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転生したら女の子だったのでせめてSランク冒険者になる  作者: ゴブリン・A・ロイド
第1章 転生
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0話 冒険者

初投稿です。

目を覚ますと、既に陽は高く昇っていた。


(よく寝た)


大きく伸びをして眠気を飛ばす。


干し草を詰めた簡素なベットから這い出ると、全身がバキバキと音を立てた。


寝巻き代わりに着ていた薄いシャツを傍へ打ちやる。


今は夏。


冷房も無いので、服は着ないだけ良い。


とはいえ、全裸で出歩くわけにはいかない。


開放感との別れを惜しみつつ、局部に布を巻き、ピンで留めてから、ズボンと服に身体を通した。


寝癖を魔法で撫で付ければ、まずまず身だしなみは整った…はずだ。


(鏡が無いから確認出来ないけど)


皮のブーツを履き、部屋を出る。


木造の通路を歩き、階段を降りると、カウンターの内側に宿の女将さんがいた。


「あら、やっと起きたのかい?相変わらずお寝坊さんだねえ」


事実そうであるから私に返す言葉はなかった。


「おはよう、おばさん」


「おはよう、じゃないよ全く!腹減ってるだろ?朝の残りがあるけど食べるかい?」


「あ、頂きます」




遅い朝食を食べたら裏庭へ出て、井戸水を汲み上げて顔を洗う。


魔法で水を出してもいいけど、普通の水の方が何となく気持ちがいい。


そしてまた一度、自分の部屋へと戻る。


部屋の(すみ)に脱ぎ散らかしてある防具を拾い、贅沢にも魔法を使って洗浄し、着用。


鎖帷子を着て、ベルトを巻き、剣と杖を左右に差す。


暑いけど、日除けにローブも着る。


鎖帷子が熱を持ったら死んでしまうから。


暑さについては氷魔法で何とかする。




宿から出ると、街の人々は忙しなく働いていた。


私は謎の罪悪感と焦燥感に襲われた。


敢えて言語化するならば「昼まで寝てるなんてダメ人間って思われてそう」感だ。


しかし過ぎた時間は戻らないので、私は平静を装い冒険者ギルドへと向かった。


広場へ続く大通りを歩いていく。


途中で一本右折すると、石で組まれた(へい)が現れた。


塀は五十メートルくらい続いていて、その中は全て冒険者ギルドの敷地である。


本館受付の他、解体場と倉庫も併設しているため、平民街には不釣り合いなほど横にデカイ。


門前には見張りが立っているので、挨拶をして通り過ぎた。


「おはようございます」


「もう昼だぞ」


ダメ人間だと思われてそう。




門をくぐって、石畳の床を直進。


敷地内に三つある建物のうち、中央の石造りの建物へ入った。


木製の扉を押し開けると、視線が一身に集まった。


「よう、お嬢。今日も遅いご出勤だな!」


「ガハハハ、良いご身分ってやつだな!」


「どうも。二人はもう飲んでるんですか?日はまだ高いのに…」


「飲んでないよ〜こいつはただの水だよ〜」


「あ〜水うんめ〜なあ~」


「もう絶対嘘」


ゲラゲラ笑う酔っ払いおじさん達をあしらい、とりあえず奥の依頼掲示板を見に行く。




掲示板には現在募集されている依頼が皮に書かれて貼り出してある。


なお、依頼書は魔物から剥いだ安い皮に、最も安い赤インクで書かれている


だから、ちょっと臭う。


「うーん、やっぱり減ってる」


昼過ぎという中途半端な時間に来たため、掲示されている依頼書の数は極めて少なかった。


「虫退治、ドブ浚い、傭兵募集…また内乱か?」


ザッと見ても割に合わない仕事や面倒な仕事ばかりが残っている。


安かったり、大変だったり、汚れ仕事だったり。


「お」


そのうちの一枚に、漁師の護衛依頼があった。


『沖島まで往復する際の海上護衛。依頼期間…四日。報酬…銀貨二十枚。募集条件…D級以上の冒険者。備考…水魔法が使えると良い』


(四日で銀貨二十枚。あっちの世界なら六万くらいか。安い…)


この世界の貨幣価値は額面より高めだけれど、それでもなお安い。


海で魔物と戦うのは、陸で戦うより大変だ。


足場が不安定な上、出てくる魔物も予測が難しい。


護衛となると、依頼主と船員の他、船自体も守らなければならない。


万一の逃げ道も限られるし。


潮風のために装備も痛む。


もちろん命の危険ありで、四日拘束で、六万円。


安い。


「まあいいや、これにしよ」


だって私、お魚好きだし。


「おいおい、そんなクズ依頼受けんのはやめとけよ」


振り向いたら、何かチャラい男が三人いた。




(…誰だこいつら?)


この街を拠点にしてしばらく経つが、三人とも見たことのない顔だった。


三人とも金髪で、そして何故だか全員胸元が全開になっていた。


「ねえ君一人?」


「…そうですが」


「本当に?女の子が一人で冒険者なんて危ないよ」


「俺達丁度仲間募集してんだよね。君、どう?」


「一緒に冒険しようよ。色々教えてあげるからさ」


「…間に合ってます」


もう判で押したようなナンパであった。


私は内心で溜め息を(こぼ)す。


「まあまあ、そう言わずにさ」


「見た感じ、君、低ランでしょ?」


(…あ゛?)


