11話 水竜騒ぎ
私は今、ガタガタ揺れる馬車に尻をやれながら、王都へ向かっている。
隣にはヨハンもいて、家の留守はヒルダに任せてきた。
学校の話を聞いてから、わずか四日後のことである。
『入学式は十日後、入学試験は七日後だ。行くのであれば、遅くとも四日後までに出発する』
『四日後!?それはまた、随分急な話で…』
『入学予定の者に辞退者が出たそうだ』
『それでお鉢が?でも普通、繰り上げ合格とかあるんじゃ?それと四日じゃろくな準備も出来ないよね?試験対策とかも…』
『試験では読み書き計算が出るらしい。モニカなら問題ないだろう。あとは親を交えた面接だな。内部の事情については知らんが、何でも大量に辞退者が出たらしい』
『めちゃめちゃキナ臭いけど…あれ、お父さんも行くの?』
『当たり前だろう。大事なモニカを一人で旅に出すわけないじゃないか』
『王都の学園?しかもすぐ出発?それは是非行くべきだよ!』
『ええっ、ヴァインがそんな乗り気になるとは、意外』
『いや、とても良い。進路を迷っていたんだろう?なら学園で広く勉強するのは良いことじゃないか』
『それはヨハンにも言われたけど…』
『よし、学園に通うなら魔法を教えてもいい』
『え、本当!』
『あ、やっぱり辞めた』
『何やのん!』
『学園で魔法の授業があるはずだから、そっちで学べばいいよ。私からはもっと良い物をあげよう』
『何これ?』
『魔力を貯めておける魔道具。使い切りだけど、貴重な物だから、大事に、肌身離さず持っていてね』
『い、いいの?そんな物タダで貰っちゃって』
『遠慮しないでいいよ、私とモニカの仲じゃないか!』
『くっそ胡散臭いけど』
『とにかく行くべき、絶対に!』
『…ところで、コレどうやったら魔力貯められるの?』
『えいって』
『えいっ!』
『溜まってないよ』
『何やのん!』
結局私は王都へ向かうことにした。
ヴァインがあんなに推すなら理由があるのだろうし、魔法の授業には興味があったから。
「それにしても、お父さんが王都行きを勧めるなんて意外だった」
「俺だって本当は離れ離れになんかなりたくはない。ただ、色々思うところがあってな…」
恐らく『冒険者にならない』宣言が関係しているのだろうが、藪蛇になりそうなので深くは掘り下げなかった。
話しているうち馬車が止まった。
王都へは商隊の馬車に同乗して向かっている。
二日で到着する最短ルートを通るが、この道には魔物が出ることがある。
「よ、ヨハン殿!出ましたよ、魔物が!五匹も!」
私達は迂回路を通る時間が無かったので、ヨハンが護衛を引き受けたのだ。
ヨハンが馬車から降りて行き、私は顔だけ外に出す。
馬車の前方をトロールの群れが塞いでいた。
トロールはC級の魔物である。
「トロール五体か…。せめてオークなら…マズいなりに食肉が取れたんだがなあ」
二日後。
「いやーヨハン殿のおかげで無事たどり着けましたよ。また機会があれば是非」
「私は街の衛兵です、今回はたまたま同乗する用があっただけで…」
「いやいや、本職の冒険者より頼りになりましたとも!」
王都に着くと、ヨハンは同行した商人達からやんややんやと褒めちぎられた。
私は先に街を見に行こう。
馬車を降り、城門から続く大通りへ向かう。
王都といったらこの国で一番の都である。
人口は最も多く、大勢の商人が行き交い、王城を中心に貴族が集まっている。
あらゆる物が集められ、文化の最先端を行く。
その大通りは人でごった返しに…なってない。
「すいません、何だか人少なくないですか?」
商隊の人に尋ねた。
「ああ、王都は水竜騒ぎから半年くらいこんな感じだよ」
「「水竜騒ぎ?」」
私と、追って来たヨハンの声が被った。
「水竜が空から結界を突き破って入ってきたのさ」
「へえ、そんなことが」
「それ、どうなったんですか?」
「騎士団で追っ払った、ってことになってる。実際はどうだか」
「騎士団で追い払えるようなもんじゃないだろう」
「そうなの?」
「水竜って国境の山に棲みついたってやつだろう?伝説の魔物さ。人の力で何とかなる相手じゃない」
「何でも王女様を攫いに来たって噂ですよ」
「ええ、竜って人間の女が好きなんですか?」
「お嬢ちゃんも可愛いから注意した方がいいぞ!なんつってなガハハ!」
「ハハッ…。ちなみに、竜って何級ですか?」
「飛べない奴はA級だ。いわゆる地竜ってやつだな」
「じゃあ、飛べる奴は…」
「そりゃあもちろん」
「「S級だ」」




