「は?」


そして、すかさず純白の布をぶった斬る。


切れ端が宙を舞った。


「…………き」


「きゃあああああ!!!」


騒然となる大広間。


「何事ですか!」


と護衛の兵が入って来る。


「エルダー!貴様、乱心したか!」


「神子様の首を!首を……あれ?」


長い溜め息を吐いて、エルダー先生が剣を消す。


「な、何だ!?一体何が起こったのだ!?」


私が座っていた椅子には、ただ白い布が落ちているのみ。


「み、神子様が消えた!?」


「そんな、確かにそこにいたはず…」


わけもわからず辺りを見回す貴族達の背後で。


パチン!


指を鳴らすと。


皆が一斉に振り返る。


大広間の入り口前で、雷魔法をライトアップに使いながら、私は言った。


「It's Show Time!!!」


「…お、おおおおおおおおお!!???」


「ご高覧頂き恐悦至極。以上、瞬間移動マジックでした!」


澄まし顔で仰々(ぎょうぎょう)しく礼をすると、皆は立ち上がって拍手喝采。


スタンディングオベーション!


(ぜー、はー、めっっっちゃ疲れた…)


私はバレないように、頭を下げたまま息を整えた。




「一体何が起こったのだ?」


「分からぬ。確かに椅子に座っていたはずなのに」


「もの凄い速さで一瞬にして移動したのでは?」


「この場の誰一人にも気付かれず?そんなことは不可能だ!」


「貴方は見えましたか?」


「いえ、全くです」


「モニカ様、一体何をしたのか是非教えて頂けませんか?風魔法で補助しても、見えないほど速くは動けない!」


「残念ですが、お教えすることは出来かねます」


「そんな!これでは気になって夜も眠れません!」


(…とりあえず、種は見破られてはいないようだ)


即興で演じた瞬間移動マジックだったので、結構不安だったのだが、皆良い反応である。


良かった良かった。


「この世には、秘密にした方が良いこともあるのです…」


いつも通り、中身の無いこと言って煙に巻く。


止まない拍手に笑顔を返しながら席に戻ると、


「もしや、モニカ様は聖女なのでは!?」


「ふええ!?」


誰かが全く見当違いなことを言った。


「なるほど!今のはまさに神の奇跡…!」


「流石はベネディクト司教、目の付け所が違いますな!」


いやいやいやいや、ちょっと待て。


誓って、私は聖魔法など使っていない。


使ったのは土魔法だ!


だから王様、


「まさかやったのか!?」


という目でガン見するのはやめて下さい。




「あの、私は聖魔法など使ってはいませんよ。そもそも聖女の力は治癒の力です。…と聞いています。瞬間移動には何の関係もありません」


「確かに…」


「それにこれは単なる芸で、仕掛けを知れば、私でなくとも出来ることなので…」


必死の弁解で何とか鎮火。


聖魔法なんか使ってないが、私が聖女であるのは事実である。


瓢箪(ひょうたん)から駒方式で聖女バレとか勘弁である。


自席へ逃げ帰ると、


「後で説教だ」


という目で先生に睨まれた。


「お前が種明かしを渋る理由が、やっと分かった」


とはギルバート様。


うんうん、やっと分かったか。


そう。


特に瞬間移動マジックは、種明かししない方が面白いのだ。


「素晴らしい余興であった。…して、何をしたのかは王である私にも教えてはもらえんのかね?」


(この辺は親子だなあ)


と私は思った。




瞬間移動マジックの基本は隠し通路を全力ダッシュである。


今回はテーブルの下を通って入り口まで出て行っただけ。


布の中には土魔法で作った型を置き、人が入ったままであるように見せかけた。


魔法を解けば痕跡も残らない。


陛下へ手を振って中に入ってますよアピールをした後、布の右下から脱出。


位置的に右隣のギルバート様にはバレバレであったが、左にはエルダー先生が立ち、後ろには誰も無し。


他の観客にバレなければ、それで良いのだ。


途中一度テーブルからテーブルへ移るために全身を晒したけれど、今は夜。


蝋燭の灯りだけの薄暗い大広間で、足下を移動する小さな私の姿が見つかることはなかった。


皆の視線は布に集中していたしね。


ネタばらしは…まあ出来ない。


テーブルの下をハイハイして進みましたとか、無作法とかそんなレベルの話ではないからだ。




その後は手品の話で盛り上がり、時間が過ぎ、私は初パーティーを何とか無事に乗り切ったのであった。




(…間違いない。かの神子は特別な力を持っておられる。陛下は知っているのだろうか?だとすれば…。いずれにしろ、神子様は必ず教会へとお連れしなければ…)




明けて翌日は処刑の日である。

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