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君は意外と  作者: CK
15/26

コンちゃんの一大事

「おまたせ」と言ってコーヒー一つもって佐太郎くんの座ってるカウンター席の横に座る。


「紗綾、以外だった。人に胸見られるのすごく嫌がるのに、よく客商売に就いたね。

お母さんのスナックも絶対手伝わないと言ってたのに」


「お金欲しくてさ」


「お客さんにジロジロ見られない?」


「それがっ!見られないんだよ!

なんかお客さんたちデリケートないい人ばかりで、向に座っても視線を泳がすの。

遠くの席の人はチラチラ見たりするけど、すごく遠慮がち。


道行く人のほうがよっぽど遠慮やデリカシーがない!」


「へぇ…オタクのほうが礼儀をわきまえてるんだ」


「佐太郎くん!メイドカフェのお客さん=オタクって考えは間違いだよぉ!


…まあ私も働く前はそう思ってたけどさ。

店に来るのほんとにふつーの学生とか会社員多いよ?」


「会社員ってどういう職種?」


「幅広いよ〜全職種網羅していると言っても過言ではない。公務員もいるし、けっこう女の子も来る。みんないい人だよ〜」


「へえ、そうなんだ、ところで紗綾、コンちゃんの身に起きた事件って何?」



そうだった…この人、違う話で人の口を滑らかにしといて、サクッといきなり核心について来るという会話技術の持ち主だった。


ふう〜


話すよ…

話しますよ。

ショックを受けてもしらないぞ〜




「実はさ、コンちゃんプロポーズされたんだよ」


「ブッ…あっはっはっ!!」


私はなんとなく佐太郎くんの顔色が変わるんじゃないかと思ったけど、彼は大爆笑した。


その声の大きさに後ろの席の高校生グループが驚いて振り返るほどの大声で。

この人こんな大声出せるんだ。


「な、な、なにそれ。誰に〜」


…まだ笑ってる。


「コンちゃんの勤めてる会社の社長」


「え?あそこの社長って既婚者じゃなかったけ」


…まだ笑ってる。


「最近離婚したらしいよ」


「あーそういえば社長コンちゃんが入社したときからコンちゃんがお気に入りみたいだったな…

物好きなヒトいるーと思っていたけど、プロポーズ?

コンちゃん社長と付き合ってたの?」


「いや、付き合ってはいなかったんだけどいきなりプロポーズされたらしい」


「でしょうね、あの人が男女交際ができるはずがない」


なぜそこまで言い切る…


私が再び口を開こうとしたとき、佐太郎くんが手元に置いてたスマホが鳴った。


「紗綾、出ていいかな?」


「あ、うん、佐太郎くん、電話出て」


こういうところ常識的だよね。この人

なんの遠慮もなく当然のように電話に出る人も多いのに。

かすかに育ちの良さを感じる。




「もしもし。


うん、今友達と出先。


あー、うん…まあいいけど


わかった。


はい、じゃ」




佐太郎くんは電話を切った後紗綾ごめん、親がうちにくるって言うから帰ると言った。


なんか佐太郎くんのお母さんお父さんとケンカして佐太郎くんの部屋に泊まりに来るらしい。

わりとよくある事なんだよ、と佐太郎くんは言っていた。


マ○クの前で佐太郎くんと別れ、後ろ姿を見送る。

重要な部分が話せなかったなと思いながら。






部屋に入ったら母親はもう来ていた。


親が部屋に来るのを歓迎できる男子ってどのくらいいるんだろう。

でも俺は文句言えないよな。

この部屋は母親の部屋で俺は格安の家賃で住まわせてもらってるんだから。




「佐太郎、悪いわね」とダイニングで壁に向かって置かれたソファーに座り壁にかけたテレビを見ていた母親は俺が部屋に入ると振り返りそういった。


「いや、居候はこっちだから…

それに母さんに話があったからちょうどいい」


「何?話って」


「兄貴に独立そそのかすのやめてくれない?」


「…別にそそのかしてなんかいないわよ。

ただ独立するなら資金援助するわよって話しただけで」


「…兄貴独立する必要ないじゃん。

名の通ったデザイン事務所に勤めてるし、あの人俺と違って処世術にたけてるから組織のなかで働くの苦にならないし、そこそこの仕事まかされてるし…


ねぇ、母さんや父さんが兄貴に独立させたがっているのは俺のためだろう?

俺のセーフティネットとして兄貴に会社作らせようとしていない?」


「考えすぎよ…」


「そう…

ならいいけど。

この前兄貴に話し聞いたとき、てっきり俺が仕事取れなくなったとき食ってけなくならないように兄貴に会社作らせて俺をそこに入れようとしてるんだと思った」


「バカね、佐太郎」


「俺は木月家の皆さんほど芸術家気質じゃないから、絵やデザインの仕事にこだわらないよ。

仕事来なくなったら、生きて行くために職種にこだわらず他の仕事探すから」


「心意気はわかったわよ…世間知らずの末端芸術家さん」


カチンときた。

この母親の言葉に。


けど、激しくは言い返さなかった。

なにせ俺は未だに親のスネを齧っている弱い立場。


「いやみったらしいな…


母さん、セーフティネットはいらないけど、今日の飯は食わせて。

古い商店街にある居酒屋がわりとリーズナブルで美味しいってコト発見したんだ。

店はクソ汚いけど。


行かない?」


そう言ったら母親は「行く」と言い洗面所に化粧を直しに行った。


親父と何が原因でケンカしたのかは聞かない。

話してるうちに怒りが再燃してしまうだろうから。


そしてその日は商店街の居酒屋でいつも以上に大量注文してバクバク食べて飲んだ。


金がなくてもう3日もご飯食べてなかったんですよぉ、と言わんばかりに。

そしてお会計時にご馳走さまと頭を下げる。


親にとってはそのままでも充分心配な末っ子だろうけど、さらに演技を重ねだめ人間を装う。


ああ、図体は大きくてもいつまでたっても子供で…

この子は私達無しで生きていけるのかしら…と思う子がいるからウチの両親は夫婦の形を保っていられる。

…多分。




そんなこんなんで俺は紗綾から聞いたコンちゃんの身に起こった事件についてはすっかり忘れてしまっていた。


翌日母親が帰ってからちょっと思い出したけど、どーせ断るだろうしとたいして気にも留めなかった。


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