20話 ラウレンツ① 平民
私の名前はラウレンツ・フォン・リングシュミット。
リングシュミット辺境伯家の長男で、今年王都の学園に入学した。
一番上の特待生クラスに入ったが、遠方領地出身者は私だけであった。
水竜の所為で辞退者が相次いだという噂は本当のようだ。
私の家でも話し合いがあったが、結局入学することになった。
母様はずっと反対していたが、中央からの使者を迎えた翌日手の平を返した。
恐らく水竜討伐の目処が立ったのだと思う。
今年はギルバート第三王子や宰相家のオリヴィア様も同じ特待生という話。
中々楽しい学園生活になりそうだ、と思っていた。
でも、まさか平民までいるとは予想外だったね。
「降級を受け入れるというなら、罰当番も肩代わりなさい」
オリヴィアがオロオロしているうちに、ロジーナが更なる無茶を突き付けた。
「えっと…何で私が?」
当然の疑問を返す平民のモニカ。
「それは貴女が平民だからです。罰当番などオリヴィア様がすることではありませんわ。貴女がおやりなさい」
無茶苦茶な話である。
流石に無茶だと思ったのか、オリヴィア様も困惑気な表情をしている。
隣の席のギルバート様も顔を顰めていた。
平民はどう返すのかと思ったら、
「はぁ」
と一言で終わりであった。
のんびりしている場合じゃないだろうに。
何とも不思議な女の子であった。
…さて、どうしたものかな。
私は変わった物が好きだ。
エルフの国・シューミット王国と隣接するリングシュミット辺境伯家に生まれたため、小さい頃からエルフを見て育った。
エルフは男も女も美しく、私が彼らに興味を持つのに時間はかからなかった。
成長と共にエルフ以外の他種族や魔物にも興味は広がった。
次期領主として育てられているが、出来ることなら冒険者として世界中を巡ってみたいと思っている。
しかしリングシュミット家に男児は私だけなので、家を継ぐのは私しかいまい。
無念である。
…そういえば、モニカはエルフに似ているな。
金髪、色白、整った顔立ち。
でも耳は長くないか。
うーん、まあ、今は置いておこう。
「ロジーナ様、いくらなんでも無茶が過ぎるのでは?」
結局私は助け舟を出すことにした。
平民のいる学園生活もまた一興だと思わないか?
「あら、ラウレンツ様。私、何か無茶なことを言いまして?」
「降級するなら彼女は特待生クラスとは無関係になる。特待生の罰当番を押し付けられる道理がない」
「ならば罰当番の間だけは在籍を認めてあげましょう」
「大体、罰当番の間は先生が見張っているのでは?肩代わりなど出来ないんじゃないか?」
モニカでなくとも使用人にやらせればいいなら罰の意味はなくなるだろう。
「そ、それは…」
「更に言うなら、降級も生徒が勝手に決められるとは思えない」
「チッ、ラウレンツめ、余計なことを…」
ギルバート殿下の舌打ちが聞こえた。
モニカはそっと目を伏せる。
二人共気付いていたようで。
知らぬは当の本人ばかり。
「あ、貴女!まさか最初から分かっていて…!」
オリヴィア様の追求に、数泊置いて、モニカは笑顔で返した。
もうオリヴィア様達の顔は真っ赤であった。
「はい皆様、席に着いて下さい。算術の授業を始めますよ」
一触即発の絶妙な瞬間に算術の講師が入室。
女子達は憎悪に瞳を濡らしながら、渋々自席へ戻って行った。
こうして長い休憩時間は幕を閉じた。
「あの…助けて頂いてありがとうございました」
モニカの言葉に私は手を振って返した。
モニカの算術は凄い。
算盤も使わず、王家の教育を受けたギルバート殿下すら置き去りにして、一人最速で計算を終えていた。
なるほど、これは特待生である。
「四則演算は完璧?代数も分かる?触りだけ?十分です!モニカさんは平民出身でしたよね?ご両親は学者か、商家でも営んでいるのですか?」
「いえ、兵士です」
もう意味が分からなかったね!




