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Peace Bird Air Company  作者: どんゆう@Project_Catty
1/5

PB143便 かいそう

国連ジュネーヴ支部近く、ジュネーヴ国際空港の一角にある小さな航空会社、Peace Bird Air Company。

国連事務局員や平和に従事するVIPを特別高速で目的地まで運送する会社の物語。


かいそうから物語を始めます。

「!?」

突然気付いた。いや気付いたというより靄がかった意識が急に明瞭になった感じだ。

少し慌てて自分の周囲を確認する。目の前にはガラスの透明な板。そこには緑の光で様々な情報が表示されている。その奥には頑丈な枠とはめ込まれたガラスキャノピー。下には様々なスイッチと計器、モニターがはめ込まれたコンソールパネル。右下を見るとまた違った様々な操作スイッチとランプ。左は2つの大きなレバーに左手が置かれ、他にもいくつものレバーやスイッチ類パネルがある。右手は中央にある操縦桿を握っている。

(ああ、解る。よく知っている感じだ。)

少し落ち着き、自分の感覚をもう少し感じさせる。頭にはヘルメットを被り、黒いバイサーを下げている。

口と鼻に感じるのは酸素供給マスク。自分の躰はシートにベルトで完全に固定されている。

(これも解る、よく知っている感覚だ)

背後で人の気配を感じた。そう、元々後ろに誰かが載っているのも理解している。その背後の人物から声が掛かる。

「機長、どうかしたかね?」その人物は怪訝に感じたのか質問をする。

「いえ、なんでもありません。飛行スケジュールも機体も万事順調です。」乗客(パッセンジャー)を不安にさせないよう、少し明るい雰囲気で返答をする。

「そうか。ならいいんだ。」乗客、国連事務局員である特使は安心する。

「しかし…機長。…先程とは急に雰囲気が変わったね?」

「…そうですか?」

「ああ。先程まではまるで機械が話をしているように感じたが、急に別人になったような…人間味を帯びたというか…。いや失礼な言い方だったね。済まない。」今の発言を詫びる。

「気にはしていません。それよりも…」機長は右側のキャノピーを見て観光案内の如く愉快そうに特使に促す。

「右側をご覧ください、素晴らしいモノが観れますよ。」

彼は言われたとおりに右側を見、感嘆の声を上げる。

「おお!なんと美しい!」

「どうです?我々だけが特等席で見れる素晴らしい光景でしょう?」

それは暗い夜空から立ち上る、空を紫から蒼に染めていく日の出。太陽の輝き。

「まるで我々の未来を示しているようですよ。如何です?」

「心が洗われ、奮い立たせられるようだ…だがこの光の前に大きな困難が立ちふさがっている…」その声は歓喜から重いものに変わっていく。

「機長…私はこの太陽と君の尽力に誓うよ。必ずやこのミッションを成功させてみせる。」

「さあ特使、そろそろ時間です。もう数分で国境を超えます。ここから先は何が起こるか分からない危険地域です。覚悟を決めてください。」機長の声に緊張が含まれる。

「わかっている…機長、君を信じる。」特使の声にも緊張と覚悟が混じる。

「再度確認です。シートベルトがしっかり締まっているか、ヘルメットもしっかり被っているか、マスクの装着と酸素吸入は行われているか入念に調べてください。」促されて後部席からそれらを確認するごそごそ音が聞こえる。

「それと相手国のエスコートの接近が予想されます。万一の事態になる可能性も否定できません。その際はあなたの命が第一優先になるので私の判断で行動させて頂きます。」契約上にもある内容を再度確認する。

「了承した」特使も再度同意する。

「最後に。最悪、戦闘状況に陥る場合もあります。事前に説明したように私の指示の協力をお願いします。具体的には高いGが体に掛かります。その際内向きの旋回にはブラックアウト、外向きの場合はレッドアウトが起こります。それを回避するため内向きの場合には腰、膝の筋肉に強く力を込めてください。逆に外向きの場合は首、肩周辺の筋肉に力を込めてください。早口になりますが、その都度指示をします。それともう少し。余裕があればですが。周囲を見渡し、警戒を手伝っていただければ助かります。多分それは難しいと思いますので、本当に出来ればで構いません。恐らく乗り物酔いをする暇もなく気絶する可能性の方が高いですから。酔わないためには機の進行方向を予想しつつ身体も合わせる事ですが…以上です。」機長の注意がここで終わる。ここから先は本当に命がけになる。最悪気付く間もなく粉々になるだろう。

「わかった。君の指示に従う。」彼は出来ることを把握し返答をする。

「目的地まで予定であと1時間32分。多少の遅延はお許しください。」


目的の空港には1時間38分かかった。PBA143便は無事に滑走路へ着陸する。機体、F-14D、Peace Bird Air Company 1号機には傷一つ付いていない。使用した装備はミサイル欺瞞用のチャフ・フレアディスペンサーのみだった。

タキシング後に飛行機待機所(ランプ)で駐機をする。

機の周りに消防車と救急車がサイレンを流しながら接近する。

やはり特使は何度か気絶をしたらしく、今も息が荒い。それも当然だろう。今まで体験したことのないGが急に自分の体重の何倍もかかったのだから。訓練している戦闘機乗りですら陥る事だ。

救急隊員の手で特使は機から降ろされ、タンカに乗せられる。機長はそれに続き機体側面の引き込み式梯子(ボーディングラダー)を使って機から降りて、タンカに近づく。

「特使、大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかね。」息も絶え絶えながら笑顔で答える。

「機長、君のおかげで無事にここに到着出来た…本当にありがとう。」そして弱弱しくながらも右腕を機長に伸ばす。機長はその腕を右手で取り、強く握る。特使の手が力無くも強く握られ、そこから熱く力強い感触が機長に伝わる。

