それでも蛇に逢いに
休みの日は、蛇に逢いに
駅前のコンビニの隣のホテルへゆく。
そんなに派手な感情ではなく、
しん!
とした水平な心の波を数え、
偽りの取り分をもう一度真実にしたい羨望。
心が欠けた夜を、昔から
宝島からのように走って逃げてきた
過度な僥倖など不要であると、知り、
みせかけでない幸せを怖いと言いきって。
あの蛇は、ぼんやりと喜んでいる気がする
私は儚げな妖精を教わり、
黒いベッドの上に転がる奇妙な夢を、
かたむけてしまうんだ。
そして最後で最後の正しい幕引きを
鬼畜の如き、鬼女の如き、罪深き化粧をして
おもむろに切り出すのだ。
駅前のコンビニの隣のホテルで、
なにもしないことは、白い約束。
私には、
かけがえのない情念があるから、
けっして終わらそうとしないかもしれない。
道に倒れた人を助けあげ、
あらたな同一性を押しつけるかもしれない。
扇情的な夢だって、もう、みやしないというのに。
どこも痛まない、強さをあけっぴろげに披露する、
物語は、まだ終わらないから、
きのうウソだろと二度見した、
大きさの美しい揚羽蝶を見た。
おそらく、地獄の住人だろう。
ただ静かな夢の中に
いつまでも一匹で翔びつづける
哀しい匂いがする幸せの形だった。
それを寂しげに見上げ続ける蛇に、
視線を吸い寄せられる私は、
いったいなにをほしがってるんだろう。




