3話 筋肉ムキムキ系幼女
「剣術は危ないから、もっと大きくなったら教えてあげよう」
普通に却下された。
流石に二歳では早過ぎた。
(もう少し辛抱するべきだったか…)
とは思ったが、しかし私は食い下がった。
「どうしてもダメ…?」
なるたけ可愛く頼んでみればワンチャンスあるかもしれない。
ヨハンは親バカの気がある。
「何で急に剣術を覚えたくなったんだ?」
「うーんとね…」
暇だから!
「ひ…モニカ、お父さんみたいになりたいの!」
なお、ヨハンが剣振ってる姿を見たことはない。
「おお!そーかそーか!お父さんみたいになりたいのか!」
父はちょろかった。
我ながら理屈に合わないことを言った気がしたが、父がちょろかったためどうにかなった。
どこの世界でも、父親は娘に弱いということかもしれない。
「じゃあ、モニカの将来は女冒険者かな?」
「モニカ、女冒険者なるー!」
幼女演技もノリノリだ。
私の夢は当然冒険者。
せっかく剣と魔法のファンタジー世界にやって来て、冒険者にならないなんて選択肢はない。
「でも女の冒険者は大変だぞ。数が少ないから目立つし、変な男やゴブリンにも襲われるし。特に低ランクだと食いモンにしか思われてないと言って過言じゃない」
食いモンって…二歳児に何てことを言うんだ。
「た、食べられちゃうの…?」
内心の考えはおくびにも出さず、幼女アピールも忘れない私。
そのうち天罰とか落ちそうだな。
「そうだぞ。モニカは可愛いからきっと狙われるぞ。…そう考えると、護身のために剣術はありかもしれんな…」
何だか知らないが教えてくれそうな流れになった。
「よし、じゃあ今日から一緒に素振りでもしようか!」
(違う、そうじゃない)
素振りならば、実はもう始めていた。
時間なら腐るほどあったから、自分で出来ることはやっているのだ。
私が教えてほしいのは、もっと技術的なことだったのだが…。
(まあ、冒険者になれるのは十歳からだし…)
まだ七年以上もある。
今日のところは素振りで良いか。
「モニカ、素振りするー!」
ノリノリのノリでロリロリのロリだ。
それからは毎日、朝晩二度、庭で父と素振りをする。
父が仕事に出ている日中も一人で素振り。
筋トレもしている。
本当は本とかも読んだりしたかったのだが、我が家には一冊も置いていなかった。
二歳の体で単身外出は危なかろうし、家事はヒルダという使用人がやってくれる。
素振り以外、他にすることがないというのが実情であった。
「お嬢様、ヒルダと一緒に晩御飯を作りませんか?」
「モニカ素振りしてくる!」
「お嬢様!少しは女性らしいことも覚えませんと大きくなってから苦労しますよ!」
しかしそのおかげで、体力面についての成長は著しい。
目指せ、筋肉ムキムキ系幼女!
それから半年ほど経った朝。
「モニカは筋がいいぞ!やっぱりお父さんの子だな!」
素振りに筋があるかは知らないが、教えるヨハンは毎日得意気だ。
父の素振りはいつも千回。
流石にまだそんなに振れないが、私も着実に回数を増やしている。
「さん…びゃくっ!もうダメー!」
新記録を更新し、私は地面に倒れる。
三歳前で素振り三百回に到達。
同年代の幼児の中ではかなりの筋力だと思われるが、外見的にはムキムキになったりしていない。
魔力の影響だ、とヨハンは言っていた。
『魔法』という形で魔力を行使出来る者は限られるが、魔力自体は誰もが持っているものらしい。
「魔力はあらゆるモノに宿っている。人、魔物、その辺の石ころにもある。人が物凄い速さで動けるのも、馬鹿でかい生物が二足で歩けるのも、全部魔力のおかげなんだ」
って昔母さんに言われたらしい。
「お父さんもこーそくで動けるの?」
「フフン、見てろ」
ヨハンは足下の石を拾って投げ、練習用の木剣を構えた。
次の瞬間、空中で石が四つに切断された。
何も見えなかったが、多分一瞬で剣を三度振るったのであろう。
「す、すごーい!かっこいいー!」
珍しく本心から出た賞賛に、ヨハンは鼻高々である。
速さ以前に、木剣で石切断してる方が驚きだけど…。
どっちらにせよ、凄いことに変わりはなかった。
「今のはただ速く剣を振っただけだ。技でも何でもないから、素振りを続ければ出来るようになるぞ」
素振りってすげー。
「そうだな…一日一万回くらい素振り出来るようになれば」
「万!?」
素振り一回一秒として、一体何時間素振りするのか。
一分六十秒で、一時間六十分で、三千六百秒で…三時間弱くらいか?
腕千切れない?
ところで、当初の目的は技術的な指導を受けることである。
技っぽいものを見せてもらったのは、半年間で今日が初めて。
何だか今日はイケそうな気がする。
「お父さん、モニカ、もっと他の技も見てみたいな!」