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転生したら女の子だったのでせめてSランク冒険者になる  作者: ゴブリン・A・ロイド
第4章 S級冒険者
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99話 一方その頃主人公は寝ていた

「…見知らぬ天井だ」


 もう何度目かも知れない『見知らぬ天井』に、私は、


(やれやれまたか…)


 という気分になった。


 目だけを動かして周囲を確認すると、そこは小さな小屋の中であった。


 起き上がると身体の上から毛布がずり落ちる。


 私が寝ていた場所は長椅子…というより物置きと言った方が適切な物体の上だった。


「で、何で私は全裸なんだ?…寒!」


 どこからか吹いてきた隙間風に震え上がり、私は急いで毛布を手繰り寄せた。


「お前、起きたのか?」


 その声でようやく他に人がいたことに気が付く。


 それは口髭をたっぷり蓄えた見ず知らずのお爺さんであった。




「雪の中で埋まってた?」


「そうだ。覚えておらんのか」


 お爺さんに話を聞くと、ここは森の中の狩猟小屋とのことだった。


 石で囲われただけの簡素な暖炉の(そば)では、私の服が干されて乾かされていた。


(ええと、王都を出て、魔女に会って、街を追われて、ゴブリン退治をして…それからどうしたんだっけ?)


 私はこめかみに指を当て、自分の記憶を掘り返した。






 ゴブリン神殿の地下で遭遇した謎の化け物を、


「浄化!」


 で倒した後、私は更に地下へ向かって階段を降りた。


 先行した二人の人売りを探すためであったが、結局私が人売りを見つけることはなかった。


 恐らくあの化け物に食われてしまったのだろう。


 地下二階は完全に洞窟で、分岐もあったが、すぐに行き止まりになり、ほぼほぼ一本道であった。


 進んでいくうちに水の音が聞こえてきて、出口まで着くと案の定水辺に出た。


 洞窟の外にあったのは大きな湖で、深く立ち込める霧に包まれていた。


 そこで、私は一人の少女に出会った。


 十数歳くらいのそこそこ可愛い少女だったが、歩きながら涙をボロボロと流していた。


 曰く、自分は泉の化け物への捧げ物であり、今から食われに向かうのだという。


(もしかして、さっき倒したアレのことかな?)