低ランとは「冒険者ランクが低い者」の意。


要するにコイツらは初対面の私に「君すっごい弱そうだね」と言ってきたのである。


喧嘩売ってんのか。


「あ、でも装備は良いね!身綺麗にしてるけど、もしやどこかのお嬢様かな?」


「冒険者になりたくて家を飛び出して来たとか」


「ありそー!」


(ねーよ)


向こうの世界でいうウェーイ族に分類されそうな連中だった。


「ランク上げたいなら上位パーティーに入るのが一番だぜ?」


「俺らはC級パーティーだからさ、仲間になれば君もすぐC級になれるよ」


「…私もC級ですけど」


「ププッ!ないない!女の子一人でC級って!」


「君面白いね」


「見栄張っちゃって可愛いー!」


腹立つ!




殴り飛ばしたろか?と思ったけれど、ギルド内で暴れるのはあんまり良くない。


誰か助けてくれないかと探してみるが、こんな時間ではギルド内の人も(まば)らだった。


受付のお姉さんは静観の構え。


奥の部屋にいるはずのギルドマスターも、出てくる様子はなかった。


残っているのは酔っ払いのオッサン二人くらいのものだが…。


「おい見ろ、またお嬢が口説かれてるぞ」


「ガハハ、モテる女も辛えな!」


「なあおい、この後どうなると思う?」


「そりゃあもちろん…」


「もちろん?」


「ごにょごにょごにょごにょ…」


「ワッハッハ!!」


「ガッハッハ!!」


酒の肴にして楽しんでいた。




「よし!じゃあ、一回だけ一緒にクエストしよっか。それで良いなと思ったら正式に加入するってことで」


「ろくなクエ残ってないし、売却狙いで魔物でも狩り行くか」


「いいねー!」


「は?勝手に決めないで…」


「いいから、いいから」


「上位ランカーの話は素直に聞くもんだぜ」


と言いつつ、男の一人が肩に手を回してきた。


きっっっっっしょ!


「先輩達に任せておきなって」


「悪いようにはしないからさ」


「それに俺、一目見た時から君のことが…あひゃい!?」


肩を組んできた男が素っ頓狂な声を上げて凍り付いた。


比喩ではなく、氷魔法で三人まとめて固めてやったのだ。


「げえっ!何だこれ!?」


「か、身体が動かねえ!?」


「申し訳ありませんが、私は誰とも組む気は無いので」


「ヒュー!」


「やったぜ!流石お嬢!」


「三人斬りだ!こりゃあもう乾杯するしかねえ!」


「お嬢に乾杯!」


「散って行った数多の男達に幸あれ!」


ガシャーン!


「「プハー!」」


「まずい!」


「もう一杯!」


酔っ払い共は大層楽しそうであった。




チャラ男と酔っ払いは放っておいて、何事もなかったかのように受付カウンターへ向かう。


「すいません、依頼受けたいんですけど」


「クロさんこんにちは。お疲れ様です。ええと、護衛依頼ですね。はい、『C級』のクロさんなら問題ありません」


一部分だけ異様に声が大きかった。


「C級…!?」


「本当に!?」


「女の子が一人で!?」


「依頼達成数も増えてきましたし、そろそろ『B級』昇格試験を受けて良いのでは?」


「「「び、び、び、B級!?」」」


冒険者にはランクがある。


E級が初心者、D級で半人前、C級から一人前で、B級になると凄腕、A級は超一流、最高位がS級で、伝説の勇者クラスとなり、歴史上でも数える程しかいない。


「そうですね。考えておきます。…ちなみに向こうの人達は?」


「彼らは今日この街に来たそうですよ。ちなみにC級には上がったばかりですね」


「あー、それで」


ランクアップの興奮で態度が大きくなっていたのかもしれない。


私にもそんな時期が、あったような無かったような…。


「若さ故の過ちってやつですね」


「クロさんの方が若いですけどね?」


女二人の視線を受けて、チャラ男君達は顔を真っ赤にした。




「ガッハッハ!残念だったな兄ちゃん!」


私がギルドを出る間際、チャラ男達は酔っ払いに絡まれていた。


なお、氷の拘束は未だ外れていなかった。


時間経過で解除されるので、私はそのまま出て行く。


「悪いことは言わねえ、お嬢のことは諦めな」


後はオッサン達に任せよう。


ギルドの外へ出ると、最後に彼らの会話が漏れ聞こえてきた。


「あ、あの娘は一体何者なんだ?」


「お嬢の名前はクロ。…俺の…娘だ……」


おい。


「ほ、本当か!?」


「嘘だ……」


「なっ、ふ、ふざけんなよオッサン!!!」


「まあまあ、あの子はな、聞いての通りB級間近の敏腕冒険者さ」


「体感した通りで魔法使いだが、剣も使うぞ」


「どっちも良い腕してるからよ、お前ら以外にも狙っている奴は多いんだ」


「何と言っても美人だしな」


「だが、お嬢は誰とも組まねえ。他に男がいるわけでもないのに」


「振った男は星の数」


「…何か理由があるのか?」


「…知りたいか?」


「あ、ああ、もちろんだ!」


「そうか…お前さんも惚れちまったんだな。フッ、なら仕方ねえ。教えてやろう!」


「誰にも言っちゃあならねえぞ」


「海より深く、空よりも遠き秘密があるのさ」


「そんな秘密が…」


「一体どんな秘密なんだ…」


「実は」


「お嬢は」


「なんと」


「…」


「なんと?」


「「なんと『前世が男』なんだってよ!!ギャ〜ハッハッハ!!!」」


「…は?」


「…あ」


「か、からかいやがったな!?」


「「ダハハハハハハははははは!!」」


「この…腐れ酔っ払いジジイ共め!」


「何が『転生』だ!!」


「そんなこと、現実にあるわけねえだろうが!!!」

挿絵(By みてみん)

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