16話 聖女の祝福
授業は必修と選択の二種類がある。
一、二年生は必修のみで、三年生から選択科目が始まる。
一年生は文法、算術、神学、魔法学、礼儀作法の五つが必修。
ちなみに法学は選択科目だ。
三時課から六時課までの半日授業で一日二科目。
土の日が休日だ。
「授業についての説明は以上だ。質問のある者は?」
私はコソコソ荷物をまとめる。
面倒事が起こる前に、さっさと家へ帰ってしまおう。
「はい、エルダー先生!特待生クラスに平民が混じっていますが、一体どういうことでしょうか!」
しかし まわりこまれてしまった!
明るい茶髪の少女がこちらを一瞥する。
口の端がニヤッと上がっていた。
…えっと…名前何つったっけな。
「どういうこととは?」
「特待生クラスは貴族専用のクラスのはずです」
「そのような決まりは無い。確かにここ数年は貴族が多かったが、入学試験の出来が良ければ平民でも特待生にはなれる」
「でも、伝統ある王立学園の特待生に卑しい平民がいては品格を損なうと思います」
「この学園に身分による優劣は無い。事前に説明を受けたはずだ。品格を気にするならまず自身の言動を省みたまえ」
バッサリ切り捨てるエルダー先生。
教師でも貴族には逆らえない、と聞いたけど、同じ貴族なら問題なく叱れるらしい。
「……成り上がり者の名誉貴族の分際で!」
対する少女の舌鋒も鋭い。
「オリヴィアには明日より三日間の罰当番を命ずる」
「な、何ですって!」
「お、オリヴィア様になんということを!」
「撤回して下さい!」
これにはオリヴィア様の周囲の女子達も騒ぎ出す。
「異論は認めん。時間だ。この後は下で入学式、その後解散となる。全員荷物をまとめて付いて来い」
「お、お、お父様に言い付けますわ!」
「是非そうしなさい。ああ、明日は魔法学の講義があるのでローブを持参するように」
言うだけ言って部屋を出て行くエルダー先生。
「下らぬ」
「女子って凄いね」
ギルバート王子がボソリと吐き捨てて後に続き、他の男子達も退室する。
女子は猛り狂うオリヴィア様を宥めながら部屋を出た。
(取り巻きやるのも大変だなあ)
なんて他人事みたいに考えていたら、出がけにオリヴィア様から恨みの篭った視線を送られた。
ええ…罰当番は君の自爆だったじゃないか…。
先行き怪しい学園生活に一息吐いて、私は一番最後に教室を出る。
明日はギリギリに登校しよう。
廊下に出たら、召使い的な人達がズラっと並んでいてビビった。
講堂へ降りると、既に他クラスは整列を終えていた。
「特待生は一番前だ」
エルダー先生に率いられ壁沿いに進む。
「あれが特級か」
「腕輪が金色だ」
「おや?一番後ろは平民じゃないか?」
ざわ…ざわ…。
好奇の視線を浴びながら、講堂前部にある壇の前に出る。
私達を整列させると、エルダー先生は右端の教師ゾーンに並んだ。
「これより44期王立学園入学式を始める」
縁起わっる。
その後、試験で会った副学園長が式辞を行い、新入生の挨拶へと移り、ギルバート王子が登壇した。
最後に神官から祝福があるそうで、若い女性が舞台に上がった。
「姉上…」
「ラウラ王女だ!」
講堂が今日一番のざわつきを見せる。
「お姿をお見せになるのはいつ以来だ」
「他国へ逃れたという噂はやはり出鱈目か」
ラウラ王女といえば例の水竜に狙われているという噂の王女様だ。
成人前って聞いていたけれど、確かに美人だ。
「大神の加護がありますように」
王女様が神へ祈ると体から光が溢れ出し、一年生全員に降り注いだ。
光は触れると身体へ溶け込み、全身に力が漲る感覚がした。
「これが聖女の祝福か…」
「なんと神々しい…」
高潔清廉を神に認められると、加護を授かり聖人となる。
聖人は光魔法を使えるようになり、退魔と救済の力を得る。
そして、神の力が宿った肉体は、最高峰の『素材』にもなりうるという。
「痛っ!?」
聖なる光で気持ち良くなっていたら急に胸が痛んだ。
痛みはすぐに治まって、理由は分からず終いだった。
王女が退室し式が終わっても、講堂のざわつきは収まらない。
(今のうちに帰ろう)
オリヴィア様に絡まれたりしても面倒だったので、私は一人列を離れ外に出た。
「何が聖女だ。竜に食われて死んでしまえ」
誰より早く学園から出て行った男達の声は、多分私にしか聞こえなかった。