17話 魔法学
「ラウラ王女様を恨んでいる人?それならハンデルセン公爵じゃないかしら」
家に帰り、今日あったことをベルタさんに報告。
何の気無しに聞いたところ、講堂外で見た男達に当たりが付いた。
「ラウラ王女様は成人後に、ハンデルセン公爵家へ降嫁する予定だったのよ。それが聖女様になって婚約は破棄。それまでの根回しも全部無駄になって、輿入れ金も貰えず。今公爵家は金策で汲々としてるって噂よ」
聖女を狙う人は多かれど、恨んでる人物ならハンデルセン公爵が真っ先に思い浮かぶらしい。
何で貴族の情報に明るいのか尋ねたら、カスパーさん経由で情報が入ってくるそうだ。
「学園は平民と貴族が交わる唯一の場所だから、教師やってると色々な話を耳にするんですって」
「へえ〜」
しかし、ハンデルセン公爵か…。
特待生にハンデルセンはいなかったはず。
でも入学式に来てたのだから、別クラスの一年生に子供がいるかも。
一応覚えておこう。
「王女様も大変よね。政略結婚が無くなったかと思えば、今度は竜に狙われちゃうんだから」
「ベルタさんなら落ち目の貴族と竜、どっちを選びますか?」
「野に下り冒険者に戻る」
ヒュー!
翌日、私は時間ギリギリに登校した。
「おはようございます」
「遅いぞ、早く席に着け」
ちょっとギリギリ過ぎてエルダー先生に叱られた。
女子から、これだから平民は…と囁かれつつ、端っこの席に座る。
「今日はすぐに魔法学の授業に入る」
きた。
「魔法学の講師は私だ。初回なので、基本から始める」
ついにきた。
苦節七年。
魔法のある世界をリクエストしたのに魔法が使えない不親切設計。
ヴァインも教えてくれないし。
もう半分くらい諦めていた。
その魔法が、ついに教えて貰えるのだ!
テンション上がってきた!
「では、この中で魔法を使える者は?」
エルダー先生の言葉に、私以外の全員が挙手。
ショック!
特待生で魔法使えないの私だけ!
特待生クラスだから皆が特別なのか、それとも貴族たるもの魔法が使えるのは普通のことなのか。
両方という可能性もある。
「クスクス、平民は魔法が使えないようね」
「一々足並みを乱さないでほしいですわ」
「これだから平民は…」
毎度の如く大きな囁き声が聞こえてくる。
…まあ七歳前後の子供に何言われても特にダメージは無いんだが。
「モニカ、こちらに来なさい」
呼ばれて教壇までいくと、先生に手を握られた。
「今から君に魔力を流す。感覚を掴むように」
「あ、はい!」
何だ、それだけで魔法使えるようになるのか。
こんな簡単なら皆が使えるのも納得だ。
いやあ、滝に打たれろとか、座禅組んで自然と一体化しろとか言われなくて良かったよ。
HA HA HA!
どんと来い、超常現象。
「準備はいいか?」
俺は出来てる。
「いくぞ、どうだ」
?
「分かりません!」
「ほう…ならば、これでどうだ」
?
「分かりません!」
「何だと?よし、気分が悪くなったらすぐに言うように……どうだ!」
?
「分かりません!」
「馬鹿な…」
「え!?」
先生は眉を寄せ、おっかない面で握った手を凝視している。
え、今これ、何がどうなったの?
「…モニカ、君は入学試験で魔道具を使ったか?」
「えっと、紙と羽ペンですか?」
「文字は何色だった?」
「黒ですけど…?」
「…不正を働いたりは?」
「ええっ!?しませんよそんなこと!」
……転生即言語習得チートは割と不正に入る気がする。
でも今は魔法の話で、言語の話じゃないし…黙っとこ。
「……分かった。後日別個に時間を取ろう。今日は授業だけ聞いていなさい。実技には参加しなくてよろしい」
以上だ!と言われて私は自席へ帰された。
その後、皆は手の平に魔力で球を作り、それを三角、四角、円錐、星形など、次々に変形させ大変楽しそうであった。
私は隅っこで、一人、何をするでもなく、ぼんやりして過ごした。
……泣きたい。
私、もしかして魔法の才能無いのかしら…。
「魔法というのは元々、人が背中に翼を生やし、神の国と行き来するために使った、と言われている。魔力は変化の力であり、創造の力ではない。例えば、土魔法で家を建てても時間が経てば魔力に戻り消えてしまう。魔法で作った水を飲んでも喉は潤わない。そのため実生活で魔法を使う場合は…」
実技より魔法の概説に時間を取ってくれた先生の心遣いに、私は涙がちょちょぎれた。
授業後、オリヴィア様が取り巻きを連れてやって来た。