週末
週末家を出るときに、ふと、コンちゃんへのおみやげにあの子のいるお弁当屋の唐揚げ買って行こうかな?と思った。
この街には二つ商店街がある。
このマンションの北の駅前商店街と南のひなびた商店街と。
つまりあの子のいるお弁当屋があるのは駅とは逆の方向の商店街だ。
少し迷ったけど、止めた。
ちょっと面倒くさいし、今日は純粋に缶詰を楽しみたい。
コンちゃんのお母さんが近所の工場のアウトレットで買ってきたという缶詰群。
電車に乗って3つ先の駅で降り、コンちゃんの家に向かう。
コンちゃんといまだに仲良くしているのは同じ路線沿いに住んでいるのも関係しているのかもしれないな。
コンちゃんの家もうちも駅から五分くらいのところにあるから電車のタイミングが良ければ家を出てからニ、三十分ほどで行けてしまう。
今日は二十五分で着いた。
「佐太郎、入りな」と白い外壁の古いアパートの一室にコンちゃんが迎え入てくれた。
うっ、アンタ…なんちゅう格好をしてるんだ…
長い髪を大雑把に一つにまとめ、フリースの上に綿入れのちゃんちゃんこという厚着。
それはいいんだけど、なぜに下は短パン?
変な格好…
まっ、コンちゃんだからしょうがないか。
まず靴を脱ぎながら台所のついた廊下を見回す。
今日はそれはど散らかってないな。
さしずめ掃除してから十日目くらい?
コンちゃんはたまーにしか掃除しないから、ときには散乱したゴミで廊下が歩きにくいときがあるんだよね…
部屋に入ると紗綾がこたつに入っていた。
六畳の部屋にベットとこたつ。部屋の壁にはぐるり背の低いカラーボックス。
かなり窮屈な感じ。
でもこれはこれで落ち着く。
動物の巣穴感があって。
「佐太郎くん、先にやってるよ〜」と紗綾がハイボールの入ったグラスを振った。
「ういっす」
「佐太郎くん今日もおしゃれだねえ、それセ○リーのコート?」
「うん、そう」
「この前もセ○リー着てたじゃん、イラストレーターって儲かるんだね?」
「儲かんない儲かんない、食うもん始末して、小銭かき集めて服買ってる」って言ったら俺用のグラスとか割り箸持ってきたコンちゃんに「突っ立てないで早くこたつ入んな」と促された。
そして説教。
「佐太郎は顔は地味だけど背が高くて何着ても着映えするからさ〜、無理してそんな高い服着なくていいのに。
無駄な金使って…」
…趣味に給料全てをつぎ込んでるアンタにゃ言われたくないよ、と心のなかでつぶやく。
こたつの上には積み上げられた缶詰。
ちょっと缶がへこんだり、印刷がかすれたりした。
「佐太郎、好きなの取りな」と言われたので「じゃっ、まずはこれにする」と、ツナ缶を取る。
「よし、とりあえず乾杯しよう」と言うコンちゃんの音頭で乾杯。
俺も二人に合わせ飲み物はハイボールにした。
「コンちゃん俺白飯食いたい」といったら茶碗に山盛りよそってきてくれた。
それにツナを乗せ、マヨネーズかけ、仕上げに醤油をちょこっとかける。
で、かっこむ。
そして濃いめハイボール。
う、最高。
「コンちゃんは料理うまいなー」って言ったら紗綾が首をかしげた。
「佐太郎くん、どこにコンちゃんの料理がある?」
「白飯、白飯、これも立派な料理じゃん」
「佐太郎…なんかおちょくられてる気がするんだけど」とコンちゃんがムッとする。
「いやいや、コンちゃんの炊く飯はほんとにうまいって」
コンちゃんは飯炊く以外はできないのだけれど、飯炊けりゃ十分だと俺は思ってる。
その後はイワシの蒲焼きとか焼き鳥の缶詰を開け、酒を芋焼酎に替え彼女たちが今のめり込んでるロードレースのお気に入りの選手の萌え話に付き合い、紗綾の母親がやっているスナックで起こる小さな愛憎劇の話を楽しく聞き、満腹になった俺は少しうとうとした。
で、気がつけば、もうこんな時間。
そろそろ帰らなきゃ。
「コンちゃん、俺帰る」
「あ、佐太郎、デザート食べなかったね。杏仁豆腐の缶詰持って帰りな」
そう言ってコンちゃんはスーパーの袋に缶詰を3つ入れて持たせてくれた。
見れば紗綾はこたつで突っ伏して寝てる。
こいつは泊まっていくんだろうな。
ほんとは俺も泊まって行きたいけど、許可が下りないのはわかっているから、缶詰携えておとなしく帰る。
俺は玄関で靴を履きかけたんだけど、ふと、思いついて部屋に戻り一人ちびりちびりやってるコンちゃに聞いてみた。
「ねえ、恵子誰と結婚すんの?」
「あんたと別れる原因になった商社マン」
やっぱりそうなんだ。
「相手の…写真とかあったら見たいな」
「あるよ…ほら」
そう言ってコンちゃんは恵子と彼氏のツーショットのスマホの写真を見せてきた。
あ…?
これは…