 そう思って話してみると、少女は飛び上がって喜び、私は少女の住む村へと連れて行かれた。


「村を挙げて礼がしたい」


 と村長から申し出を受けたが、丁重に断り、私は旅路に戻った。


 もう朝だったから、村を離れてしばらくして長身薬の効果が切れた。


 薬の効果が切れる瞬間を誰かに見られるわけにはいかない。


 面も外してしばらく進むと、昼前には次の町に着いた。


 そこでようやく一心地着けたのだが、あいにく冒険者ギルドは設置されていなかったので、私は翌日には町を立った。




 この辺りまで旅は順調だった。


 道中、高ランクの魔物と遭遇することもあったが、浄化(チート)の前には敵ではなかった。


 問題が起きたのは一本の分かれ道でのことだった。


 それまでは概ね真っすぐ南下していたのだが、道が広大な森にぶつかってしまい、左右に分かれてしまったのである。


 森を避けるには東か西に大きく迂回しなければならない。


 私はタイムロスを嫌い、森の中へ直進していった。


 チンタラしていたら獣人国でオリヴィア様がどんな目に遭うか分かったものではない。


「それに、途中の木に目印を付けて進めば迷うこともない。私はもしかすると天才かもしれん」


 と意気揚々森に入って行ったのだが、その森は通称『迷いの森』と呼ばれる場所で、植物系の魔物が森の植物に擬態して群生していた。


 で、迷った。


 目印を付けたはずの木がどこかに移動してしまい、帰り道が分からなくなってしまったのである。


 案の定であった。


 そして、私がその森を突破するのには、何と一ヶ月もの時間を要した。




 突破のきっかけは土魔法だった。


「ん?何か聞こえたような…?」


 野宿する際、私は毎回土魔法で小屋を作っていたのだが、その建設作業中に『声』のようなものが聞こえてきた。


 初めは孤独からくる幻聴の類いかと思ったが、


「…そういえば、外敵に襲われると周囲の木に毒素を分泌するようメッセージを送る木がある、みたいな話を前世の理科の授業で聞いたことがある」


 植物系の魔物には総じて口が無く、てっきり喋れないものと思い込んでいた。


 が、そうではなかった。


 掘り返した地面に耳を近付けると、確かに木々の根の辺りから音波のようなものが聞こえてくる。


 声というより『振動』や『脈動』といった感じで、どうやら根から地面を介して情報のやり取りをしているらしかった。


 その『声』が強まる方向へ進んでいくと、一本の大樹が見えてきた。


 それはこの迷宮の主であり、


「浄化!」


 で根こそぎ消滅させると、草木は独りでに避けて道を作り、私はようやく森から脱することが出来た。


 が、その時には既に冬が訪れていて、空には雪が舞っていた。






「…思い出してきた。冬の旅が危険なことは理解していたけど、『迷いの森』でのタイムロスを補うために私は旅を強行したんだった…」


 冬の強行軍に出てすぐ、降っていた雪は本降りになった。


 視界は通らず、足場も極端に悪くなり、そのうちまた道を見失ってしまった。


 そうなるともう先へ進むどころではない。


 土魔法で小屋を作って避難したが、雪は何日も止まず、疲れからウトウトしたあたりで、私の記憶は無くなっている。


 どうやら、そこで一度凍死してしまったらしい。


 で、雪解けのタイミングでお爺さんに発見されたというわけだ。


「この度は命を助けて頂きありがとうございました」


 ある程度乾いたところで服を着て、お爺さんにお礼を述べた。


「構わんが、まさか生き返るとは思わなかった」


「うっ!…運が良かったんでしょうね…はは…」


 誤魔化そうとしたが、何も上手いことが浮かばず、お爺さんは訝し気だった。


 その後、お爺さんの住む村に向かい、一晩休んでから、私はまた旅路に戻った。




 お爺さん曰く、村から丸一日ほど進めばオールムという大きな街に辿り着くらしい。


「オールムって、魔女のお婆ちゃんが言っていた街だ」


 オールムの街と幾つかの町を過ぎれば、国境いの森に辿り着く。


 相当時間を無駄にはしたが、強行軍の甲斐あって獣人国は間近に迫っていた。


「…だいぶ日が落ちてきたな。今日はここまでにしよう」


 雪は降っていないが、念を入れて早めに休む。


 小屋を建て、火を起こし、お爺さんに分けてもらった干し肉を食べた。


(朝になったら街へ向かおう)


 オールムには念願の冒険者ギルドがあるという。


(明日にはいよいよ冒険者だ!)




