問題点
「あっ!わっ…!」
その声に驚いて振り返った女の子は持ってたコーヒをこぼした。
それほど大きく彼女の体が揺れた。
コーヒーは本人のスカートを汚したし、俺のズボンにも少しかかった。
イケメンスーツ男はベンチの背もたれの後ろ、車道に立っていた。
多分向こうの歩道を歩いていて俺たちが目に入りこっちに渡って来たんだろう。
人がこんなにうろたえるのを見るの初めて…と言うくらい彼女はうろたえていた。
俺や鉄工所の若林さんなんかには絶対見せないであろう顔…
イケメンスーツ男は少しイライラしていた。
そして俺のことは完全無視して早口で彼女に話しかけた。
「急に明日課長の代わりに接待ゴルフに出ることになった。
福岡で。
だからゴルフバック取りに帰ってきた。
家で仕度してから羽田に向かう。一緒に参加する部長と待ち合わせてる。
母が旅行中だから猫を動物病院のペットホテルに預かってもらうようさっき手配をしたんだけど…
杏奈、猫をペットホテルに連れてってもらえないか?
部長との待ち合わせに遅れたくないんで」
「あ、わかった、連れてく」
女の子は俺の方を振り返りもせずに、一言も声をかけずに早足で歩く男の後ろをついていった。
必死で。遅れまいとして。
…なんだ?この展開。
「アレ絶対仮病だ、面倒くさい客はみんなこっちに振ってきて腹立つ…」
何やらぐちめいたことを吐き捨てるように男は言ってる。
その後ろ姿が…
すがるように後を歩く女の子を連れた後ろ姿が…
なにか、勝ち誇っていた。
俺に対して。
ムカつく。
馬鹿じゃないか?
そんなダサい女連れてなに喜んでんだ?
俺は別にその子のことそこまで好きじゃないよ?
お前に勝ち誇られるほど。
俺にはちゃんと好きな女がいるんだから!
そう叫びたかったけど…
俺は黙って一人ベンチに座ったまま二人を見送った。
しばらくしてから女の子の置いていった倒れたコーヒーカップを拾い、ベンチに少し溢れたコーヒーをポケットから取り出したティッシュで拭く。
あー自分なんか人間性低いなと反省しながら…
そんなダサい女連れて何喜んでんだ?ってやなセリフ。
仮にもここ数ヶ月俺に楽しみを提供してくれた子をこんなふうに蔑んで…
…
…
…
あ、れ?
そこじゃないよな?
問題点は。
え?
は?
何?
俺にはちゃんと好きな女がいるんだからって…
誰…
俺に問う。
木月佐太郎よ、お前の好きな女って誰?
…
…
…
はあぁ〜絶望…
あの人しかいないよな。
紺野美々。
通称コンちゃん。




