4話 ヨハンの剣術指南
斬り下ろし、斬り上げ、横薙ぎにし、突き、抉り、斬り捨て、また斬り下ろす。
流れるような七連撃。
神魔流・虹閃剣。
という技だそうだ。
「攻撃から攻撃への流れを極めた技だ。今は見えるようにゆっくりやったが、実戦ではさっき石を斬った速度で行う」
「か、かっこいい…」
素人目にも分かる絶技。
正直、ヨハンがここまでやれるとは思っていなかった。
昔は凄かった的な話は何度か聞いたが、どうせ盛ってんだろうなと信じていなかったのだ。
しかし、今日一日でヨハンを見る目は完全に変わった。
単なるこっちの世界での父親から、尊敬する剣の師匠へと…。
「そーかそーか、お父さんかっこいいか!よーし、奮発してもう一回見せちゃおっかな!ソレ、虹閃剣!」
「…」
私も真似してやってみたが上手くいかなかった。
「えいっ、えいっ、えーいっ!」
どう考えても出来ていない。
「意識するのは体の中心だ。極力体の中心を動かさずに動くんだ」
あんだって?
動くだの動くなだの。
申し訳ないが、三歳児にも分かるように教えてくれ。
「体のブレは動きの無駄だ。無駄を一切排除出来れば、それが最速の動きだ。己の身体と、体内の『気』を制御して、どんな体勢でも一本の軸を維持し続けるんだ」
なお、ここで言う『気』とは『魔力』と同義だということだ。
ヨハンの指導にも段々熱が入っていった。
私も剣術一本に集中して取り組む。
何度も言うが、他にやることがないのである。
ヨハンの指導は分かりにくかったが前世の知識を動員して何とか食らいついていけた。
素振りに始まり、握り、足運び等の基本を押さえつつ、それが実技に組み込まれていく。
毎日ヘトヘトになるまで剣を振った。
魔法と違って、上達が実感でき、師匠もいる。
剣術は楽しかった。
時は流れ、春。
私は五歳になった。
「モニカ、今日は一緒に森へ狩りに行こう」
「…はい!」
それまではずっと家の庭で稽古を受けていた。
三歳を過ぎたあたりで街の中を散策するようになったが、街の外へは出たことがない。
当然狩りも初めてのことである。
私の剣術は未だ七連撃に遠く及ばない。
実戦は技を全て修めてからかと思っていたのだが。
「その前に、お父さんからモニカに渡す物がある」
ヨハンは部屋から一本の剣を持ってきた。
「短剣だ。筋力的には長剣でも問題ないだろうが、やはり体格にあった剣の方が良い。暫くはこれを使え」
ヨハンから手渡されたソレは、木剣とは違う金属の重みがあった。
「モニカ、五歳の誕生日おめでとう!」
「お父さん、ありがとう!」
白い鞘から剣を抜く。
白銀の刀身が朝の光に煌めいた。
幅広の刃。
しかし、外観から想像されるよりずっと軽い。
きっと良いモノなのだろう。
誕生日プレゼントを貰うのは、この世界では初めてのこと。
例年は食事に肉が増えるくらいだったから、私の喜びも一入だった。
剣を鞘に納め、私はお父さんに抱き着く。
「お父さん大好き!」
誓って言うが、ファザコンではない。
背後で家政婦のヒルダおばちゃんが目元を拭っていた。
さあ、一狩り行こうぜ!