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転生したら女の子だったのでせめてSランク冒険者になる  作者: ゴブリン・A・ロイド
第4章 S級冒険者
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97話 リンク⑥ ゾンビの大氾濫

 それからまた日は流れ、年も明け。


 春も目前になった頃。

 

「はい、確かに『アイスウルフの尾』の納品確認しました。C級依頼二つ目完了です。あと一回C級依頼をこなせば無事D級から昇格ね!」


「頑張ります」


 俺はC級昇格試験を受けていた。




「いやぁ、十一歳でもうC級目前とは、やっぱ魔法使いって凄えんだなあ」


「もうじき春なので、ほとんど十二歳ですけどね」


「馬鹿お前、リンクの坊主は特別だよ。魔法使いには何度か会ったことあるが、リンク並みに魔法が使える奴は見たことがねえ」


「おお、確かに!」


 アーブラさん達は今日も昼間から酒を飲んで酔っ払っている。


「リンク、アイスウルフはどうだった?」


 マルティンさんの問いに対し、俺は一瞬返答に困った。


「運良く一匹だけのところに遭遇して、魔法で一発だったので…外していたら危なかったかもしれません」


「お前そう言って一回も外したことねえじゃねえか」


 単独で活動している以上、魔法を外せば即、命の危機である。


 よって、初撃には細心の注意を払っており、今のところ魔法を外したことはない。


「そういや、リンクお前、全力で魔法をぶっ放したことはあんのか?」


「冒険者になってからはないですね」


「…こりゃあB級までくるのも時間の問題だなあ」


(B級か…)


 出来ることならB級昇格試験にも挑戦してみたいとは思っている。


 しかし、もう春は目前に迫っていて、俺は雪解けと同時にこの街を離れる予定だった。


(時間的にC級が限界だなあ。それ以上は…オリヴィア様を助けて、無事に帰ってこれたら、その時に考えよう)




