途方に暮れる
コンビニ前のベンチで途方に暮れる。
ふぅ…ここにずっと座っていたら、イケメンスーツ男がこの道を戻ってきたとき、憐れまれるな…
アンタ、杏奈に見捨てられたのがそんなにショックだったの?って。
ちゲーよ、俺は別のことでショックを受けているんだと心のなかで反論。
とにかく、帰ろう。
考え事はその後だ。
そう思って立ち上がりコーヒーカップ二つとティッシュをコンビニ内のゴミ箱に捨てに行った。
あの子が忘れていった薬局の袋はベンチにそのまま置いておいた。
悪いけど、届けてやる気にならない。
大丈夫だろ、ここは日本だし。
後で取りに来るだろう。
ああ、嫌だな。
俺がコンちゃんを好きだなんて思いたくない。
なんだか人類のタブーを犯してしまったような、後ろめたさや気持ち悪さを感じる。
足が重くて家までの道を一気に歩けなかった。
仕方なく途中の児童公園のベンチで一休みする。
家まではあと少しなのに…
夕方なので誰もいない。
普段も人いないけど、ここ。
幼児用の小さな滑り台とブランコしかない公園。
似合わないだろうな、自分には。
俺にも似合わないけどコンちゃんにも似合わない。こういう場所。
なんか人間がきゃあきゃあ楽しそうにする場所は似合わないのだ、俺たち。
だから遊園地やリゾート施設なんかには誘われても行かなかった。
みんなが卒業旅行で行ったグアムにも行かなかった。
コンちゃんと二人で鄙びた温泉でも行くかって?話になったけど、まあまあめんどくさがり屋の俺たちはそれを実行しなかった。
なんとなく根底の部分で似てるような気がしてた。
コンちゃんと俺は。
なんか身内のような気がする。だからこそ恋愛感情を持ってはいけないような気がしてた。
コンちゃんを初めて見たときのことはよく覚えてる。
それは専門学校の入学のオリエンテーション。
みんなどこか心細くて、早く気の合う奴探さなきゃってキソキソしている中、コンちゃんは全然そんなこと考えてる風じゃなかった。
ただ先生たちの説明をふむふむと聞いていた。
すうっと目が引き寄せられた。
美人だったのもあるけどなんとなく変な人の匂いがしたから。
そしてほんとに変な人だった。己の価値観を貫く。
だからあの人長い間学食で一人でメシ食ってた。
堂々とね。
だけど、なんとなくあの人の優しさや習性を周りが理解してきて、コンちゃんはゆるくみんなに受け入れられるようになった。
集団の中では無口で存在感のない人になってしまうけど、一対一で対峙したときのあの人の面白さや魅力にあがらえる人はいないんじゃないかな?
だからコンちゃんの友達になった人はすべてをコンちゃんに捧げてしまう。
あの恵子でさえそうだったもんなぁ…
俺と遊ぶことよりコンちゃんとの付き合い優先だった。
俺はコンちゃんを見るたびに女としてはないわ〜と思ってきたけど…
それは自分の心にブレーキかけるためのフレーズだったんだろうか。
だって好きになってもどうなるわけでもないし。
あの人は恋愛なんかするわけがない。
ありえないほどの清純派だから。
それに変な人だし。
…そんなふうに思っていた。
あれこれ考えるうちにあたりは夕日に染まり赤くくなっていた。
ああ、帰らなければ…
なんだか頭の中がコンちゃんのことでいっぱい。
さっきまであのお弁当屋の女の子の微笑みに喜びを感じていたのに。
…うん、君が俺と偶然出会って嬉しかったのは本当だろう。
俺のことをちょっぴり気に入ってるんだよな?
けどあいつの姿を見たら俺の存在なんかふっとでしまったんだよな。
わかるよ、その気持ち。今の自分がそうだから。




