22話 現代魔法
とりあえず頭でも撫でよう。
「よしよし」
「気安く触らないで!」
怒られた。
どうしよう。
「ええっと…掃除なら手伝いますよ?てか他の子はいないんですね」
「グスッ…私の罰にお友達は付き合わせませんわ」
「何なら全部私がやっておきますけども…」
「情けは要りません!」
ううむ、どうもプライドに触ったらしい。
でも泣いてる女の子放置して帰るわけにはいかないぞ。
あ!
良いこと考えたゾ!
「オリヴィア様、見てください。ほら、私の親指が…ハイ、取れました!」
「ピギャああああああああ!!」
その瞬間、鳥っぽい泣き声が学園中に響いた。
「お嬢様!大丈夫ですか!」
教室の外から使用人さん達の声がする。
やっべこれ私捕まるんじゃね!?
と思ったが教室の扉が開くことはなかった。
どうやら魔法か何かで入って来れなくなっているらしい。
まあ、使用人に掃除させられたら罰にならんしな。
「あ、あ、貴女、何で、急に、ゆ、指を切断して…」
オリヴィア様はすっかり怯えていた。
超古典的な親指切断マジックに。
まだこっちの世界に手品は無いらしい。
…魔法がある世界で手品やる奴なんかいないか…。
ただこの世界の魔法は万能ではない。
魔法=変化の力なので、収納魔法などは無いのだ。
故に、手品の入る余地は無くもない。
ちなみに鑑定とかステータス確認とか転移魔法とかも無い。
残念である。
「すいません、切断したんじゃなくて、取れたように見えるだけの手品なんです」
私は急いでネタばらしをした。
「は?て、テジナ?な、な、何のつもりですか!わたくしを驚かせて一体何が目的ですの!」
マジ切れである。
「いやあの、気分紛れるかなと…」
「紛れませんわ!」
でも実際泣き止んだし、結果オーライなのでは?
え、ダメ?
そっか…。
「全く…平民は意味が分かりませんわ…」
と言いつつも、親指切断マジックを試すオリヴィア様。
…試したくなるよね。
「オリヴィア様お上手です」
「こ、こんなの簡単ですわ!」
結果オーライであった。
「平民は変わったことを知っているんですのね」
「え、はい」
「他には何か出来ませんの?」
オリヴィア様はすっかり手品に興味深々であった。
よし、ここは私のトランプ捌きで親睦を深めて…ってトランプ無いわ…。
「うーん、じゃあ私の手を見て下さい」
何も無い手の平を見せる。
スナップを利かせて腕を振ると、そこには銀貨が…。
「え、え、え、今どこから出したんですの!?あ、分かりましたわ!土魔法で銀貨を作ったんですわ!って、貨幣の偽造は犯罪ですわ!!」
「残念ですが、私は魔法が使えませんので…」
「そうでしたわ!え?じゃあその銀貨は何なんですの?!」
「指の間に挟んであっただけなんです。前からだと意外と見えないので、あとは振った時に上手く手の平に移せば…ほら」
「簡単ですわ!」
そしてコインマジックを練習しだす公爵令嬢。
だいぶシュールであった。
他にもと強請られたのでハンカチを借り、教壇のペン立ても拝借。
普段はコップでやってたけど、円筒形の物なら何でもいいか。
椅子に座り、ペン立てを逆さにして机の上に置く。
上からハンカチを被せる。
ハンカチの上から根元を掴み、持ち上げて中を見せる。
「まだ入ってますね?」
「?当たり前ですわ」
「ではこれを机に戻しまして…上から、バン!」
思いっきりぶっ叩く。
すると、円筒形だったハンカチがグシャッと潰れてぺしゃんこに…。
「うええええええええ!!??ぺ、ペン立てが消えましたわ!?何でですの!?あ、分かりましたわ!爆裂魔法で中のペン立てを粉々に吹き飛ばしたんですわ!ハンカチをどかせばきっと残骸が…ありませんわ!!!??」
必死に机の上を探すオリヴィア様。
ああ…なんて良いお客様。
ペン立ては机に戻す時に太ももの上へ落としておいた。
根元を掴んでいると円筒形のまま形崩れしないので、入ったままに見える。
っていうだけのチャチい手品。
それにここまで大きい反応が返ってくると、見せた側としても大変気持ちが良いのであった。
「おい、お前ら何をやっている」
「うひゃあ」
ハンカチの結び目を消したり、縄抜けを教えたりして遊んでいたらエルダー先生が後ろに立っていた。
「掃除はどうした?」
…やってません。