メイドカフェ
佐太郎くんは知っているんだろうか。
コンちゃんの身に起きていること。
なんとなく聞けばショックを受けるんじゃないかと思う。
少し面倒くさいからバッティングを避けるために当分コンちゃんちに行くのやめよ〜
そう思っていたのになぜ会うう!
こんなところで!
「紗綾、何してんの、こんなところで」
「見てわかりませんか、ご主人様」
「…よく雇ってもらえたね…
メイドカフェって若い子しかいないメージだったけど…」
「はい、多分この胸のおかげです、ご主人様。
私も意外です。ご主人様はサブカルお嫌いかと思ってましたので」
胸を小さくする手術代を稼ぐために土日バイトし始めたメイドカフェに、まさか佐太郎くんが来るとは…
「うん…メイドカフェの潜入レポみたいな仕事もらったんで…」
なら秋葉に行けよ。
なんでこんなマイナーな場所に来るんだ。
あ、佐太郎くんの書いてるタウン誌この界隈発行のやつだったか…
「あのさ〜コンちゃんには内緒なんだ…このバイト。
悪いけど、黙っていてもらえるかな…ご主人様…」
「うん、コンちゃんメイドやってることは怒らないだろうけど、その目的については怒るだろうからね。親にもらった体に傷つけるなって。」
うっお前も勘がいいなっ!
「言わないからさ、教えてくれる?」
げっ、なや予感。
「コンちゃんに起こった事件。紗綾は聞いてるんだろ?」
来たー
「ご自分でお聞きになったらいかがですか?ご主人様」
「…なんか、はぐらかされちゃうんだよ。あんまりしつこく聞くと嫌われちゃうじゃん。ここんとこ既読スルーされちゃってるし」
「と、言うことは話したくないってことじゃんね?そこは察したら?佐太郎くん。じゃなくってご主人様」
私はそういったんだけど、佐太郎くんはにーっと笑って「教えて?」と顔を近づけてきた。
チッ
こいつ脅迫してやがる。
私が黙ってようと思ったのはあんたのためなのに。
しょうがないなあ…
「ん、今仕事中だから…駅前のマ○クで六時に待ち合わせよう」
「わかった」
その時先輩メイド(十年下)に「プリンちゃん!」と呼ばれた。
そして観葉植物の影で注意された。
「お客さんとの交際は禁止だよぉ」と
最後の方の会話を聞かれていたみたい。
面倒くさいから「アレ彼氏なんですよぉ〜私が心配で偵察に来たみたい。二度とこないように言っときますから」と言っておいた。
これで佐太郎くんはこの店の出入り禁止リストに乗るだろう。
へっ、いいか二度とここにくるなよ!
駅前のマ○ド○ルドで紗綾を待つ。
六時まで二時間…長いな。
いいや、ここでイラストの下書き書いてしまおう。
通りに面したカウンター席に座り、メイドカフェの店内のスケッチと4コマ漫画の案をいくつか描き終えてスマホを見たらまだ五時少し過ぎたとこだった。
店内は若い子のグループで溢れていた。
うるさい…
でも文句は言えないよな、ここはあの年代の子たちのために用意された場所だから。
カウンター席から透明のガラス越しにからボーッと外を眺める。
紗綾のメイド姿を思い出しながら。
意外に似合っていたじゃんね?メイド服。ニーハイソックスも。
ツインテールはいただけないけど。
クスクスと思い出し笑いしている時ふと、なぜか急にあのお弁当屋の女の子の顔が浮かんだ。
さらさらっとスケッチブックにあの子がメイド服着たイラストを描いてみる。
プッ
似合わね〜
狸がメイド服着てるみたいだ。
なんかあの子には冬によく着ていたダサいダッフルコートや最近よく着ている黄緑っぽいカーディガンがよく似合っている。
ってかそれ以外は似合わないんじゃないかってくらい似合ってる。
ああ、そうやって考えれば…
あの子はちゃんと自分に似合う服を選んで着てるんだな。
俺は常々イケメンスーツ男も、もう少しセンスのいい服を彼女に選んでやりゃいいじゃんなんて思ってたけど…
イケメンスーツ男もわかってんだな、あの子に何が似合うか。
ハハ
何を見ても考えがあの子につながってくな。
かわいくない?俺。
まさか三十にもなってこんな純情なところが残っていたとは。
なんか男子中学生みたいだね?




