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君は意外と  作者: CK
19/26

ミス

公園から部屋に戻ってズボンについたコーヒーの染みを抜きながら、コンちゃんと出会ってからのことをいろいろ思い出す。




専門学校の三年のときに俺はミスをした。


仲間内の女の子の恋愛の愚痴を聞いてるうちになんとなくそういう仲になってしまった。

彼女相手とは別れたようなことを言っていたので。


ところが彼女の相手には別れた意識がなく、向こうからすれば俺は彼女を奪った形になってしまった。

 

相手は俺と同じクラスのやつだった。

ヒエラルキーは向こうのほうが上。


なんとなく周りがアッチに配慮して俺に冷たくなっていった。


時期も悪かった。

みんな就活でイライラや不安を抱えているとき。


たまたま学生ながら採用された公共施設のシンボルマーク、それは当時美大の助教だった母親のコネがあっての採用だという噂が流れた。

そんなこともあって俺は仲の良かったやつらからなんか卑怯なやつみたいなレッテルをはられてしまった。

もちろんそんな事実はなかったのだけど。


二人だけなら今まで通り話す友達も、集団になると俺をゆるく避けるようになった。


そんななか全く変わらずにいたのはコンちゃんだけだった。

まああの人は集団の中の地位なんてどうでもいい人だからなんだけど。




「コンちゃんは俺を卑怯なやつって思わないの?」って聞いたら

「採用された作品見りゃわかるじゃん。シンプルでありながらインパクトのあるデザイン。佐太郎の実力でしょ。

デッサンはクソ下手だけど、抽象的なものになると力を発揮するよね?


それに莉子は雰囲気に流されるところがあるから、あんたの前では数馬と別れたって言ったの、想像つく。

アンタに奪略の意思はなかったでしょうよ…と言ってやりたいところだけど、ほんとは薄々気づいてたんじゃないか?

数馬とは完全には別れてないんじゃないかって。


多分莉子の色香やその場の雰囲気にやられたんだな?佐太郎。

卑怯っていうより女に弱いアホだな?アホ。ケケケ」と俺を褒めたりディスったりしたんだよな…


あの時、コンちゃんが俺の間抜けさを正面切って笑ってくたことでなんだか少し救われた気がした。


俺はもう開き直って特に言い訳もせず女に弱い卑怯なアホとしてふつーに堂々と過ごしてたら、卒業する頃にはみんなとはもとの仲に戻っていたんだよな…

ま、俺は多少の確執を感じているけどね。




あ、そういえばコンちゃん社長にプロポーズされたんだっけ。


断った後、会社に居づらくなってないかな…

あの子に気を取られ、コンちゃんのこと、全然気づかってやってなかった。


なんだか無性にコンちゃんに会いたい。

ただ会いたい。


その気持ちが抑えられず、急いで着替えて髪を結び直し駅に向かう。

コンちゃんの部屋に行くために。

連絡はしない。


なんか逃げられてしまいそうな気がするから。


コンちゃんの部屋の最寄り駅に着いたのは7時頃だった。

残業がなければ八時には帰ってくるはず…

一時間ほど駅前のカフェで時間を潰し、八時になったところでコンちゃんのアパートに向かう。


部屋の前で待っていたけど9時になっても10時になってもコンちゃんは帰って来なかった。 


うー女子しか暮らしていないこの古いアパートの通路で何時間も立ってたらストーカー認定されてしまうよ。


何回か外壁を塗り直しているからぱっと見わからないけど、、この建物は五十年くらい前のものだ。

昔ながらの2階建て全十室。

部屋までの通路が外にあるタイプ。

隣の建物と接しているこの通路は昼でも暗い。

コンちゃんは駅から割と近いけど、ボロさのせいで家賃が安いこの物件に学生時代からずっと住んでいる。


暇つぶしで見ていたスマホの電池も少なくなってきた。

もう帰ろうかな…通報とかされてしまう前に…と思ったときトントンと鉄の階段を登る音がした。

コンちゃんの足音だ!


コンちゃんは一番奥のコンちゃんの部屋の前に立つ俺を見てビクッとした。


「わ、佐太郎!ビックリするじゃん!何暗闇にたたずんでるんだ?霊かと思った!」


「いや、なんか急に会いたくなって。

…遅かったね。飲み会かなんかだった?」


「うん、まあ…」


そう言ってコンちゃんはガチャガチャ鍵を開けかけたけど途中でやめて「佐太郎、駅前のガ○トでも行くか?」と言った。


「いや、いいよ。部屋に上げて?散らかっててもかまわないから、いつものことだし」


「いやー、私も彼氏持ちの身。梨下に冠を正さずというか、瓜畑で轡を直さずというか…」


ん?


「彼氏持ちの身?」


なんだそれ。


「佐太郎、ガ○ト行こ?」


「いや、ここで話そう。

彼氏持ちの身って何?」


「佐太郎、顔恐いよ。

なんか年頃の娘を持つ父親みたいになってるよ?



いやーあんたに話すと笑われると思って言わなかったんだけど…

私、彼氏ができたんだよー」


「…会社の社長?」


「そう、よくわかったね。

いっきなりプロポーズしてきてさ、びっくりしたわー


いや、昔からよくコンちゃん結婚して〜とか言っていたけど、社長妻帯者だったから、独身だったら考えてやったんだけどな、とかわしてたんだけど…


この前コンちゃん女房とは性格の不一致で離婚した。だから結婚してーって言ってきたんだよ」


「…それで…付き合うことにしたんだ?」


「そうそう、いきなり結婚するわけにはいかないからな」


「杉野さんのこと…前から好きだったの?」


「いや、全然。でもとりあえず付き合ってやることにした。

ずっと独身だったら考えてやったんだけどな…っ言ってきたからね」


呑気に話すコンちゃんにわけのわからない怒りがこみ上げてきた。

スマホを持っていた手が震える。


「アンタがそんな人だとは思わなかった…

なんか…見損なった」


「へ?」


「男と付き合うようなコンちゃんとはもう絶交だっ!!」


「はあ…」


暗闇の中ひどく間抜な声を出したコンちゃんを残し、俺は全速力でアパートの階段を駆け下りた。カンカンカンと派手な音を立てて。



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