自分語り
高野さんの私生活を聞いて少々驚く。
へえ、この人、旦那と別居してんだ…
子供もいるんだ。
独身かと思ってた。
いつも隙のない身なりしてるから。
ってか全然仕事の話になんないじゃん。
まあそれならそれでいいけど。
あー、なんか帰りたい。
女の話ってなんでこんなに本題に行くまでの導入が長いんだろう。
しかもなにやら一人で盛り上がって泣きそうになってるし…
面倒くさいことになると嫌だから少し釘刺しておこう。
「…高野さん、もしかして泣こうと思ってます?」
「は?」
少し萎れていた高野さん急にしシャキッとした。
そして目を少々釣り上げて「まさか」と言った。
「なら良かった、自分女の涙に弱いんで。すごーく弱いんで。
正直に宣言しましたよ?
これで泣いたら高野さん俺のこと誘ってるんだと判断しますよ」
「はああっ!?なにいってんの?一緒に仕事したよしみでちょっと愚痴を聞いてもらってるだけじゃない。
会社の人とかには後々のこと考えると愚痴れないし」
少し酔っている高野さんがプチッとキレた。
「木月くん、どーしてそう自信満々なの?」
少しワナワナした高野さんにそう聞かれた。
「自信満々?俺が?!」
「は?自覚ないの?」
「はい…ありません…」
「も、今までモテてきたんで女に不自由してないんすよ。悪いけど俺を誘わないでくださいネ〜オバさんって感じ。
ま、いきなり個室セッティングした私も悪いけどさ。
ね、そんなにモテてきたの?」
「いや、全然…」
「全然ってことはないでしょう」
「…」
「ちょっと、何考え込んでるのよ?」
考え込んでしまうよ…
「自分ではそんなこと思ったことはなかった。ただ…」
「ただ何?クソガキ」
少々酔っ払った高野さんに絡まれて、俺は自分語りをする羽目になった。
クソガキはないだろうと思いつつ。
クソだけど、ガキという年齢は過ぎてるからねぇ。
ん…でも今現在は親に色々世話になってるわけだから、年齢はいっていてもガキか…
「高野さん、クソガキの自分語り聞いてくれる?」
そう言って許可を取ってから俺は話し始めた。
男子校に通っていた時は、それを特に後悔していなかった。
ガーガー騒げるタイプではないし、得意なことがあってリスペクト集められるわけでもなかったし、政治力もないから群れの中での地位は高くはなかったけど、特別浮いてもいなかったんじゃないかな。
めんどくさかったけどそれなりに空気読んでフツーに生息していた感じ。
俺はどこにいてもこんな感じてしょ?と思っていた。
あの頃は。
けど専門学校に行ってから、女子のいる世界に入ってから、アレ?俺は男子校に行ったの間違ってたかな?と思うようになった。
自分から積極的に働きかけなくても、なんか結構女の子たちか寄って来てくれた。
したらそれにつられ男も寄って来るようになった。
男子しかいない世界からぬけたら人間関係が華やかになった。
それまでは一人でいるのが割と好きだったんだけど、人と遊ぶ楽しいさを知ったと言うか…
なんていうのかな。
女の子が寄って来てくれることで、男の世界での地位が上がったんだよね、俺。
それはそれでそういう実力があると認められた感じ?
だからトラブルになるときもあるけど、女の人は好きです。
好きだし得意意識あるかも。
うん…
幼稚園の頃は確かにモテてたかも。
昔すぎる?
専門学校時代、少しミスって仲間に外されかけたんだけど、そのときも最初に戻って来てくれたのは女の子たちだった。
そしたらそれに付随して男も戻ってきた。
ありがたかった。
強がってはいたけど群れから外れて一人で生きていけるほど強くはないので。
今は男子校に行ったのはもしかしたら間違いだったかな?と思ってます。
人間形成期に女の子のいる環境にあったら自分はもう少し気力のある人間になってたんじゃないかな?
そんな話をしたら高野さんがはっきり「ない」と言った。
「木月くんはどこで過ごしてもそんな感じに仕上がっていだでしょう」ときっぱり言い切った。
そんな感じってどんな感じ?って聞いてみたかったけど、耳に痛そうなこと言われるとやだからやめておいた。
自分ハート弱いんで。
高野さんとの食事はただあの人の愚痴を聞き、ちょっと自分のことを語り、そのあげくゆるくディスられて終った感が…
もしかしたら嫌われてしまったかもしれない。
いや、絶対嫌われただろうな。
もう次はないだろうなと思いつつもまた仕事があったらよろしくお願いしますと一応頭を下げて彼女と別れた。
ふう、とりあえずこれで人生の仕切り直し前にクリアしなきゃいけないことは終った?
後は部屋と引っ越し業者を決めるだけだな。
いや…あと一つ…あるか。
やるべきことが。




