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君は意外と  作者: CK
13/26

スケッチブック

満腹。

眠くなる。


ダメだと言われるのを承知で申し出る。


「今夜泊めて」


そしたらコンちゃんはこう言った。


「選ばせてやろう、今夜泊まって、この部屋の出入り禁止になるか。今日は帰ってまたここに遊びに来る権利を保持するか」


これ、いつも言われる事。


「帰りまーす」


そう言うしかないよね?


髪を縛り直し帰り支度をする。


「紗綾は泊めるくせに…」


不満を口にしながら靴を履いていたら「お前は女子か?」と言われた。


ふん。

あ、でも一応男として認めてくれてんだ、俺のこと。

ハハ、コンちゃんは俺にとってオンナじゃないけどね〜と思いつつ「じゃあ、また」と言って部屋を出た。




う…食いすぎた。


帰りの電車の中で少し気持ち悪くなる。

コンちゃんといるとタガが外れてしまうな…


…ほんとはコンちゃんに相談したかったことがあったけど…言えなかったな。


それにコンちゃんのちょっとした事件も聞けなかった。

話は終始お弁当屋の女の子とイケメンスーッ男の話で終わってしまった。

コンちゃんが面白がって聞いて来るから。


ん…もしかしてはぐらかされた?




マンションの最寄り駅に着いたのは11時過ぎだった。


あーなんかコーヒー飲みたいかも。


俺は駅前のコンビニで買ったり、編集者にもらった豆で家でコーヒーを入れることを選ばず、あの商店街のコンビニにコーヒーを買いに向った。


そうそう偶然に恵まれるわけもなく、商店街の道にもコンビニにもあの子はいなかった。


コーヒーを買ってコンビニ隅のイートインコーナーで飲む。

店内に客はなく、ぽつんと俺一人。


ちょうど勤務が終わった若い店員が、店を出るときチラとこっちを見て会釈した。

つられてこっちも会釈する。


どこの国の子かな?

そんなに色黒ではないけれど、日本人でないことは確か。


二十歳くらい?

細い目と暑い唇がアンバランスな顔立ち。


昔はそうは思わなかったけど、ほんと、若い子って顔の造形に限らずかわいいよな。


うーん…

なんだか本格的にあの女の子に会いたくなってきた。

店員さんの顔見てあの子の厚い唇思い出してしまった。


野暮ったさにごまかされているけどれは小悪魔の一種だ。


なんとなく下に見て気楽に話しているうちにいつの間にか立場が逆転。

何とかして彼女に会えないかな…なんて思ってしまっている。

会いたさにせっせっとお弁当屋に通い、夜の商店街をぶらつく。


会えれば向こうの気分で話やお茶をご一緒させていただける。

向こうが忙しかったり気が乗らなかったりするとちょこっとだけ微笑んでもらった後はスルー。


完全に下じゃん、俺?


それにしても…前に、なーんで夜の散歩を戒めちゃったかな?

大人ぶって。

良識と下心を秤にかければ下心が勝ってしまう今日の俺。


なんかみっともなくない?

人様にはおしゃれ男子みたいに言われるけど。




実は打診されている仕事がある。


大人のおしゃれ男子の日常エッセイマンガを書かないかと。

『どーでもいいじゃん、そんなこと』の担当者に。


いっぱいエッセイマンガ出てるけど、ブログ発だったり、ほとんど女子向けじゃん、俺が書いたもんなんか男には読んでもらえないと思うよと言ったら、大人女子に読ませる大人男子の日常のエッセイマンガを作りたいと言われた。




「木月さんの絵なら女子に受け入れられると思う。

イラストレーター自体おしゃれな職業だし、木月さんはセンスのいい暮らししてるし…服も、住まいも。

それに育ちもいい。


たまに話してくれる日常も微妙に面白い。

ううんと面白いんじゃなくて微妙に面白いところが良い。

笑える面白さじゃなくて、味のある面白さ。


書いてみない?あなたの日常をあなたの感性で」




そう言われて俺は恥ずかしくなった。

俺は全然おしゃれじゃないよ、人として、男として。

だって何もかも親がかりなんだから。


暮らしてるデザイナーズマンションも、舞い込んでくる仕事も、ガッツリ家族の世話になっている。


自力では今の暮らしは成り立たない。多分。

いや、絶対。


自分の著作があるのは経歴にプラスになるし親も喜ぶだろう。

今後仕事を取るのも楽になる。きっと。


けど決断できない。


アラフォー担当者のゆるい女としての好意を感じでしまったことも理由の一つ。

純粋に感性を認めて打診してきてるのか?と疑問を持っている。


まっ、俺の勘違いかもしれないけど。

はは、勘違いだったらそれもまた恥ずかしい話。




コンちゃんに相談したら、コンちゃんはなんて言っただろう。


俺は魔窟に点在していたスケッチブックの多さを見たらコンちゃんに相談するのがはばかられた。


なんだか、申し訳ない気がして。

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