 と思っていたのだが、真夜中になると急に外が騒々しくなった。


 外を見れば、オールムの街から脱出してきたという人々が列を成していた。


「エッ!ゾンビの大群に街が襲われている!?」


「アンタもこんなとこで寝てたら襲われちまうよ!さっさと逃げな!」


「あの、冒険者ギルドはどうなりましたか!?」


「冒険者ギルド?それなら街に残って、街中の人間を避難させてるところだよ」


「ありがとうございます、ちょっと行ってきます!」


「は!?行くって街にかい!?アンタ私の話聞いてたか!?」




 流れに逆行して街へ向かうと、大勢の人間が街門前で足止めを食らっていた。


 私は門の外で指示を飛ばしていた男性に話しかけた。


「すいません、これは一体どういう状況ですか」


「あん?何って、見ての通りさ。そこの業突く張りな商店主が商品を満載にした馬車を転倒させて、今撤去作業中だよ」


 通れない門に人が密集して「踏んだ」の「蹴った」の大騒ぎ。


 更にそこへ爆音が響いた。


「キャー!」


「イヤー!」


 南の空に煙が上がった。


 私は門の通過を諦め、人気の無い場所まで走った。


「ゾンビだって?もしかして、また獣人国絡みか?本当にもう…毎度毎度毎度毎度邪魔してくれやがって…!」


 仮面を被り、長身薬を飲み、足元から石壁を伸ばして、私は街壁上を南へ走った。


 戦場が見えてくる頃には、既に朝日が登り始めていた。


 薄明かりの中、ゾンビらしき黒い影が街壁前に大挙して押し寄せている。


 そして、壁の上から誰かが落ちて行くのが見えた。


「やば!」


 見過ごせば即死コース。


 走っていては到底間に合わない。


 かくなる上は、調整の効かない飛行魔法に頼るしかなかった。


「くそったれええええええあああああああああ!!!」




 飛行魔法は怖い。


 特に私の飛行魔法はシートベルト無しでジェットコースターに乗るに等しかった。


 普通に死ねる。


 だから、壁から落ちる人を空中でキャッチ出来たのは完全に奇跡であった。


「っしゃおらあ!」


 遥か雲の上まで無事に逃れた私は、思わず歓声を上げた。


 続いて、キャッチした人物の生死を確認する。


 最悪、私が助けに行った時の衝撃で死んでいる可能性があったからだ。


 キャッチした相手は私と同い年くらいの少年であった。


「やあ少年、危ういところだったね、大丈夫かい?(低音)」


 少年は目をパチクリして、地上を見た。


 自分に何が起こったのかを確認している様子だった。


(良かった、生きてて)


 ホッとした私はもう一度少年の顔を見て、空の彼方を見て、三度(みたび)少年に目を向けた。


「…ってあれ?ラウレンツ様?」


 思わず、素の声が出たのはどうしようもなかった。


「…まさか、モニカ?」




(アイエエエエエエ!!ナンデ!?ラウレンツ様ナンデ!??)


「ほ、本物ですかァー!??」


「こっちの台詞だよ!」


「だって、だって貴方は死んだはずでは!?」


「それもこっちの台詞だよ!モニカ、本当にモニカなの!?ゾンビとかじゃなくて!?」


 ゾンビかどうかと聞かれたら、大体合ってると言う他にない。


 そこで私はようやく正気に戻った。


「もももももも、モニカ、とは?何のことやら、私は通りすがりの仮面の冒険者ですが?」


「だって今、俺の名前を呼んだじゃないか」


(し、しまった〜!!うっかりした〜!!)


 しかし、まさかこんなところで知り合いに遭うとは夢にも思わないだろう。


「いや、あのアレです。街で、君がそう呼ばれているのを見かけたから、そのあれがそれで…」


「今はリンクって名乗ってるから、街で本名を呼ばれることはないよ」


「oh my…」


 私は、天を仰いでお手上げ!という気分になった。


「聞きたいことは色々あるけど…とりあえず、下の状況を何とかして欲しい」


「…それは、そうですね」


 地上ではゾンビ共が街門を突き破らんと押し寄せている最中である。


 お空で小粋なジョークを飛ばしている時間は無かった。


「…分かりました、とりあえず浄化で全部吹き飛ばします!!」


「待って!」


「ええ!?」




 景気良く浄化をぶっ放そうと思ったところ、ラウレンツ様から待ったがかかった。


「さっき知り合いの冒険者がゾンビになっているのが見えた。他にもゾンビにされた人がいるかもしれない。出来れば、その人達は助けて欲しい…!」


「助けてと言われても…」


 実のところ、私がゾンビと対面するのは今日が初めてである。


 当然、ゾンビを人に戻す方法など知っているわけもない。


「聖魔法は魔物を塵にしてしまうと聞いた。ゾンビに放ったら全員消してしまうのでは?」


 死んだばかりの人間に聖魔法を使うと蘇生させることが出来る。


 が、魔物に使うと問答無用で砂にしてしまう。


 ゾンビに浄化を使った場合、どちらが適用されるのか判断の付かないところであった。


「…と言っても、私に出来ることなんて浄化(それ)くらいしか…いや、待てよ?」


 そこで私は思い出す。


(そういえば、私もネクロマンサーだった)

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