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転生したら女の子だったのでせめてSランク冒険者になる  作者: ゴブリン・A・ロイド
第2章 水竜討伐
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34話 エルダー② モニカ

初めは普通の少女に見えた。


「エルダー師匠のクラスに『モニカ』という子はいますか?もしかすると、水竜への対抗手段となる子かもしれない」


だからベルガーにこう言われても、まさかとしか思えなかった。


「何を言っているんだ。あれはまだ七歳の少女だぞ」


何よりモニカは魔法が使えない。


有り得ないと思いつつ、丁度補講が控えていたので、私はベルガーとモニカを引き合わせた。


二人掛かりでモニカの魔力を呼び起そうとしたが、結果は失敗。


この娘には魔法の才能が無いのかもしれない、と私は思った。




「先生!私、魔法が使えるようになりました!」


「何だって?」


補講の翌日、魔法学の授業の前にモニカが報告してきた。


「何故急に?きっかけは何だ?」


「え、ええっと…あ!聖女様の祝福を思い出して、それで…」


「何だって!?」


それはありえない発言だった。


『聖女の力』とは『神から与えられる奇跡の力』。


便宜的に『聖魔法』などと呼ばれることもあるが、魔法とは全く別物である。


(聖女の祝福で魔力の感覚を掴むなど、普通ならありえない。だが、もしも、モニカの言っていることが本当なら…)


このまま教室でこの話を続けてはいけない。


「…魔法が使えるようになったのは良いことだ。しかし、他の九人より遅れているのは変わらない。後で補習を行う。一人で教室に残っているように。今は、授業を進める」


私は強引に授業へと移った。




「まずは右手に火の魔力球を作れ」


私の指示に従って、各自右手に赤い魔力球を作り出す。


「あれ?何か皆と色が違う…?」


しかし、一人だけ金色の魔力球を作った者がいて、私は声を荒げそうになった。


「モニカ、消しなさい。それを、今すぐに…!」


「あれえ、やっぱり何か間違ってます?」


(『あれえ』じゃない、金色は聖魔法の色だ!)




授業後、私はモニカと二人になった。


「お前は聖女だ」


「はい?」


「お前の魔力は聖女の祝福によって目覚めた。間違いない。先程出した金色の魔力球も聖魔法だ」


「ええっと?すいません、何のことやら…」


「気付いていなかったなら、僥倖だ。聖女であることは誰にも言ってはならない。死にたくなければな」


「え?え?」


(くそ、子供相手には何と言えば伝わるんだ)


本人に告げるのは間違いだったか?


しかし、外で聖魔法を使われても困る。


保護者を呼ぶべきかとも思ったが、聖女であることを知っている者は少ない方が良い。


「いいか、記録にある中で聖人と認められている者はわずか四人だけだ。君で五人目。清廉潔白で、女性なら未通で、その上で神から選ばれ、祝福を受けねばならない。それが聖人だ。どれほど希少な存在か分かるか?」


「えーと、竜に狙われるくらい希少ってことですか?」


「その通り」


平民から特待生に選ばれただけあって、モニカは察しが良かった。


「君が聖女だと広まれば、あらゆる者が君を狙うだろう」


「黙ってます!」


「よし。ただ国王陛下には報告しなければならない」


「あー、まあそうですよね」


「理解が早くて助かる」


私の頭も徐々に回転が良くなってきた。


「神からの祝福に心当たりは?」


「あー、無くもないです」


要領を得ないが、どうやら生まれる前のことらしい。




「君は暫く行動が制限されるかもしれない」


「…軟禁ですか?」


「その可能性は高い」


四ヶ月後、水竜が聖女であるラウラ王女を攫いに来る。


迎撃の準備は進めているが、もし負ければ王女は竜の餌食となってしまう。


しかし、聖女がもう一人いれば。


「身代わりですか」


「そうならないよう全力は尽くす」


「ちなみに、私に拒否権は?」


「…無い」


モニカは遠い目をして笑った。




「待てよ、お前が魔法を使えるようになったのは昨日か?」


「そうですが?」


「…どこで?」


「ど、ど、どこでとは?」


分かりやすく狼狽えるモニカ。


昨日といえば、獣人が六人殺され、西門が爆破されるという事件があった。


『水竜への対抗手段となる子かもしれない』


私はベルガーの言葉を思い出していた。


「もしや、西門の外でか?」


生唾を飲み込む音がハッキリと聞こえた。


「何があったのか全て話せ」




話はこうだ。


狩りのため森へ出たモニカは謎の獣人達に突然襲われ、これを撃退。


魔獣の攻撃を受け瀕死となるが、死の淵で魔力に目覚め、最後の獣人を全力の魔力弾で倒す。


その際、城壁も一緒に吹き飛ばしてしまい、慌てたモニカは聖魔法で傷を癒すと獣人達を置いて開いていた西門から街に入り、家へと帰った。


「でも獣人を殺したのは私じゃないです!」


「それは分かっている」


聖人は動物を殺してはならない。


モニカは獣人どころか獣一匹殺したことが無いはずだ。


「あの…私、何か罪に問われるんでしょうか?」


「…衛兵などに報告はすべきであった」


だが今回モニカが罪に問われることは無いだろう。


まず正当防衛であり、城壁の破壊にも故意性が認められない。


そして、相手の獣人達は大量の違法薬物を所持していた。


獣人達は麻薬の売人だったのだ。


獣人達が持っていた麻薬は『黒い草』と呼ばれ、合法麻薬の十倍以上の効果がある。


半年前から流通し始めた麻薬だが、水竜騒ぎと時期が重なっていたこともあり、どこから出回っているのか見当もついていなかった。


それが、今回の件で獣人の関与が判明したのである。


(むしろ大手柄だったわけだが、言わない方が良いな。獣人達が殺されたのは口封じに違いない)




私はモニカを連れ、馬車で王城へと向かった。


「聖女の力は誰にも見られていないのだな?」


「多分…おそらく…」


西部領の荒廃と共に、王都の西地区も活気がなくなり、半スラム化している。


住民には見られていなかったかもしれない。


「昨日西門で番をしていた兵の消息が不明だ。本当に見られてないか?」


開かずの西門を開けたのはそいつであろう。


「…見られてたかも」


「やはり軟禁か」


「うへぇ」


「安心しろ。軟禁中は私が付きっ切りで魔法の訓練を施す」


モニカは大魔女ヴァインが対水竜用に送り出した少女だ。


そして、何の訓練も無しに城壁を破壊するほどの魔力を持っている。


(もしかしたら、本当に水竜に対抗し得るかもしれない)


考えられる手は全て打っておくに限る。




予想に反して、モニカは軟禁されなかった。


見張りが付き、聖女を狙う者への囮とされたからだ。


それから二ヶ月は何事もなく過ぎたが、神器探しが暗礁に乗り上げると、身代わりの重要性が増し、モニカはやはり軟禁されることになる。


水竜襲来まで残り一ヶ月半。

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