2話 下痢
私の名前はモニカ。
二歳の幼女で前世は男子高校生だ。
何の因果か転生したら性別が変わってしまった。
一時は慌てふためきオギャーオギャーと叫んだりしたが、昔の話である。
転生から二年。
今では女の身を甘んじて受け入れている。
件局のところ、人間、男女の差など大した問題ではないのだ。
思い返せば色々なことがあった。
転生先の家族構成は父一人に子一人(私)、それと使用人が一人いた。
母はおらず、どうも出産の際に死んでしまったらしい。
よって授乳は近所の乳母にやってもらったわけだが…。
この乳母がガッチリした四十くらいのおばちゃんで、正直男子高校生の心には大きな傷が残った。
今でも夢に黒ずんだラズベリーが…。
やめよう、こんな話は。
誰も助からない。
おばちゃんのおかげで無事授乳期を乗り越えた私である。
おばちゃんには感謝こそすれ、それ以外の感情など持つべきではないのだ。
美人の奥さんの方が良かったとか全然思ってないのだ!
ところで赤ん坊は身体能力が低い。
動けないどころか、目も見えず、耳も良くない。
言葉を聞き取るのに時間がかかって、神様から言語チートを貰っていたことにも中々気づかなかった程である。
その辺は時間が解決してくれたのだが、問題は声だった。
赤ん坊の口では「オギャア」と泣くのが精一杯で、喋れるようになるまで一年かかった。
その間、まともな意思表示は出来ず…。
何が言いたいかといえば、便意を覚えても、伝えるすべが無かったということだ。
私は泣いた。
頑張って泣いた。
しかし、ダメだった。
お漏らしをし、パンツを取り替えられることは、男子高校生の精神には大層効いた。
転生したらこんな屈辱を経験しなければならんのか、と安易に転生したことを悔やんだ。
パンツはびっちゃびちゃ、香ばしい匂いが漂ってきて、「あらあら仕方ない子ですねー」と言われながらパンツを替えてもらう。
「大」の時の不快感といったらもう…。
漏らす度、私は酷い羞恥と無力感に苛まれた。
いつしか私は悟った。
赤ん坊なのだから漏らすのは仕方ないことである。
あるがままに物事を受け入れるしかないのである。
性別も同様である。
今更文句を付けても何もならないのである。
チーン。
そんな感じで乳児期を乗り越え、私は成長していった。
性別?どうでもいい。
そんなことより、私には目標があった。
ハイハイだ。
首が座ると同時に、私は体を動かしまくった。
可能な限り早くハイハイを覚えた。
全てはトイレへ行くためだった。
言葉が喋れないのも辛いので、頑張って発声練習をした。
アーエーイーウーエーオーアーオ。
一歳にしてペラペラ喋り、立って歩く練習を始めた私を見て、父親は大いに喜んだ。
「この子は天才かもしれない!」
父親の名前はヨハンという。
元B級冒険者で現在は衛兵隊に所属している。
B級冒険者といえば一流に分類されるが、結婚を機に街へ定住し、出産を機に定職に就いたそうだ。
近頃は再婚話が多くてウンザリだと愚痴を垂れている。
(二歳児に垂れていい愚痴じゃなくねぇ?)
ちなみに母も冒険者であったそうな。
ハーフエルフで物凄い美人だった、らしい。
顔を見る前に逝ってしまったので伝聞形だ。
父からの情報なので誇張が入っているかもしれない。
よって、私は四分の一だけエルフの血が流れている。
色が白く金髪で、耳の先がちょっぴり尖っている。
つまりほぼ普通の人である。
父は剣士、母は魔法使いであった。
魔法使い。
この世にはやはり魔法があった。
時代的には概ね中世頃であり、転生前に神様に頼んだことは全て叶っているようだった。
…返す返すも、ちゃんと男に転生したいと言っておけば…。
でも普通、言われなくても男は男に転生させるもんじゃないか?
あの神様やっぱりちょっと抜けてんだよなあ。
魔法の話に戻ろう。
魔法があると知ったのは生後一ヶ月くらいの頃。
「惜しい人を亡くした。あれだけの魔法使いはそういない」
両親の知人らしき人物が悔やみの言葉を言いに来て、知った。
悲しい話をしている横で申し訳ないが、私のテンションはめっちゃ上がっていた。
(私も魔法使いたい!)
私はすぐに魔法の練習をした。
乳児期はマジで暇だったのでずっと魔法の練習をしていた。
丸々一年の練習の結果、なんと、私に魔法が発現することはなかった!
イメージ的なアレで何とかならんかと頑張ったが、無理であった。
期待していただけに失望は大きかった。
独学では無理なのか、赤ん坊には出来ないのか、もしくは才能が無いのか…。
魔法は一部の人間(貴族とか)にしか使えないらしい。
父も魔法は使えない。
母は優れた魔法使いだったらしいが、父の血を濃く継いでしまったのかもしれない。
まあ使えないものは仕方ない。
父の血が濃いならそっちを伸ばせばいいのである。
立てる、歩ける、喋れる、トイレも行ける。
そろそろ次に進んでも良かろう。
「お父さん、剣術を教えて下さい!」