「た、た、た、大変だ!」


 ギルドに留まって談笑していると、一人の冒険者が慌てた様子で扉を開いた。


「そんなに慌ててどうした。強力な魔物でも出たか?」


 そう問うたのは、酔っ払っていたはずのアーブラさんだった。


 気付けば、先ほどまで馬鹿話に興じていた面々も一瞬にして表情を引き締め、静かに男からの返答を待っている。


 ぼちぼち日も暮れ、一日が終わる頃合いだったが、有事の際には即座に全員が動ける状態だった。


「はあ、はあ、じ、実は…」


「実は?」


「み、南通りの靴屋の業突くオヤジがついに弟子達から反発を受けて看板にでっかく落書きされたらしい!」


「な、何だってー!!」


「そいつは大変だ!」


「酒なんか飲んでる場合じゃねえ!おい皆、野次馬に行くぞー!!」


「「「うおおおおおお!!!」」」


 そして冒険者ギルドはもぬけの空となった。


「しょーもな…」


「もしかして冒険者って馬鹿しかいないの?」


 取り残されたマルティンさんとバルバラさんが、そんな風に話しているのを耳にした。


「残念ながら、俺とリンク以外は馬鹿しかいないらしい。…ってあれ?リンクはどこ行った?」


「う、嘘でしょ!?リンクくーん!?」


 当然、俺も野次馬に付いて行った。




「ガッハッハッハッハ!!面白え見せもんだったな!!」


「ざまあねえぜ。日頃から欲の皮突っ張ってるからああなるんだよ」


 靴屋の親方と弟子の追いかけっこを観戦した後、俺達はまた冒険者ギルドに帰ってきていた。


「おい、リンク!お前まで何、野次馬しに行ってんだ!」


「え、だって、面白そうだったから」


「ああ、リンク君が悪の道に…」


 何故かマルティンさんとバルバラさんに叱られたが、俺に後悔はなかった。


 貴族街では決して見ることが出来ない光景であったから、もし次があっても必ず見に行こう、と心の中で誓ったほどである。


 そうこうするうち、日は暮れ、夜になり。


「こんな良い気分の日には飲むしかねえ!皆も飲むぞー!金は俺が持つ!」


「「「うおおおおおお!!」」」


「だから、うちは酒場じゃないって言ってんでしょ!」


「まあまあまあまあ、固いこと言うなよ。冬備え用の酒が未だ残ってるはずだろ。今日で全部開けちおうぜ!」


「だから!酒場で!やれってば!」


 バルバラさんの咆哮も虚しく、右から左に聞き流した酒飲み達は各々自分のコップを確保しに動き始めた。


「んもー!!」




「た、た、た、大変だ!!」


 とそこへ、またしても一人の冒険者が慌てた様子でギルドに突撃してきた。


「大変なことになった!!」


「あーはいはい、南通りの靴屋の業突く親父がついに弟子達の反乱にあって看板にでっかく落書きされたってんだろ。もう皆知ってるぜ」


「く、靴屋?そんな話じゃあねえ!緊急事態なんだ!」


「じゃあ、何の話だよ。これから大酒飲み大会なんだから手短に頼むぜ」


「大酒飲み大会って何よ!?」


 バルバラさんのツッコミが冴える。


「はあ、はあ、じ、実は…」


「実は?」


「く、国境いの森でゾンビ大量発生した。しかも、ゾンビ共は北上してこの街に向かってきてる!」


「な、何だってえ!?」




 急報を受けた後。


 俺達は街中から冒険者を集め、皆で街壁の上に立った。


 寒風吹きすさぶ晩冬の夜だ。


 春が目前とは言っても、未だ雪が解け出す様子もなく、外気の冷たさは肌を刺すよう。


「撃ちます、ファイアーボール!」


 この場で唯一の魔法使いである俺が、遠方に向けて火魔法を放つ。


 これはもちろん暖を取るためではなく、闇夜を照らす灯りのためであった。


「み、見えた!本当にゾンビの群れだ!」


「おいおいおい、あの動いてるの全部ゾンビかよ!?一体何匹いやがるんだ!?」


 火球に照らされた先には、地平線までびっしりと『黒い点』が蠢いていた。


 よく目を凝らせば、その『点』は人の形をしていることが分かった。


「ザッと見積もっても、一万は下らなそうだ」


 従軍経験のあるアーブラさんが、群の大きさから敵の総数にあたりをつける。


 周囲からは、生唾を飲み込む音だけが続いた。




「…おい、ゾンビの発生場所は南の国境いの森なんだろ?オールムまでは他にいくつも村や町を通るはずだ。…そこはどうなった?」


 皆の視線が、急報をもたらした冒険者に集まる。


「…お、俺は元々ヨナの町にいたんだが、ヨナの町は大してデカくもねえから、冒険者ギルドも無くて…戦力になりそうな奴も数えるほどで…」


「手前、見捨てて来やがったのか!」


「に、逃げるようには言ったんだ!でも、それ以上はどうしようもなくって…」


「この根性無しめ!」


「止めろ!ソイツの判断は間違ってねえ!」


 実際、誰かしらが伝令に走る必要はあった。


 もしも、前準備無しにあの数のゾンビに襲われていたら、比較的大きな街であるこのオールムも、あっという間に陥落していたに違いない。


(…まあ、前準備があっても、長く持つかは分からないけれど)


 『ゾンビに殺されるとゾンビになる』。


 というのは迷信だが、近くにネクロマンサーがいたり、ゾンビが発生する条件が整った場所では、その迷信は真実となる。


 故に、ゾンビは数が増える前に倒すのが鉄則だった。


(しかし、一万か…)


「街の住民の避難はギルドに任せてある。近隣の町に触れも出した。が、まあ増援は間に合わんだろうな。…リンク!」


「はい!」


「…と弓が使える奴らは、ここに留まってゾンビの数を減らしてくれ」


「アーブラさん達は?」


「俺達は近付かなきゃゾンビを叩っ切れねえんでな。…なあに、不安そうな顔すんな。大酒飲み大会が控えてんだ、ヘマはしねえよ」


「…御武運を」




 アーブラさん達は地上に降りて、街壁の外に陣取った。


 地上班が四十二、遠距攻撃班が俺を含めて八人。


 絶望的な数の差に、足が震えてしまう者も多い。


「十数年前にもゾンビの大氾濫はあった。それを止めてみせたのは二人の冒険者だ。その二人は今でも『英雄』として語り草になっている」


 地上からアーブラさんの演説が聞こえてくる。


「今この場には腕自慢が五十人も揃っている。相手はD級のゾンビ。数は多いが、それだけだ。斬って、斬って、斬りまくれ!そうして生き残った奴が、次の『英雄』だ!行くぞ野郎共!!!」


「「「うおおおおおお!!」」」


 雄叫びが圧となって俺の身体を震わせる。


(火蓋を切るのは、俺の仕事だ…!)


 俺の得意魔法は風。


 だが、アーブラさんからは出来るだけ派手に、と注文があった。


「…絢爛たる赤銅の渦」


 俺は魔力を練り上げて上級魔法の準備を始める。


「白き雷号、黒煙の馬車」


(俺の仕事は、開幕から派手な魔法を放ち、皆の恐怖心を完全に拭い去ること)


「万象を背に眷属と成す、君臨する彼の名は地獄の大帝なり!」


「総員、進めええええええええ!!!」


「イクスプロジア!!!」


 駆け出し始めた冒険者達の頭上を、白い閃光が追い抜いた。


 そして、爆音が轟く。


「うおおおおおおお!??」


「な、何じゃああああああ!??」


 同時に、ゾンビの群れの中央で、巨大な赤熱の火柱が立つ。


「ま、魔法だ!こいつは火の魔法だ!多分!恐らく!」


「てーことは、何だ?これ、リンクの坊主がやったのか?」


「うっそだろ!?」


「もうゾンビ全部燃えたんじゃねえか?」


「えげつねえ…」

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