25話 魔法使いになった日①〜魔法学・補講〜
「では魔法学の補習授業を始める」
「よろしくお願いします!」
私と講師の二人は机を挟んで向かい合って座った。
「順番に行こう。まず私は昨日、君に魔法を授けようとして失敗した」
「はい」
「私の魔力を流し、体内での魔力の動きを掴んでもらおうと思ったのだが…何故失敗したと思う?」
「才能が無いから…ではないと思いたいです」
「うむ。可能性として無くはない。…待て待て、安心しろ。無くはない、つまりほぼ無いと私は考えている。入学試験で魔道具が使えたのだろう?」
入試で渡された紙とペンは魔道具であった。
アレには使用者の魔力を測る役目もあったという。
「魔力の低い者が使うとインクの色が薄まる。お前が出した黒インクは最上級の色だ。最上級色を出した者に魔法の才能が無いとは考えにくい」
…そういえば、魔法が使えないと言ったら副学園長に驚かれたっけな。
「じゃあ、何故私は魔法が使えないのでしょうか」
「仮説は二つある」
【仮説①エルダー先生の魔力不足説】
昨日、エルダー先生は私に魔力を三回流した。
一回目は初級、二回目は中級、三回目は上級魔法発動程度という風に流す量を増やしていった。
「しかし、お前は何も感じなかった」
「私がめちゃくちゃ鈍感という説は無いですか」
「…無いと思うが、まあ仮説③にでもしておけ」
「それで今回は助っ人を呼んだのですか?」
一人でダメなら二人掛かりで、ということだろうか。
私がベルガーさんを見ると、ニッコリ笑って頷かれた。
くっ…イケメンが眩しい!
「半分正解だが、こいつを連れてきたのにはもう一つ理由がある」
【仮説②属性不一致説】
魔法には五つの基本属性がある。
火と水と雷と土と風である。
「私の属性は水と土だ。典型的な具象型魔法使いだな。これがお前に合わなかったのではないか、と考えている」
魔法使いは具象型と抽象型に分かれる。
水、氷、土等、物質への変化を得意とするのが具象型。
火、雷、風等、現象の発生を得意とするのが抽象型。
「私は抽象型だ。残り三つの属性を得意としているから、基本五属性は全て網羅出来るわけだね」
「得意属性ってどうやったら分かるんですか?」
「これだ。魔水晶を使う」
魔水晶は魔力に反応して発光する水晶。
属性によって、赤、青、黄、橙、緑の五色に変化する。
「お前の属性は恐らく雷だ」
「えっ、何で分かるんですか?」
「お前の母親が大魔導士アニーだからだ」
私は母について詳しく知らない。
断片的な話は聞くが、ヨハンもヒルダも詳しく話してはくれなかった。
私から聞くこともなかった。
冷たいかもしれないが、顔も見たことがない親について特に知りたいとは思わなかった。
私には前世の母ちゃんの記憶もあったしね。
「母は雷魔法使いだったんですか」
「白雷アニーの名は、国で知らぬ者がいないくらいに有名だった」
「あれ?蛇女アニーって聞いたのですが」
「雷魔法を使うとな、癖の強い髪の毛が宙に浮いて蛇の様にうねったらしい」
加えて物凄く強い上、男より喧嘩っ早いので畏怖を込めて「蛇女」「怒髪天」などと呼ばれたとか、何とか…。
あんまり知りたい情報ではなかった…。
「ちなみに魔法には相性があってね、雷魔法は水魔法に強いんだ」
そう言うベルガーさんの目はギラついている。
何だろう、ちょっと怖いぞ。
「そ、そうですか…」
「話が分かったら始めるぞ。まずは水晶で属性の確認をする」
「どうすればいいんですか?」
「触れば色が変わる」
「おかのした!」
「おか?」
私は水晶に触れた。
すぐさま変化が起こる、ということはなかった。
「…仮説①でも②でも無かったら、私は才能が無いってことでしょうか」
「心配性だな。何、まず間違いなく才能はある」
「あの大魔導士の娘ですしね」
「適性が雷属性なら仮説②が正しそうだな」
楽観的に笑い合う二人。
大丈夫だ、問題無い。
そう言われる度、逆に不安になるのは何でだろう。
大体ダ●ョウ倶楽部の所為だと思う。
「頃合いだな、水晶から手を離してみろ」
そんなことを考えていたのが悪かったのかもしれない。
「これは…」
「…何だこれは…お前、一体何属性だ?」
私の水晶は、まるでダチョウの頭のような、くっそ汚い灰色に染まっていた。