救急隊員はそれを見届けると「至急、救急車に乗せろ!」と号令する。

機長は暫く自分の右手を見つめて立っていた。


応接室では女社長と一人の男が話し合っていた。

ここはPeace Bird Air Companyではなく、男の所属する会社の応接室だ。

「事前に頂いた御社の要求レポートには目を通させて頂いました。御社の運用上においての特別な要求、つまり交戦規定が適用される場合、先に脅威を発見、攻撃を回避、その後反撃として格闘戦に持ち込みつつ非撃墜で離脱する。相当に厳しい内容ですが、我が設計局の機ならカスタムで要求を満たせるかと考えております。脅威となるパイロットの技量と機の性能次第となりますが。」男、スホーイ設計局長は自身をもって答えた。

「安心しました。当方も内容が内容だけに他所の会社や設計局も芳しい返事が無く、妥協案ばかりで困っていたところです。」女社長は安堵した。

「アメリカも私の無理な我儘を聞き入れてモスボールからジャンクで組み上げたF-14Dを早く返してくれと前々から言われていましてね。アレは本来輸出禁止品目でしたし、そろそろフレームも寿命に近いですので。」と苦笑する。

「なるほど。」局長もつられて愛想笑いをする。

「しかしF-14ですか…アレやF-15等を見たとき、私はアメリカの底力というものに恐怖を感じましたよ。あのような短期間であれほど高性能な戦闘機を配備するとは…とね。我が国、そして各設計局への新たな挑戦状と受け取りましたよ、当時はね。」と彼は天井を見上げ、感慨深く答えた。

「して、我が社が薦めるのはSu-30UBMKという形式になりそうですな(UBは複座練習用、BMは大規模改良、Kは輸出モデル)これは我が国の配備機Su-30SMの輸出型に改良を加えたもので、基本は変更がありません。それを元にアビオニクスの更なる最適化とECM,ECCM,対地攻撃用ポッドの追加といったところでしょうか。対地ポッドは攻撃用ではなく、あくまで地上からの攻撃体早期発見用ですが。」おおよその概要を説明する。

「私も貴社の飛行機のについて多少なりとも勉強をさせて頂いておりますが、若干気になる点があります。」その説明に女社長は疑問点をぶつける。

「まずタンデム複座は要求通りとして、航続距離、追加増槽無しで3200km程度,追加増槽ありで4300km以上は可能ですか?また滑走距離もV1(離陸決心距離 超えると離陸中止出来ない)も500mをきれますか?あと上昇能力ですが、もう少し向上をお願いしたい。」

「うーん、それは…」局長は困った顔をする。提案した機体では若干要求に足りない。特に増槽はSu-30系統には無い装備だ。離陸距離も1.5倍、750m前後が必要とされている。

「そうなると我々の提案するSu-30UBMKでも実現するのはかなり難しくなりますな。他の機種でも実現は不可能ではないでしょうか?」困りながらも女社長に圧力をかけてくる。問題が政治要因というより物理的要因であるため、達成が困難である。この圧力は妥協してウチの機に早く決めて欲しいという意味合いも持っている。

「我々設計局が出せる提案としてはこのSu-30UBMKシリーズ以外にはありません。」と釘を刺す。

「不勉強ながら、少し具体的な提案を。」と女社長は説明する。

「まずフレームですが、貴国で導入が始まっているSu-35Sをベースにタンデム化して、エンジンは現搭載型であるAL-41F1SではなくSu-57で使用されるAL-41F1に変更。後に試作コード、イズデリエ(製品)30が完成すればそちらに換装。また翼は貴社が以前試作したSu-33UB(艦載型練習機)の面積の広い物に。そしてダブルフラッペロン先端をエルロンとして使えるようにし、折り畳み機構を省いた形で更に翼内タンクの増量、各尾翼も複座用の大型の物に変更。着陸脚(ランディングギア)も同様にSu-33UB用の航空母艦離発着用に強化されたものを使用。カナード、エアブレーキははSu-35S同様に不要。レーダーはN035EイルビスE型ではなく、N036-1-01,サイドレーダーN036B-1-01B,前縁フラップに内蔵するLバンドレーダー,N036L-1-01の組み合わせであるベルカN036型に変更。その他電子装備は提案通り。如何です?」

局長はかなり難しい、というより渋い顔をする。未知の要素がかなりある。そして政治問題が含まれる。

「ふぅ~、女社長殿。初めからこの案を出すつもりでしたな?」一筋縄ではいかない女性だと彼は今更気づいた。

「まずSu-35Sは我が国、ロシアの軍隊への配備が優先です。またこの機のフレーム、タンデム化や翼の変更は実績が少なく信頼性について保証しきれません。特に翼は試作のみでしたので。最後にエンジン、イズデリエ30ですがこれも試作中で、完成しても優先的に…とはいかないと考えますが。」彼は真剣な面持ちで答える。どれも彼の国、ロシアの最新装備であり技術である。一企業に簡単に譲れるものではない。

「それは政治的問題ですね?」と問う。

「ええ、勿論です。」

「でしたら、問題はありませんよ。ロシア政府もこの程度の()()()()()は断れはしません。」と女社は悪戯っぽく笑う。

「そう…でしたな、姫君。ではウチ(スホーイ設計局)はそれでやってみましょう。Su-35SUBMK,コードはT10SUBMK。但し多少の時間を頂きたいし、場合によっては人員もお借りしたい。政治方面はあなたの方で責任をお願いします。」局長は確認しながら、本件を請け負うことにした。

「ご協力感謝いたします。それと、その…姫君はやめて頂きたい。もう亡き国の話ですから。」女社長は局長と握手をした。


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