ちわ
「ちわ」
「あっ木月さん!」
火曜日はひふ弁当に顔を出したら嬉しそうな顔でお弁当屋の女の子は出迎えてくれた。
「パタッと来なくなっちゃったから心配してたんです。うちのお弁当食べすぎて飽きちゃったのかと…
顧客を一人失ったかと思った」
「いや、インフルエンザにかかって寝てた。今日からサービス券集め再開する」
この俺の言葉に女の子は
「…そんなに情熱を持って挑まれるほどのことじゃあ。
女の子にはわけもなく泣きたくなるときがあるってだけの話で…」
と申し訳なさげに顔を下げた。
そしてバツが悪そうに上目遣いで俺を見る。
「まさかそれ答えじゃないよね?」
「…答えです」
「だとしたら怒る。もやしっ子の俺に一日二キロも歩かせてその答え。誠意なさすぎ!」
店先で責めていたら弁当買いに来たオッサンに声かけられた。
「ん、兄ちゃん杏奈ちゃんを口説いてんのか?
杏奈ちゃんモテるなー
俺が買いに来るたびに誰かに口説かれてんじゃん。
あ、唐揚げ弁当一つね」
はいっと答えて女の子が奥に注文を通す。
口説いてなんかいないっつーの。
知的好奇心。
「木月さん、もう少しで休憩入るんで良かったらお茶しましょう」と女の子が声をかけてきた。
おっ
久々に女の子にお茶に誘われた。
よしよし。
まあ、俺が商店街のコンビニ前のベンチで弁当食って、その隣で女の子がコンビニで買ったコーヒー飲んだだけなんだけど。
サービス券はたまらなかったけど、話し相手にはなってくれた。
「ねえ、君モテるの?さっきのおじさんがそう言ってた」と言う単刀直入の質問に女の子は苦笑した。
そしてサクッと「ハハハ、わりとモテます、学生のときから」と言った。
それを聞いた後の俺の反応を見て
「うわっ、見るからに意外そうな顔…まっ、モテるのはしょぼい人にだけですけどね」と女の子は笑う。
しょぼい人…
「ん、俺そのしょぼい人たちに入れられちゃったりしてない?
言っておくけど俺は別に君を口説いているわけじゃないよ」
女の涙評論家として君に興味が湧いちゃっただけで。
「思ってない思ってない。だいたい木月さんしょぼくない。
おしゃれなお兄さんって感じで」
そうでもないけど…
「私に声かけてくれる人って、特別可愛くもないけど、この程度の子なら頑張れば付き合えるかも…みたいな感じが見え隠れしちゃってたんですよね。
だから私というものが好きなんじゃなくて…なんというか…お手頃感で誘われるみたいな…。
まあ、例えて言うならほしいブランド物の服は高くて手が届かないから手頃な、まあぎりぎり着てても恥ずかしくないこの価格ラインの服でいいにするか…みたいな」
へぇ…素朴で善良そうな顔の裏でこんなこと考えてんのか、この子。
「そうとは限らなくない?
決めつけすぎじゃない?
しょぼい男が女の子に声をかけるのって勇気いるよ。
ほんとに君がいいなと思って声をかけてきてるんだと思うよ」
「うーんそうかなぁ。
何人か付き合ったけど、誰でも良かったんじゃない?って思うこと多かったけどな。
まあ確かに中にはすごいメルヘンなラブレターとかよこした人もいたけど。ハハッ」
う…男の純情をあざ笑ってる…この子。
意外と悪者…
「この前の彼は?
全然しょぼくなかったじゃんか。
ずいぶんスペック高そうなイケメンだったけど」
「あー祥ちゃん。
彼は別に私じゃなくても誰でもイケる感じでしょ?
なのに私に声かけてくれて。
嬉しかった、この人純粋に私に興味持ってくれたんだって思って。
で、好きになっちゃった。すごく。
あはは、でも声かけてくれた理由は一度イケてない女の子とも付き合って見ようかなって思ったからだったらしい。
なんか気を使わなくてよくて楽なんじゃないかと思ったみたいよ?
あれ?私何ベラベラしゃべっちゃってんだろう?」
ここで女の子はじっと俺の顔をみた。
「木月さん、なんか人を油断させますねー」
「うん…割りとみんなにそう言われる。
この薄い顔が人の警戒心を解くみたい。
今までよく女の子の相談乗ってきたよ」
だから君の相談にも乗ってあげようか?と言葉には出さない。
最後の一言は口にしない。
これ、女の子に引かれないコツ。