表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は意外と  作者: CK
1/26

真夜中の商店街

夜中、人気のない商店街で泣きながら歩いている女の子とすれ違った。


うーん。

どうする俺。

声かける?スルーする?


カワイコちゃんにはなんか声ってかけづらい。

けど今すれ違ったのは普通の、ごく普通の女の子。

二十代前半…くらい…なのかな?


ん?あれ?あの子どこかで…

ああ、たまに行くお弁当屋の女の子だ…


はい、スルー決定。

顔見知りならそれが思いやりってもんだろう。

後々気まずくなっちゃうもんねえ?


ふ、女が泣きながら歩くなんて、失恋でもしたか?

あんな地味な子もちゃんと恋愛してたのか、なんてベタなことを考えながら歩く。


しばらくして足が止まる。


う…ん…でもなんか気になる。

ちょっと見守るか。時間が時間だし良くない輩に目をつけられてもいけない。


そう思い方向を変えて少し距離を置いて女の子の後をつける。


ここは昔ながらの商店街。

夜だからコンビニと小さい居酒屋以外のシャッターが閉まっている。まあこの商店街は昼でもシャッターの閉まっている店がちらほらあるんだけど。


女の子は150メートルほどの商店街を端から端まで行って戻って、東寄りのシャッターの降りたお弁当屋の入った小さいビルの横の階段を登っていった。


ふうん、あの子従業員じゃなくてこの店の子だったのか。

それとも住み込みで働いてるのかな?


泣きながら歩く…じゃなくてなんか泣くために歩くって感じだったな。

ただ商店街を徘徊。


ま、安全っちゃ安全だもんな。

ほとんどの店のシャッター降りてるけど、防犯カメラも設置されてるし、街灯もある。


はいはい、見守り完了。

ここで突っ立てっいたら俺が不審者だよ。




夜中に無性に肉まんが食いたくなって商店街の小さなコンビニに行っただけなのに、思いがけず長く外の風に当たる羽目になってしまった。


う〜サブ。

ふ〜とついたため息が真っ白になった。

2月って体感的に一年中で一番寒いよね?

風邪引いちゃうよ、俺もやしっ子だから。


はは三十にもなってもやしっ子はないか…


今来た道を戻り商店街の終わった西の端を右に曲がり小さい児童公園を越えて自宅マンションに向う。


マンションについてからは周りに植わった木のあいだあいだに設置れた証明が照らす七階建ての建物を眺める。

建物自体はとても無機質な感じがするコンクリートのマンション。

だけど周りの木々とそこを抜けてきた光が、この建物に生命力を与えている。


こうして眺めるのが夜マンションに入る前の習慣。


エントランスでオートロックを解除してエレベーターに乗り三階の自分の部屋に到着。


一応1K。

六畳ほどの狭いダイニングキッチンにはダイニングセットではなく二人用のソファーとローテーブルを置いてある。シンクと反対側の壁にはテレビが架けてある。

つまりここが事実上うちのリビング。


ソファーに座って肉まんの袋を開ける。


うえっ。

冷めてる上に皮がべちょべちょになってる。


チンしようか迷ったけどそのまま食べた。

チンしたらもっとぐしょぐしょになりそうな気がしたから。


う…

まず。

皮の食感が最悪。


やっぱりチンすれば良かったと思いながらウオーターサーバーからカップにお湯をくみ、飲む。

ただのお湯だけど美味い。


温度は味の一つだよななんて思いながら肉まんを完食して手を洗い奥の部屋に移る。


描きかけのイラスト仕上げちゃわなきゃと思うもののなんかまずい肉まんのせいでテンション下がってパソコンに向かう気がしない。

っていうかもともとなんか集中切れちゃったから肉まん買いに出たんだよな。


十畳ほどの寝室兼仕事部屋にはベットと本棚、パソコンや画材を置いてある作業台しかない。

その他のものはウォークインクローゼットにしまい込んである。


俺は細々とイラストレーターをやっている。

今やってる仕事は児童書に載せる漫画っぽい挿絵。

教科書とか手がけられるといいんだけれど、そこまでの実力とコネはない。


母親は美大の美術史の教授。

兄貴は俺よりもう少しメジャーな仕事にありついているイラストレーター。

父親は建築士で小さい設計会社の社長だ。


まあ、芸術一家と言えなくはない。

その中で俺は最下層かな?


クシュ。


あーやべ、風邪ひいたんじゃないか?

自分の欲望が抑えきれず肉まん一つ買いに行ったがために。


ダウンを脱いでベットに潜り込む。

もう今日は寝る。




…そう思ったんだけど、さっき見た光景が目に浮かんでなんか眠れなかった。

丸顔が際立つ中途半端なおかっぱで白のオフタートルにデニム、その上に黄色味の強いベージのダッフルコートを着て歩いていたあの女の子。


あの子…

名前なんって言ったけな…

前に少し話した時、聞いたことがある。


なんか本人と名前に差があるなと思ったんだよね。

えーっとなんだっけ。

確か…

確か杏奈あんな

そう、杏奈だ杏奈。


うん、やっぱりあの子に似合わない。

どっちかって言うと典子とか恵子とかいう感じ。


はは、恵子は俺の元カノの名前だっけ。

フリーランスのイラストレーターを捨てて合コンで知り合った商社マンにサクッと乗り換えた。


しかし、あの子…

なんで真夜中に泣きなら歩いていたんだろう。

泣いてた…よな?うつむいて。

振られたてのほやほやだったとか?

親しい人が亡くなったとか?


なんとなく好奇心が働く。

明日、あの子の様子を見にお弁当屋に行ってみようかな?


週一で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